第8話 一室でのダイアログ
ホラーハウスのような外見から、勝手に中もクモの巣だらけとか埃っぽいとか想像していた。
「へぇー、案外・・・・・・」
だけど、中は外から想像出来ないほど綺麗に整っていたのだった。
「どうぞ」
コトンッ
粗茶感覚で出された香りのいい紅茶は、そのままルカとニコの鼻孔をくすぐる。
案内された場所は、どうやらこの建物内での接客室。
低めの小さなテーブルの上には、大きく咲き誇る真っ赤なバラが一輪、この部屋の中で一番際立って見えた。
そんなバラを真ん中に挟んで向かいて、ソファーにドカッと座り、足を組んでいかにものような格好な人が、ここの長のソフィーさんらしいけど・・・・・・
(あぁ、目のやり場に困るから、その綺麗な生足は隠して欲しいな)
スカートなのに足を組むから、スーツのスカートから露わになるのは白く、綺麗な太もも。
年頃な男の子のルカにとって、これは少し刺激が強いのかも。
顔をほのかに赤らめながら視線をそらすルカ。
ほら、そんな顔をするもんだから・・・・・・ルカはソフィーが今ニヤリと笑ったことを知らない。
「さてさて、改めて詳しく自己紹介でもさせて頂こうかしら?」
ソフィーにそう言われて顔を上げた。
カチッ
隣でニコがティーカップを置く音がした。
二人と視線が合うを確認したのか、ソフィーが話始める。
「まず、アタシからね。
さっきはちょっと紹介したけど、名前はソフィー。
“第八周円状”の領主の娘で、ここ“レチア組合”の長。
んで、一応資格持ってる魔術師なんだけど・・・・・・アタシ、“半人間”なの」
「はぁー、そうなんですか・・・・・・」
(って、話の後半が全然理解出来ない!!)
そんなルカを見越したのか、ニコが隣から淡々と説明し始めた。
「魔術師とは、魔法と呼ばれる手段を使い、一般的に超常的、超自然的なものとされる行為を自由自在に起こせる人のことです。
そして、“半人間”というのは・・・・・・この世界には大きく四つに人の種類を分類することが出来ます。
まずは、“人間”という分類がありまして、こちらは・・・・・・」
「えっ、何々?
もしかしてそこの娘、そういうの知らないの?」
ありがたい化け猫、ニコが説明しようとしたとき、ソフィーがそれを遮り、テーブルから身を乗り出して、ルカに顔を近づけながら聞く。
「えっ、あっ、あの・・・・・・」
急に顔が迫ってきたものだから、驚いたルカは上手く返答出来ず。
変わりにニコが、適当な嘘で答えた。
「はい。
実はルカ様は今まで、“第十一周円状”の片田舎から出てきたことがない、箱入り娘でして。
・・・・・・色々と無知なところがあること、ご了承くださいませ」
(ナ、ナイスな返答。ありがとう、ニコ!)
ルカだったら、こんなにも上手く返せなかっただろう。
しかし、一つだけ気に食わない。
「娘じゃない。
僕はこれでも男です」
あぁ、なんて悲しいことだろう。
この身なりでは、多分わかってもらえないだろうが、ここは重要なのですぐに訂正。
「へぇー、スカートを履いたりしてても“男の子”?」
そう言ったソフィーの目にはからかいが含まれている。
「ちょっ、ソフィーさん!!」
リースもそれに気付いて、「失礼ですよっ」と言いながらこちらを不思議そうに見ていた。
(やっぱり、こうなるよね・・・・・・)
だけど、この誤解だけは、ルカのコンプレックスとも関わるので、何が何でも解かなくては。
最終手段。
ルカが意を決して、服のボタンへと手をかけたとき―――
「いいや、脱がないでねー。
大丈夫、それぐらい分かってるって・・・・・・それ、性転換の呪いでしょ?」
「えっ、なn「何故それをっ!?」・・・・・・ニコ?」
ソフィーが言った言葉に、ルカが驚く以上に、ニコが椅子から立ち上がるほどに驚いた。
「何故って言われても、だって、アタシこれでも魔術師だし・・・・・・」
「で、ですが、かけられた魔術を見破ることが出来るのは、そのかけた人以上の魔術者でないと無理では・・・・・・」
不思議がる理由が、ルカにはさっぱりわからない。
でも、相手には理解出来たようだ。
「もしかして、これかけたの、結構上の人だったり。
それだったら、アタシ、その人より魔術的には高いってことかな~・・・・・・まぁ、どうせアタシは“半人間”だから、そんなに魔力はないけどさ」
元の位置へとそう言いながら座りなおすソフィーは、何だか自嘲気味だ。
「ソフィーさん・・・・・・」
リースもソフィーに同情でもしているのか、目線を下へと向けてしまった。
(困ったなぁ)
どうやら、状況理解が出来ていないのは僕だけのようで。