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第8話 続ククルの昔話・鏡

「なんだよそれ、何がどうなったらそういうことになるんだよ?」

 俺は訳がわからなくて頭がごちゃごちゃになった。


「こうなることはね。ククル、あなたが私の目の前に初めて現れた日からわかっていたの。だってあなたを一目見た時、私は自分が生まれ変わる前『縄文の樹の巫女ナミ』だった時の事全て思い出したんだもの。

 あなたがカラスの姿をした精霊なのも、あなたが私の願いに答えて七樹と共に縄文時代に行ってくれたのも。七樹が “チマシーの始まりの100人”の長になり、村人みんなを助けて、ナミとオカの伝説を成就してくれたことも」


 俺はマリンに「俺は精霊だ」と打ち明けた時、全く驚かなかったのを思い出した。

 まだ小さいから意味がわからないんだと思っていたが、そうじゃなかったんだ。


 マリンは、ナナキを産むと死ぬと言った。樹の巫女の男の子を産むためには、自分の命の全てを子供に注がなくてはならない。

 だから、前世のナミだった時、「七樹の母親に生まれ変われるように」と、死の間際ククルに願ったというのだ。七樹のばあちゃんを死なせた償いだと言っていた。

 そして今生の願いは「ナナキと一緒に7300年前に行き、彼を助けて欲しい」だった。俺は何度も願いを変えてくれと頼んだがダメだった。


「精霊の契約だ、もう取り消せない。オレはマリンに生きててほしかったよ。

 お前、生まれる時に「生まれたいか生まれたくないか、聞いてくれなかった」って怒ってたな。ざけんじゃねえ! あの時点じゃお前なんか、マリンの体の中の臓物ハラワタじゃねえか。臓物に聞くも聞かないもあるかい!」


「ハラワタ……」

 七樹、心が折れた。


「ところが生まれてみたら……お前、マリンにそっくりでメチャクチャ可愛いじゃねえかー!」


 七樹、ちょっと復活。


「サリーばあちゃんもジェイクも、お前を猫可愛がりで育てた。オレだっていつも見守ってた。10年前お前をアキラに預けた時、ジェイクは怒るし、カークは泣くし。

 それでもサリーばあちゃんはおまえをナミのところに届けると決めてたから、おまえを送り出した。10年後おまえは逞しくなって帰り、ばあちゃんはマリンとの約束通りおまえをここに送ったのさ。


 お前、親父さんには親孝行できたから、今度はばあちゃんに親孝行する番だって言ったよな。そのばあちゃんの願いが『ナミをオカの住む地に連れて行ってくれ』なんだよ!

 それは命と引き換えにお前を産んだお前の母さんのマリンの願いでもある。

 そしてこのナミは、お前の未来の母ちゃんなんだ。死んだ親父さんに孝行したなら、産んでくれた母ちゃんにも孝行してやれよ!」


「あ、あの、アタシ子供産んだ覚えないんだけど」

 ナミが慌てて否定した。(そりゃそうだ)


「だから来世の話だってば! その証拠にコイツお前にそっくりだろーが」

「似て……る?」ナミは半信半疑のようだ。


「あーもう。ナナキ鏡ねえか。コイツきっと自分の顔ちゃんと見たことないんだ」

「え、鏡? あったかなぁ」

 ナナキはリュックの中を探り、奥の方から丸いペンダントタイプの鏡を見つけた。確か母さんの形見の品で、父さんが持ってたやつだ。

 ペンダントの蓋には結婚前の両親の写真。もう片方は鏡になっている。七樹は鏡を出してナミに向けた。ククルが叫ぶ。


「ほらみろ、コレがお前の顔だ。ナナキにそっくりだろーが」

 しかし、ナミの反応は二人の予期せぬものだった。


「お母さん! どうしてこんな所に。コレ海の向こうと繋がってるのね」

「「はあ?」」ククルと七樹は想定外な反応に焦る。


「お母さん元気? どうしたの。お願い、いつもみたいに返事して」

 ナミは泣きながら、必死に鏡に話しかけ続けた。


「母さん泣かないで。お願い返事して。ダメなの……コレじゃお話はできないの。

 すぐそこに見えるのに。まだ会えないの、まだ待たなきゃならないの。お母さぁん」

 鏡を抱きしめ、ナミはうずくまって泣いている。


「そうか……鏡初めて見たから。自分の姿を母親と間違えたんだ」

 ククルが困ったように言った。


「残念だけど、それナミの母さんじゃなくて、君の顔。

 海の向こうとは繋がってないんだよ」

 ナナキも仕方なくそう言った。ナミの泣く姿をこれ以上見たくなかったのだ。。


「そうなの? アタシ今の体に生まれ変わってから、ずっと母さんと心がつうじないの。巫女の長に聞いたら、“生まれる時がずれたのかもしれない”って。

 生まれる前だったりまだお腹の中だと、力が弱くて声は受け取れても返事はできないんだって」 

 ナミは涙を拭って、ため息をついた。


 二人は伝説にあるようにとても仲良しだったのだ。5,700年も経ったのにまだお互いを求めてる。もう一度会いたいと願い続けているのだ。


 ――僕と同じ、母さんに会いたいんだ。――七樹はそう思った。


「それ気に入ったなら、あげるよ」

「いいの! こんな綺麗な物」

「もともと僕の母さんのだ。女物だし、君が持ってたほうがいいよ。それより急ごう、日が暮れてしまう」


 七樹は猪のロープを担ぐと、また歩き出した。


 ナミに何かしてあげたい。

 今度は迷っていなかった。



 続きます。


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