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第30話 大会に掛かるキッチュな罠#3

「…………痛っ」

 そうルカが口に出せたのは、実際に頭を殴られてからどれくらいの時間が経ってからなのだろうか。

 痛い、の次は冷たいと感じた。太ももから伝わる床の冷たさは何かを彷彿とさせる。冷たい中で臭う煤けたような、埃っぽい匂い。ここは先ほどまでのあの風通しの良さそうな場所ではないようだ。そして自身の「痛い」発言を自身の耳で聞いた時、今いる場所がそこまで広くないと察せられた。

 暗かった視界が急にパッと開けた時、

「どこだ、ここは」

 ルカは蝋燭の頼りない火が照らす薄暗い牢屋の中、鉄格子の内側に存在していた。

「よぉう、起きたのか」

 視点よりも上から降り注いだ声にルカはビクリと肩を震わせる。無意識だ。

 反射的に顔を上げ、声の主を見つけた瞬間、悲鳴を上げてすぐさま後ずさりたかった。だがしかし、実行できたのは前者のみだ。しかも短い。

「ヒィっ」 

   ガシャンガシャガシャッ

 実際は悲鳴よりも大きかったのだ、後者の実行が叶わなかった原因、両足首に巻きつけられた足枷の音の方が。

 その反応に声の主は笑みを深める。そう、あの路地裏のときみたいに。

「お、お前は、き、きのうのっ」

 嫌でも見覚えある顔を指差そうとしてもう一つ気づいた。両手首を一緒くたに縄で縛られ、両手の自由が効かない。

「そうだ、スティグリー様だ。

お前の連れを今すぐブチのめして、帰ってきたらお前をたんまり可愛がってやる男だ。覚えとけ」

 そう、ルカは完全に囚われの身であった。







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ルカ、遅いですね」

 リースは壁に掛かっている時計を不安げにチラリと見た。

「うーん、まぁ病み上がりだしねー、トイレにでも篭ってるんじゃなーい?」

 そう言いながらソフィーは読んでいる雑誌のページを気怠げに捲る。暇なのだ、退屈なのだ、早く戦いたいのだ。

「そんな悠長な……そういや、ニコの姿も見当たりませんね」

「まぁ猫だしー?」

「そうですけど……」

 自分たちが気づいてないだけで、ルカについて行ったのだろうか。ならば安心な気もする。

 そう思いながらリースはもう一度、時計をチラリと見た。あとちょっとで本日の二試合目、今大会での四試合目の召集が始まるだろう。レチア組合の出番である。

「どうしましょうか、探しに行きますか?」

「いやー、まぁルール的には全員揃ってなくてもありだし、探しに行く時間も無いしねー。

そりより、そろそろヨークお越しとくとこう………………か!?」

「え、な、なんですかソフィーさん、いきなり大きな声出して」

 ソフィーの急な大声に、ビクゥ!!と驚いたリース。

 ソフィー自身はそんなリースの問いかけを無視して、青ざめた顔で机したに手をしきりに伸ばし、何かを探っている。その度に手に持つ雑誌がバサバサと慌ただしい音を立てる。

「無い、無い無い無い無い無いっ!!」

 バサリ! ついに空を切り続けた雑誌は地面へと墜落した。手ぶらとなったソフィーの手は、次にソフィーの頭を抱える。

「アタシの大事な大事なだいじーーーーーーな、ケースがなーーーーーーい!!!!!!!!」

 先ほどよりも大きな声。

 さすがに周囲の他の出場者達も振り向く大きな声。

 それでも、ヨークは相も変わらず就寝中。

 レチア組合の危機は、刻一刻と深まる――――――――







※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 ――――――――どうしたものだろうか。

 ルカは誰もいなくなった空間の中、地面の一点を見つめて静かに考えていた。

(どうするも何も、早くここから出てソフィーさん達にこの事態を伝えなきゃ)

 でも、ルカにはそうするための手立てがない。勇気もない。

(だけど、)

 だけど、前回、スティグリーに襲われかけた時、みんなが助けに来てくれるかもって考えたことに対して、ルカ自身が反省したところである。

(よく考えるんだ、よく考えて現状を打破するんだ、僕)

 現状、自分の両手両足は縛られ、使い物にならない。無理やり突破するのはまずまず不可。硬そうに見える牢屋の柵、実際は脆いかも知れないが調べるために近づくことも足枷のせいでできない。出入口であろう部分には鍵が付いているようだ。その鍵は憶測的に、スティグリーが去る時、入れ替わって牢屋の前の椅子に座った男が持っている可能性がある。男は牢屋に背を向けるように座っている。そのためにこちらの一々の動作、例えば今キョロキョロ辺りを確かめてるとか――は知られないが、同時に男が寝ているか起きているかもわからない。

(男が鍵を持っていて、今、眠っていると仮定するか?)

 眠っているなら、こちらが床を這って出入口に近づく音ぐらいじゃ起きないかもしれない。いや……いや、仮定を二つも重ねて行動するのは危険じゃないだろうか。もっとリスクの少ない、でも脱出できるチャンスがある方法を考えないと。

(っって、もう無理っ)

 ぷはっと脳が息を吐き出した。これ以上考えられない。もうこれしかない。仕方がない。

「やるか(ボソリ)」

 頬が床に接し、とても低視線な瞳で廊の外の男を見据える。そしてくっついた両足で接してるだけの床を蹴り、腰をくねらせ前進。ジャラジャラ、その予想以上に響く鎖の音に男は何事かと首を巡らせてきた。寝てはいなかったか。それなら良い、尚更良いよ。男が椅子から立ち上がり、完全にこちらに体を向けた時、僕は言うんだ、覚悟を決めて言うんだ!

「トっ」


 『トイレ行っていいですか!』って。



 でも、そんなルカの覚悟も露知らず、新たな来訪者は乱暴にやってきた。


 実際は「パンっ」って小気味のいい音の方が先に聞こえてたかもしれない。



 っっっっっっっっっっっっっっっっっっっBBBBBBBBBBBBBBBBBBaaaaaaaaannnnnnnnn!!!!!!!!!!

 突然、廊の外で爆風が起こった。椅子から立っていた男は一瞬左を見ただけで、その後はその爆風にぶっ飛ばされる。背後の壁にぶち当たる。頭を強く打ったのか、そのまま倒れて動かなくなる。

 ほんのちょっとの間に何が起こったのか。

 首をいっぱいいっぱい伸ばし、驚きに目を見開いたまま、ルカは突然の出来事に今度こそ脳が処理できずにいた。だから、言うはずだった言葉も止めることができなかった。

「……イレ行っていい、ですか?」

 拍子抜けで小さな声だった。だけど、来訪者はそんなルカの声も聞き逃さない、絶対に。



「そうだな、行ってもいいけど……俺としては、ここでトイレを我慢して悶えるルカの姿をぜひとも見てみたいかな?」



 笑顔で変なことを言いながら、フィロはルカを助けに来た。



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