表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
舌でつぶせる  作者: 小林
3/4

三、舌でつぶせる

 丁寧に骨を抜いたさばの味噌煮とだし汁、あとは食用のゲル化剤をミキサーに入れてスイッチを入れた。彼女の介護度がこれ以上高くなると、食感が一切ない、本当に味気のない食事になってしまう。彼女の舌の筋肉が少しでも動くうちは、舌でつぶせる硬さの食事を食べてもらいたいと思う。一分ほど撹拌したものを鍋に入れて温め、皿に敷いたラップの上に流し込んで成形すると、彼女でも食べられるさばの味噌煮が完成した。

 もうベッドから動くことが難しい彼女には、介護用のベッドテーブルで食事を摂ってもらうことにしている。彼女の紫色の唇にスプーンですくったさばの味噌煮を近付けた。母が亡くなる前は、自分が食べる用のいわゆる普通の魚料理と、介護食として作った魚料理を同じ机に並べて、少しの幸せを感じながら食事をすることもあったが、もちろん今はそのような真似はしない。この後の、親しくしている若い男との食事のために胃を空けておきたいし、それに、誤って彼女の食事が私の口に入ると大変なことになる。

 チャイムが鳴った。

 こんなことは、今まで一度も無かった。

 震える足でインターホンに近づくと、モニターには警察官の格好をした二人の人物が映っていた。

 思わず振り返ってベッドに座る彼女を見ると、奥に微かな光を灯した鈍色にびいろの瞳でこちらを見つめ返していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ