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第35話 オルタナティブな関係

「どうして僕なんかに依頼……」

 はぁーと肩から大きなため息、ルカは気まずそうに言った。

 ジトリと向けた視線の先で、綺麗な花が咲き誇る。沿道の花達は赤、白、黄色、色鮮やかな全盛期を迎えていた。初夏、と呼ぶにはまだ涼しく、春、と言うには日差しが眩しいそんな昼下がり。ルカはレチア組合の最後方をとぼとぼと歩く。

 朝早くに発った第七周円状ズィーベンアジーンの雰囲気は昨日までと打って変わって、とても静かであった。街の一大イベントであったバトルトーナメント大会が終了したためだ。決勝戦で派手に暴れまわった奴らが居たために、建物ごと本当に“終了”したためである。

 それを踏まえてか、レチア組合御一行の先頭を歩く組合長が顔を振り向くことなく声だけ返事をする。

「だってルカ君、昨日あれだけ大暴れしたじゃない」

 ソフィーの言葉には「私達のこと何にも考えずにね」と暗に含まれており、どこかトゲトゲしい。まだ怒っているようだ。戦闘中にレチア組員を顧みなかったルカの行動は、そうやすやすと許されるものではない。少し気の毒だと思いながらも、ソフィーの態度の意図もわかるため、リースはフォローしない。ヨークは面倒くさい“歩く”行為を頑張って実行していてそれどころでない。唯一守ってくれそうなニコは、また魔界へ英気を補給しに行っており、不在である。

 当のルカは小さな声で愚痴ったつもりの言葉に、ソフィーから予想外な返事を貰いビクッと肩で反応する。下がったり上がったり、忙しない肩である。

 それにしても、

 ――それにしても、あの街中を通過するのは気まずかったな。

 本当に気まずかった。あの自分が破壊してしまった建物は街のシンボルだったのだ。建物をぐるりと囲むように街は栄えていた。色んな屋台が立ち並び、人々は活気に溢れており……来年もまた懲りずにお祭りを開いて欲しい。

 そう願ったルカは、覚えていた。

 昨日の自分が何をし、どうしたのか。

 ルカは寝起きから意識を覚醒させていく中、段々と思い出し、はっきりと覚えていた。


 だけど、まだ言葉で表すのは難しかった。

 だけど、まだ行動で示すのは難しかった。


 だから、まだルカは誰にも言えずにいたのだ。自分が召喚術を使えるってことを。






******************************

「もし、目が見えるようになったらお前どうする」

 眩しい。おそらく逆光なのだろうと光の刺激の強弱だけで判断した少女は、おそらく気遣ってくれているのだろうと少年の声の振動だけで判断した。

「うーん、ケイちゃんの顔を見ようかな、とりあえず」

「なんだよそれ、他にもっとあるだろう、ほら空とか海とか」

「でもそこに居るのはケイちゃんだけでしょ」

 同時に口の両端に力を込める。そうして頬の肉を押し上げれば出来るらしい笑顔をケイという少年の方へ向ける。ケイの位置は声で把握済みだ。

「ま、まぁ、お前についていくのは俺だけだしな……」

 何故か少し照れながらケイは、包帯で目元を覆った少女、ミカの笑顔に応えた。彼女は生まれつき目が見えない。でもそれはもうすぐ解決する。三日後、ミカは目の手術を遠い街まで受けに行くのだ。その付き添いに抜擢されたケイも実は、ミカと一緒に手術を受ける。彼は一年前から右足が思うように動かない。

「園長先生によると遠いところまで行かなきゃいけないらしいから、ちょっと心配だね」

「俺がいるし大丈夫に決まってんだろ! ……あと、なんか護衛してくれる人もいるらしいし」

 勢いよく言って、語尾は小さな声。ケイが何だか必死である様子を感じ取り、ミカはクスクスと笑う。

「そうだね、ケイちゃんいるもんね」

 クスクスと笑いながらミカは、心の中でそっと言葉を並べる。


“丘の上は朝 私は昼寝シエスタ 君が歌う子守唄で 世界が反転 奇抜シュールな真夜中よ ”

 ――どうか、ケイちゃんが無事でありますように。


 自分の目の手術にケイがついてくると知った日から、少女は毎日祈っていた。

 それが“魔法”であると知らずに。



「ミカ! ケイ! あなた達また外にいたのね! はやく戻りなさい、もう日暮れよ!」

 真っ白で小さな教会の中から大きくしっかりした女性の声が呼びかける。

「園長呼んでるし、もう中に入ろう」

 ミカはそう言いながらケイに手を差し伸べる。本人から聞いたわけでも、実際に見えているわけでもないがケイが右足を引きずっているのを音で知っている。知っているのは園長と自分ぐらいではないだろうか。ケイは昔からとても強がりだ。そんなケイが自分から手を貸して欲しいなど言うわけがない。

「おう」

 ケイがミカの手を取る。だが、ケイはミカに手を引かれる側ではなく、手を引く側に回るため勝手に歩き出して先行する。彼は目の見えない彼女のために歩く道を誘導しているつもりなのだ。事実、ケイのおかげでミカは安心してどこへでも行ける。

 そんな助けあう2人は、第十一周円状エルフの端っこの街、第五地区ビャーチの孤児院で育った。

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