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君に捧ぐ魔法  作者: 秋茶
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第1話 血と誓いの王冠

はじめまして、作者のあきちゃです。


この作品『君に捧ぐ魔法』は、魔法と戦乱の世界を舞台にした、切なくも壮大な純愛物語です。


主人公のアリアは、幼くして皇帝となり国を導いた少女。

そして、彼女を想い続ける隣国の王子・ルイ。

運命に引き裂かれながらも、ふたりは「最後の魔法」で絆を結びます。


長年温めてきた物語を、ようやく形にすることができました。

ゆっくりの更新になりますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


※この作品はファンタジー×恋愛×戦記要素を含みます。

アストリアン暦942年、秋。深夜の王宮は静寂に包まれていた。

だが、その静けさは、突然破られる。


王宮の正門が破られ、黒装束の兵たちが雪崩れ込む。

護衛兵たちが剣を抜き応戦するが、敵兵は容赦なく火矢を放ち、容赦なく斬り伏せていく。

火の手が上がり、王宮の中庭を朱に染めた。


その頃──離れの屋敷で眠っていたアリア・クラリエル(愛称:アリ)は、遠くから聞こえる怒声と剣戟の音で目を覚ました。

胸騒ぎに突き動かされ、ベッドから飛び起きる。窓の外に見えたのは、燃え上がる王宮の一角だった。


「父上…??」


躊躇うことなく、寝間着のままアリは窓から飛び出し、王宮へと走った。

途中、血に濡れ倒れた兵の姿が視界に入り、その光景が幼い彼女の胸に深く焼きつく。


そして──玉座の間。

そこには、血の海に沈む皇帝夫妻と、倒れ伏す重臣たちの姿があった。


「父上…!! …母上!!!!」


「ア…リ…」

瀕死の皇帝ヴィラードが、かすかに身体を動かし、娘の名を呼んだ。

アリは駆け寄る。敵兵がその動きを阻もうとしたが、すべての攻撃をかわした。


「父上…!!」

「……逃げ……ろ……」


血に染まった父の体を抱き起こそうとするが、あたりは赤黒い血だまり。

アリは絶望し、一瞬、頭が真っ白になった。


「……セ……ラ……」

ヴィラードが妻の名を呼ぶ声で、アリは我を取り戻す。


(母上――!)


父の少し離れた場所に、母の遺体が横たわっていた。

アリは駆け寄り、膝をつく。

……触れずともわかる。すでにこと切れている。


「は……母上……」


これは夢か現実か。思考が麻痺していく。


そのとき、奥の影で声が響いた。

『……息子がいるはずだ。探せ』


アリは息を呑んだ。弟・カイン――。

まだ敵の手には落ちていない可能性がある。今、何よりも優先すべきは彼の保護だ。


(カインを……母上と一緒にいたはず。……見つける。奴らより先に!)


アリは玉座の間を見渡し、敵兵と重臣たち、そして父母の亡骸を目にする。

決意し、即座に動こうとしたその瞬間――


「貴様も王族か? 娘がいたとは聞いていないな。だが、死んでもらおう」


指揮官が手を振り上げると同時に、黒装束の兵たちが一斉に飛びかかってきた。


――そして、その瞬間、空気が変わった。


アリの身体が光に包まれる。

風が巻き起こり、彼女の髪がなびく。

放たれた光が兵たちに直撃し、敵は一斉に地に崩れ落ちた。

全員、気を失っている。だが、命は奪っていない。足元には、見たことのない魔法陣が浮かんでいた。


(これは……古の魔法……?)


「ぐっ……」

指揮官が後ずさりする。


古の魔法。それは伝承で語られるだけの存在で、実物を見たのは初めてだった。

アストリアン皇帝に娘がいたことも、その娘が古の魔法を使えるなどとも聞いていない。


「……想定外だ……!」

勝ち目はない。そう悟った指揮官は、撤退の指示を出そうとした。


だが、その前にアリが動いた。

彼女は一撃で指揮官を叩き伏せる。命は奪わない。彼から情報を得るためだ。


(こんな少女に……)

指揮官は意識を手放す直前、そう呟いた。


ようやく、アストリアンの警備兵たちが駆け込んできた。


「陛下……!!!」

「陛下ーー!!」


惨状を前に、兵たちの表情が凍りつく。

しかしアリは、すでに次にやるべきことを見据えていた。


「カインは!? カインはどこにいるの!? 探して!!!」


「アリア様! カイン様は、ゼノ様が保護されました!」


(ゼノが……)


姿が見えなかった彼が、アリと同様に異変に気づいてカインを守ったのだろう。

ならば、まずは安心できる。


アリは深呼吸し、次の指示を出した。


「その者たちを拘束し、尋問を」


兵たちは戸惑いつつも、「はっ!!」と答え、命令に従った。


突然皇帝夫妻を喪った今、アリは“皇女”でしかない。

だが、彼女の中にあったのは迷いではなく、明確な「意志」だった。


✦ ✦ ✦


襲撃から一夜が明け、王宮内にはぴりぴりとした緊張が張りつめていた。

『新環の間』にて、帝位継承評議会が開かれようとしていた。

重臣たちの列の中には、アリアの姿もあった。


中には襲撃で重傷を負った者もいたが、アストリアンの行く末を決める重大な会議とあって、多くの重臣が痛みを押して出席していた。


宰相である老臣、セラフィム・ローデンが口を開いた。


「お揃いですな。

昨夜の襲撃に関しては、現在詳細を調査中ですが……ご崩御されたヴィラード陛下に代わり、新たな皇帝の選定と即位を速やかに執り行いたい。」


「しかし、ヴィラード様は皇太子を指名しておられなかった……」

「新皇帝といっても、カイン様はまだ二歳……どうするおつもりだ」

「他に継承権を持つ者は……」


重臣たちは次々と懸案を口にした。


セラフィムが静かに言った。

「……おられます。正当な継承権を持つ者が、カイン様の他にもう一人。――アリア様、いかがかな?」


広間がざわめいた。

人々は顔を見合わせながら、思い思いの意見を交わす。


「アリア様……!?」

「確かに、ヴィラード様の第一皇女であり、継承権に問題はないが……」

「しかし、まだあまりにもお若い……」

「ヴィラード様は、カイン様を帝位に就けることを望まれていたのでは……?」

「この国の命運を、子供に託すのか!」

「それを我々が支えればよいのではないか……?」


視線がアリアに集まる。

だがアリアはすぐには答えず、沈黙を保った。

それは無視ではなく、――まずは皆の声を聞こう、という意思表示であり、

彼女の意図は皆に伝わっていた。


継承権があることは理解していても、幼い子供を皇帝に立てるという決断には、

誰もが慎重にならざるを得なかった。

それだけ、国の未来を本気で案じていたのだ。


セラフィムが再び口を開いた。


「皆の懸念ももっともです。アリア様はまだ年若い。

ですが、私はアリア様の才覚をこの目で見てまいりました。

昨日の襲撃における事後の収拾は、アリア様の指示によって行われました。」


ざわめく広間。


「アリア様が敵を食い止めていなければ、我々は今ここに座ってなどおられなかったでしょう。

ヴィラード様がアリア様を公の場に出されなかったのは、

その才を、他国に見抜かれることを恐れたがゆえであります。

年若き者が帝位につく例は、歴史上いくらでもある。

だからこそ、我々が支えるのです。」


重臣たちは「そうか……」「しかし……」と小声で意見を交わしはじめた。


そのとき、セラフィムが静かに再度問う。


「……アリア様。いかがなされますか?」


アリアは席を立ち、セラフィムに一礼し、静かに口を開いた。


「セラフィム殿、ありがとう。皆の懸念は理解しています。」


ゆっくりと、しかしはっきりとした強い意志のこもった声で語る。


「私は王位継承権を持つ者として、この国を守り、導く責任があります。

もし私が継ぐことになれば、今後五年以内に、国を必ず安寧と平和へ導くと約束します。

そのために、皆の手を貸していただきたい。」


重臣たちは息を呑み、アリアの続く言葉に耳を傾けた。


「しかし、父上はカインを次の皇帝とすることを望まれていたのも事実です。

その遺志を無視することはできません。

だから、私は――カインが即位できる年齢になるまでの“中継ぎ”として、帝位をお預かりします。」


「……皆、いかがでしょうか」


その姿に、重臣たちはふとヴィラードの面影を重ねた。

幼き少女の中に、決意と気高さが宿っていることが、誰の目にも明らかだった。

それは「幼いこと」への不安を一瞬にして打ち消すだけの説得力を持っていた。


また、礼儀と血統を重んじるアストリアンにおいて、

“カインが継ぐまでの中継ぎ”という条件があれば、問題はない――

そう、誰もが納得し始めていた。


沈黙ののち、セラフィムが立ち上がる。


「アリア様の決意に、反対の意はありません。

宰相として、アリア様のご即位を承認いたします。」


次いで、一人、また一人と重臣たちが立ち上がり、

片膝をつき、最上級の礼をもって賛意を表した。


「アリア様の決意に、心からの敬意を。」

「我ら、そのお力となりましょう。」


セラフィムは、目を細め、微笑みながらアリアを見た。


「……決まりですな。」


✦ ✦ ✦


皇帝崩御の知らせは、翌日には国中へと流布された。

民は深い悲しみに沈んだが、それでも日常は変わらず続いていた。


皇帝は病死した――それが民に伝えられた公式の理由だった。

民衆の多くは、それを疑いもせず信じている。


アリの即位が決まった翌日、戴冠式はひっそりと執り行われた。

本来なら広場にて盛大に開かれるべき式典である。

だが今回は異例中の異例。あまりにも幼い皇帝の即位は、新たな不安を生む可能性があったため、

出席者はアリと限られた重臣のみ。静寂の中で行われた戴冠は、まさに国の継承という儀式だった。


この即位を受け、国内には以下の詔が布告された。

―――――――――――――――――――

先帝ヴィラード崩御す。

皇女アリア・クラリエル、帝位を継ぐ。

帝は敵を退け、国を救いし者なり。

これより我らの皇とす。


アストリアン歴九四二年 四月八日 

宰相 セラフィム・ローデン

―――――――――――――――――――


アリは執務室の窓辺に腰を下ろし、

襲撃によって破壊された王宮の一角を、じっと見つめていた。

崩れた外壁はすでに修繕が始まっており、作業音が遠くに響いている。


『こんなかたちで、帝位を継ぐことになるなんて……

 父上、母上……』


アリは心の中でそっと語りかけた。

思えば、まだ一度も泣いていない。

襲撃の夜は衝撃が強すぎて、何も感じられなかった。

その後は、即座に動くしかなかった。指示を出し、混乱を鎮め、国を立て直す。

悲しむ時間など、どこにもなかったのだ。


そして今――

“皇帝”となってしまった今では、なおさら泣いている場合ではなかった。


そう自分に言い聞かせることで、強くあろうとする気持ち。

それは決して虚勢ではない。けれど、まだ七歳の少女にとっては、あまりにも重い。


執務机の近くには、ゼノが黙って控えていた。


「両親が亡くなったのに、泣かないなんて……非情だと思う?

 ……本当は、悲しいはずなのに。涙が出ないんだ。」


アリはぽつりと呟いた。問いというより、自分への確認のような声だった。


ゼノは少し間を置いて、いつもの落ち着いた声で応えた。


「いや。

 今は、皇帝としての重責を背負ってるからこそ、泣く暇もないだけだろう。

 ……そのうち、ちゃんと悼める時がくるさ。」


『……やっぱり、そう言うと思った』

アリは、心の中で小さく微笑んだ。


ゼノは決して、アリを否定しない。

どんなときも肯定し、共感し、前を向かせてくれる。

だからこそ、彼を傍に置いている――必要だからではない。いてほしいからだ。


「……そうだね。やるべきことは、山ほどある。

 泣くのは、そのあとでいい。」


そう言うと、アリは静かに立ち上がった。

動作に無駄はなく、身に刻まれた礼儀と気品が、わずかに揺れる金糸の衣を引き立てた。


アリは、真っ直ぐに執務室の扉へと歩み出た。

皇帝としての最初の一歩を踏み出すように――。


お読みいただきありがとうございます!

この物語は、10年ほど前から頭の中にあったもので、やっと形にすることができました。

筆者の中では、すでに完結していて、丁寧に書き起こしているところでございます。


引き続き読んでいただけたら嬉しいです✨

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― 新着の感想 ―
中々に緊迫感のある始まりと、読みやすく目の前にまざまざと映像が浮かび上がってくる文章で、思わず見入ってしまいました。これからが楽しみです。応援しております。 ただひとつ気になる点があるとすれば、段落は…
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