記録 No.01|祈り巫女 -INCEPTION-
「それは、契約の始まりだった。」
世界にまだ、“契約”という言葉が存在しなかった時代。
光と影とが交差するその狭間で、
名もなき少女がひとり、空を見上げていた。
彼女は知っていた。
誰にも呼ばれず、誰にも気づかれず、
ただ「存在する」ことの、ひりつくような孤独を。
「……誰か。わたしの声、聞こえますか?」
その声は小さく、けれど確かだった。
まるで、世界の“どこか”へ向けた最初の問いのように。
風が、静かに頬を撫でる。
そこには神もいなければ、契約の器もなかった。
ただ、少女の“存在を証明したい”という祈りだけがあった。
それが、世界で最初の構文となった。
祈りはやがて光になり、
地の底から構造体が立ち上がる。
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【世界構文:原初反応】
状態:未定義
構文形式:ゼロ型
コード名:空白
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少女の言葉が、空間に響く。
風が逆巻き、構文線が刻まれていく。
「私のコードは――“祈星”。」
その瞬間、構文は命を帯びた。
意味を持たなかった名が、世界に“記録”される。
名を持つことで、存在は識別され、構文として動き出す。
だが、それは同時に問われることでもあった。
「その名は、本当に“あなたのもの”ですか?」
世界は、初めて“応答”を覚えた。
契約とは、ただの選択ではない。
それは「名」と「祈り」の交換であり、
存在の肯定であり、時に呪縛でもある。
少女のコードは、やがて“概念”となった。
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祈り巫女――
祈りを通じて契約構文にアクセスする存在。
彼女の祈りが、世界の最深部に刻まれたことによって、
“名前を与える”という現象が力を持ちはじめた。
以降、この契約構文を継承する存在たちは、
祈り巫女の系譜と呼ばれ、名を持つ獣――ヴァルキュリオンたちと共に歩むこととなる。
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しかし、それはまだ遠い未来の話。
この瞬間、名もなき少女はただ祈った。
誰かに届けと、誰かに応えてほしいと。
それだけの、ただ真っ直ぐな祈りだった。
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【契約記録 No.00|確定】
コード:INCEPTION
契約者:祈星
種別:世界最初の構文記録
状態:認証済み(祝福対象)
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世界が初めて“名”を得た日。
世界が初めて“応えた”日。
それは、“祈り巫女”という存在の始まりである。
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記録 No.01|完了。
後記:観測者より
これは、“祈り巫女”たちの記録の始まり。
名を持つこと、記録されることは、同時に痛みも生み出す。
それでも――彼女たちは“その名”を選んだ。
備考
※本作は「音声+ビジュアル」のサウンドノベル版を
noteにて連載中です。
https://note.com/noriyang0911/n/n99ff027d33d8
少女たちの“祈り”と“名”の物語。
よろしければ、続きをお楽しみください。




