表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第7話 道の途中・ククルの昔話

「ところでナナキ。私の村にこの猪運ぶの手伝ってくれない? 村まで下り坂だし、割と近いの」


 ナミの言葉に七樹はギョッとした。

「運ぶって……これ100kg以上、下手すると200kg近くあるよ」


「じゃあここに置いとくの?こんなとこに置いておいたら、クマやキツネや狼にみんな食べられちゃって終わり。貴重な皮だって無駄になっちゃう。

 これだけあれば、村のみんなで毎日食べても、半月近く食べられるわ。(*注)こんな素敵な獲物持って行ったら、一発であなたヒーローよ。それともずっとここに座ってる気なの?」


「オイ、クマはまずい。とりあえず今晩安心して寝れるとこ探さないと。あと数時間で日が暮れるぞ」


 ククルの言葉に七樹は考えこんだ。

 今の僕にできる選択肢――

 選択肢①ここに座ってクマに食われる。

 選択肢②クマのいない安全な村へ行く。(お土産付きならヒーロー)

 ②しかなさそうだった。


「ほら。早く手伝って」

 ナミがロープを掴んで叫び、七樹は渋々付き合った。

 でも二人で引っ張っても、まったく動かない。


「やっぱり無理。村に行って人呼んでくるしかないかも。でも往復してたらその間に、クマに取られるかもしれないし……」


「あ、湧き水の横に竹林があったね。コロを作ればなんとかなるかも知れない。確かリュックに折りたたみのノコギリがあったはず」

「コロって何?」

「まあ見てて。竹は真っ直ぐだし、中は空洞だから早く切れると思う。」

 そう言うと七樹は竹林にいき、竹をノコギリで1mほどの同じ長さにどんどん切りだした。


「何コレ! こんな硬い竹を横にこんなに真っ直ぐに切るなんて信じられない」

 ナミは呆然と七樹の動きを見ていた。

 やっぱりこの人はただの人じゃないんだ。


「30本もあればいいかな。いいかいこうやって、猪の体を持ち上げて下に竹の棒を突っ込む。そうしたら、接地面積が減って摩擦が減るから……ほら、動いた」

 猪の体は、下に敷いた竹の棒の列の上をスルスルと滑って動いた。


「ほんとだ、すごい!」

「いいかい、今こいつの下に、20本竹の棒をしいた。残りの10本は君が持ってる。猪を縛ったロープを前に引っ張ると、猪は動いて前に進む。すると前の方の竹はなくなって、止まる。そうなる前に……」


「私の持ってる竹をどんどん前に継ぎ足すのね。でも10本じゃすぐなくなっちゃう。そうか、後ろのほうの余った竹を拾えばいいんだ」


「その通り。コレなら遅いけど下り坂なら確実に運べる」

「ほんとだ。やったー」


「結構息合ってるじゃん。俺は疲れてるから休ましてもらうわ。何しろ7300年と、一万キロ、人一人運んだんだからな」

 そう言うと、猪の上に乗せたリュックに寄りかかって、ククルは寝てしまった。

 もういびきをかいている。


「おい、手伝わない気かよ!」

「しょうがないわよ、すごく遠くから飛んだんでしょ? それに、どうせカラスじゃ猪は運べないわ」


 ◇


 午後の日差しの中、コロコロと二人と一羽は、ゆっくりと進んでいく。


 重い……肩にロープが食い込む。

 ナナキは汗だく。朝から続く異変に疲れ果てて、イラついていた。


 ――ばあちゃんが死んだってのに、なんで僕はこんなことしてるんだ?

 元をただせば、こんなことになったのはククルのせいじゃないか。

 なのにこいつときたら何にもせずに、いびきかいて寝やがって――


 選択肢①このまま我慢して村まで猪を引っ張る。

 選択肢②腹が立つのでククルを一発殴る。


 ②に決定――


 七樹は、肩に担いだ猪のロープを放り出し、ツカツカと猪の上で寝ているククルに近づくと、思いっきり頭にゲンコツを喰らわした。


「痛ー! なにしやがる」ククルが飛び起きた。

「おい、僕に謝れ!」ナナキのゲンコツと額に青筋が浮いていた。

「は? 謝るってなんだよ」ククルはまだ寝ぼけている。


「ばあちゃん殺したことだ。ナミはちゃんと謝った。御神木のスダジイだって謝ってくれた。なのに張本人のお前はまだ謝ってないだろうが!

 それに俺を無理やりここに連れて来たことの説明責任も果たしてない」


「あーその事かい。確かに説明する暇なかったわな。じゃあ初めから話すか。

 オレがアメリカにきたのは、35年くらい前だ。メキシコで精霊同士の争いがあって、負けたオレはカラスに化けて、時間も空間も振り切って北に逃げた。

 力尽きてうごけなくなったとき、鳩にパン屑やってる子供のマリンに会った。

 あまりに腹ペコでパン屑でいいから食いたくて、自分がカラスの姿なのは知ってたけど、「クックルー、クックルー」って鳩の鳴き真似してそばに寄って行った。


 マリンは驚いた顔でオレを見て、持ってたコーンブレッドを丸ごとオレに投げてくれた。オレは咥えて、そばの木に止まって食べた。美味かったー! 

 そして食べ終わった頃、マリンはこう言った。

「うちに来ない? お魚ならあるわよ」

 だからオレはついていった。マリンの兄貴のジェイクが漁師で、売り物にならない小魚を分けてくれて、オレは腹一杯食べて元気になった。


 その夜俺は夢の中でマリンに俺の本当の正体を打ち明けた。

「助けてくれた例に、お前が死ぬ間際に叶えたい願いがあったらなんでも一つだけ聞いてやる。俺は命一つで、なんでも願いを叶えることのできるマヤの精霊だ。俺に名前をつけろ。それが聖霊との契約になり、俺はお前が死ぬまで、そばにいる」

 マリンはオレに「ククル」と名前をつけ、それからずっと一緒にいた。


 マリンが16歳になった時、日本人で棟方旭むなかたあきらと言う男が、縄文人の移動の歴史を調べにやってきた。マリンは一眼でアキラを気に入った。

 ジェイクは反対したが、ばあちゃんはアキラを見て、「仕方ないね」と言った。

 ばあちゃんには未来が見えてたんだと思う。


 二人が結婚して3ヶ月後、マリンとサリーばあちゃんはおんなじ夢を見た。

 俺は腹の中の子供のせいだと気がついた。


 アキラは二人に言われて、カヤックを操り、チマシー川の上流であの広場と洞窟に辿り着き、三人は入っていった。

 付いて行った俺も入ろうとしたが、何故か守りの木に邪魔されて入れない。 

「ここで待ってて」

 マリンに言われて、仕方なく草っ原って虫をを突きながら待ってた。


 やがて三人は出てきた。

 アキラの手には頭蓋骨と木片。マリンは泣き崩れ、サリーばあちゃんは、辛そうな顔してマリンを支えていた。その様子に俺は何も言えなくて、みんな無言で家に帰った。



「何があったんだ?」

 その夜俺はマリンを問いただした。マリンは泣きながら語ってくれた。


 あの骸骨が《《7千3百年前に死んだアキラとマリンの息子》》だと。

 それも、今マリンの腹の中にいる子だと言うんだ!



 続きます。

 *******

(*注)猪は80~200kg。100kgの肉で、五人×100食分の計算です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ