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第28話 大会に掛かるキッチュな罠

「はい、では完了しました。エントリーナンバーは“8”になります。控え室にてお待ちください」

 受付のお姉さんが、笑顔でマニュアル通りに対応してくれる。

 ルカの体調が回復し、後から追っかけてきたリースとまだ眠そうなヨークを迎え、レチア組合は無事にエントリーできた。

「ふぅー、間に合ってよかったわ」

「どうやら私達で最後のようでしたね」

 控え室に向かいながら後ろを振り返ると、受付の机などが撤収されていくのが見えた。

「さぁ、どんどん勝ちましょう! そして、ガツガツ稼ぐのよ!」

 そう言いながら歩くソフィーの目は爛々と輝き、一歩の歩幅も心なしか大きい。

「……ところで、トーナメントってどう戦うわけ?」

 とても今更のような質問だが、ルカはエントリー完了からそのことについて不安でしょうがない。

(もし、一対一とかだったら……)

 考えるだけでも恐ろしい。何も出来ない自分は負けるに違いないし、負けたあと、ソフィーにどんな仕打ちを受けるか想像したくもない。

 自然とルカの顔はサァァと青ざめてゆく。

「大丈夫よ、ルカ君。君の心配はお見通し。君一人で戦わせたりなんかしないわよ。てゆうか、一対一とかアタシやヨークじゃ太刀打ちできないし」

 ガハハという大きな笑い声の効果音が聞こえてきそうなほど大きな口を開け、気分がいいのか、ソフィーは愉快そうに笑う。

「ここのトーナメントはね、チーム戦なのよ。このメンバーでかかれば楽勝だわ! リースとヨークとアタシのチームで過去、何度も優勝したことあるしねー」

 その言葉にルカはリースとヨークを見た。

 リースは少し照れたように、ルカの視線に答える。

「まぁ、昔に何度かですけどね。どうしても、お金が足りなくて……」

 どうやらこの組合は、ちょくちょく財政難に陥っているようだ。

(誰が原因か、だいたい見当はつくけど)

 口には出さずにいておこう。

「それに……」

 ソフィーが先ほどの言葉に続ける。

 廊下を歩いていたルカ達の前には、「控え室」と張り紙の張られた一枚のドアが現れている。

 ソフィーはそのドアノブに手をかけ、そのままの勢いで部屋に入るのか、と思いきや、くるっと後ろを振り返り、ルカを見ながら言葉を続けた。

「それに――――――うちには召喚師さまがいるのよ? 楽勝に決まってるじゃない」

 ソフィーはニコリとルカに笑いかける。

「……っ」

 対照的にルカの顔はさっきよりも青ざめていく。

「? ルカ様、どうされたのですか? って、はっ! もしやまだご気分が優れないんじゃないのですか!」

「……ニコ。ニコのソレは嫌味なの? 僕に対する嫌味なの?」

「はて? 何のことでしょう? わたちはただルカ様の身体を心配しているだけですけど?」

 ニコはルカを見上げながら、とぼけた様に小首をかしげる。

 もの凄く可愛い仕草であったが、逆にルカは少しイラっとした。

(コイツ、僕が召喚なんてできないの知ってるくせにっ!)

 まぁ、ニコのルカに対するこの態度は今に始まったことではない。


ガチャリ

 約一名を除いて、レチア組合一同は、堂々と自信満々に対戦相手たちが待つ部屋へと乗り込んだのだった。




※※※※※※

 何だか部屋の外が騒がしいと思った。

 そろそろエントリー終了であろうから、最後の対戦相手のチームでもやってきたのだろう。

「チッ、お遊び気分で来てんじゃねーよ」

 俺はそうぼやきながらポケットに入っていたタバコを取り出し、火をつけた。

 控え室といえど薄暗く湿ったただの倉庫のような場所だ。換気が良いわけでもなく、タバコをふかした途端、他の対戦相手達ザコどもがあからさまに抗議の視線を向けてきたが、そんなものを気に留めるわけがない。どうせ、ここ2年連続で優勝している俺らに何も言えない様な弱虫ばかりさ。

フゥー

     ガチャリ

 俺がタバコの煙を長く吐くのと同時に、外からさっきの騒がしい奴らが入って来た。

「まぁ、いくら楽勝って言ったって怪我なんてしちゃ困……って、タバコ臭いわね、この部屋」

 話しながら入って来た奴は、どこからどう見てもプライドの高そうな女であった。しかし、格好はどこをどう見ても大会に来た風に見えない。なめているとしか思えないほど、白く長い足を露にしている。

「あの女……!」

 タバコのことを非難したことが気に障ったようで、隣で同じくタバコを吸っていたセルジが絡みに行こうとする。

「おい、それぐらい放っておけや。どーせ、後で負かす奴らだ」

「でもよー…………って、あっ!! おい、スティグリー! 見てみろ、アイツだ! 昨日のあの金髪の女がいるぜ!」

 急に飛び上がったかのようにセルジが騒ぎ出した。

 それにつられて俺もドアの方を見る。

「アイツはっ」

 忘れるはずもない。昨日のことだ。―――――昨日の、あの屈辱の原因の顔なんて、

「忘れるわけねーよ」

 そう言いながら、俺の背中がゾワリと逆立つのがわかった。昨日のことを思い出すだけで冷や汗が出る。

 今、戸口に立っているあの金髪の女に手を出しかけたばっかりに、俺らの仲間はみんな丸焦げにされちまったのだ。一人の野郎によって。

 あの騒ぎは一瞬だったとはいえ、視覚的効果が抜群なためか、噂が広まるのは速かった。

 おかげで俺らが今まで培っていた評判はだだ下がりだ。

 もう一度、俺達の評判を上げるためにも、今回のトーナメントでいつも以上に暴れてやろうとは思ってはいたが……

「スティグリー、お前、何笑ってんだ?」

「……俺、いいこと思いついたわ」

 さっきまでの寒気はどこへやら。

 なに、少し早とちりしちまっただけさ。

 あの女が怖いんじゃない。あの時、あの女を助けに来た野郎に俺らはやられただけだ。

 しかし見てみろ、今、あの野郎の姿は無い。あの女が強いとも思わない。

 ならば、考えるのは一つだけさ。

「セルジ、ちょっとアイツ等可愛がってやろうぜ」

「そんなの当たり前じゃん。てか、俺らが負けるわけないって。何たって今回、特別にコイツ雇ってんだし」

 そう言いながらセルジが背後を示す。そこには、全身マントを覆い被った男が一人。

 俺らの汚名挽回をするために大金叩いて呼んだ召喚師だ。

「あぁ、そいつにも金の分、きっちり働いてもらうさ」

 声を出して笑いそうになるのを、クツクツと喉の奥で殺す。

 どうやらまだ、俺らのことはあの娘に気づかれてない様子だ。なら、正体バラすのは後のお楽しみって事で。

 後の楽しい、楽しい“仕返し”の時でいいじゃねーか。




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