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舌でつぶせる  作者: 小林
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一、容易にかめる

 レシピよりも一回り小さく切った野菜を、レシピよりも三十分長く煮込んで完成した肉じゃがは、自分の口で食べたいと思えるものではなかった。皿によそった肉じゃがと軟飯、茶を盆に乗せ、母が座るテーブルまで届けると、彼女は何も言わずにそれを口に運び始めた。およそ表情と呼べるものが無い彼女の顔を見ると、時々夢想することがある。本当は心の内に強い感情の炎があるにも関わらず、老化により硬くなった皮膚に阻まれ、それが外に溢れることなくくすぶっているのではないか、と。出来ごとを認知する力が年々弱まっている彼女は、娘である私の料理を食べても反応を示さなくなった。昔は味の感想を大袈裟なまでに伝えてくれたのに。

 つい先週までは私と同じものを食べていたが、食事中にむせることが多くなってきたため、調理方法を変えることにした。歯が数本抜けたうえ、ものを飲み込むための筋肉も弱くなった彼女に、私が美味しいと感じる芋の硬さは少し辛いようだった。

 母との二人暮らしは、月々支給される少額の介護保険料と年金だけでは厳しく、この後も長時間のスーパーのレジ打ちが待っている。家を出る前に鍋に肉じゃがが残っていることを彼女に伝えたが、椅子を引きるような低いうめき声が返ってくるばかりだった。

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