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第27話 刻み込まれたマグネチック#3

「すごく、苦しそうです」

 リースが心配そうに見つめる先には、毛布の中で息を切らすルカがいた。

 今朝方、彼のうめき声によって一同は起きたのだ。

 だがルカ本人も含め、誰もその症状の原因や治癒方法が分からない。

「はぁー……はぁ……っ」

 まだまだ熱は下がりそうにない。時折苦しそうに唸る彼は、まだベッドから起き上がれそうにない。

「うーん、何かの呪いでもなさそうね」

 ソフィーにも見当がつかない。ということは、ひどい風邪をこじらせたのだろう。――――――ソフィーの一言に一同はそう解釈した。

 ならば、今日はそっと寝かしてあげて様子を見てみよう。

 …………普通の人ならそう思う。少なくともリースはそう思ったし、ルカの側に付き添い、忙しなく額を冷やす布を取り替えているニコに至っては医者を呼ぶかもしれない。こんな騒ぎにも関わらず、今だ睡眠続行中のヨークだって多少は心配するだろう。

 だが。

 だが、しかし。

 この中にはそんな当たり前が通じない者がいた。さらに言えば、その人物はこの現状に焦っていた。大分。

 

「……間に合わない」

 ぼそり、とソフィーは呟く。

「はい?ソフィーさん、今なにか言いましたか?」

 かろうじて隣にいたリースは聞き取れたが、聞き間違いであろうか。今、その深刻そうな顔で呟いた言葉は、ルカを険しい表情で見つめ呟いた言葉は――――

ばんっ

「間に合わないっ!」

 今度は大声でソフィーが叫んだ。それにより、リースの不安は確信へと変わる。

「嘘っ、ルカ、そんなに悪いんですか!? どうしよう、はやくお医者s「エントリーに間に合わないっ!!」…………は?」

 なに、

 ただの勘違いであったようだ。

「……」

「あなたという人は……あなたという人は……」

 ソフィーの言葉が受け入れられなくて、フリーズしてしまったリース。

 その横でニコがゆらりと腰をあげた。今の今まで水に浸かっていたタオルを握り締め、ぼたぼたと床に落ちる水にも気に留めず、むしろそれをソフィーに投げつける勢いで振り上げ、怒った。

「あなたという人は、こんな時でも自分中心ですか!! こんなに苦しがっているルカ様の、お仲間の心配もせずにトーナメントのことなど考えて……わたち、心底あなたを見損ないました!!」

 しかし、当のソフィーはニコの怒りなどお構いなしのご様子だ。

「あぁ!もうあと、5分切ってるじゃないの! こりゃルカ君担いでいった方が良いかもね」

「ちょっと、わたちのことは無視ですか! って、勝手にルカ様を担がないでください!」

 「よいしょっと」の声とともに、ぐったりして無抵抗なルカをソフィーは抱き上げた。止めようとしているニコの行動を一蹴し、制止の声にも応じず。前回と同様のお姫様抱っこ……ではなく、ルカがほぼもたれ掛かっている状態のおんぶをし、ズンズンとドアの方へと向かう。

「リースもヨーク起こして連れてきてちょうだい! 正式なエントリーには、メンバー全員揃って行かなきゃなんないのよ!」

「……は、い」

「ちょっと、ルカ様置いていってくださいよ!ねぇちょっと待って……」

 

 ばたん。

 ソフィーは有無も言わさずルカを連れ出し、ニコをも結果的に連れて行った。閉まった部屋のドアの外から微かに、慌てた駆け足の音が聞こえる。

 今さっきの急展開。いまいちリースはついていけなかった。

 まぁ、ひとまず。

「………………ヨーク、起きてください」

 とある日曜日の朝。とある宿の一室。騒がしい仲間達が過ぎ去った部屋のなかで、リースは呆然と力無く、ヨークの体を揺さぶった。




※※※※※※※

 ガヤ 

    ガヤ

 トーナメントのおかげでお祭りの雰囲気漂う街は、それはそれは活気付いていた。往来を通る人の波は途絶えること無く、道を挟むようにして立ち並ぶ屋台からはイイ匂いが漂ってくる。

 トーナメント会場付近は尚更のことで、短い距離とはいえ、賑やかな喧騒は、彼を起こすのに十分であった。

「はぁ…………ふっ……アレ?外……?」

 なんだか騒がしいと思って、細く目を開いた。明るい日差しが視界を照らし、そこが外であると教えてくれた。そして、ソフィーにおぶられていることも。

(……なんで、おぶられてんの?)

 しんどいせいか思考が上手く回らない。相も変わらず体はダルいし、胸がズキズキと痛む。

 そこへ、今度はハッキリとした会話も耳から入ってきた。

「あー、もうなんでエントリーするのに並んでるのよ。みんなギリギリに来るんじゃないわよ」

「あなたも人のこと言えませんよ」

「アタシはイイのよ、アタシは」

「はいはい。どーでもいいですけどさっさとして下さいね、ルカ様のために!」

 ソフィーさんとニコの声である。どうやら二人はまだルカが起きたことに気がついていない様子。

 ルカは何やら言い合っている二人に声はかけず、少しだけ首を持ち上げ、辺りを軽く見渡した。

(楽しそうだなぁー。ていうか、お腹空いてきたなぁー、イイ匂いするし)

 まず真っ先に肉を焼いている屋台に目がいった。もうもうと美味しい匂いのする煙を出している。その隣も何か焼いているようだ。同じく煙が立ちこめ、お客さんが2、3人並んでいた。

(あー、どれも美味しそうだなー。次はなんだろう?)

 次は、どうやらりんご飴みたいなものを売っているようだ。カラフルな果物に店主が飴を巻きつけている。

 店先には女の子が二人。買うものを選んでいるのか、二人のうち一人はやや前のめりになりすぎている体制で見ている。

 そして。

 そして、もう一人いた。

「…………あっ」

 

 ルカの思考は停止し、瞳の動きも止めた。


 もう一人、店先にはいたのだ。

 棒の先端に真っ赤な果物がついた飴を舐めながら、彼は店側を背にして立ち、ただ一点だけを見つめていた。

 ただ一点――――――――――ルカだけを。

 全身を黒で包み込み、マジシャン風な格好。帽子からはみ出ている金色の髪。際立つ双方の黒い瞳。

 間違いない。

(昨日のアイツだ!!)

 ルカはその瞳を真っ向から見つめ返した。若干、睨みながら。

 すると彼は、ルカと目が合うと彼はクスリッと笑い、飴を持っていない方の手をさし伸ばしてきた。

 そして、


 パチンっ

 

 辺りの喧騒はどこへやら。

 遠くて聞こえもしないはずの、彼がルカに向けて指を鳴らした音がハッキリと聞こえてきた。小気味良いほどに。

(………………あれ? なんだか段々、胸の痛みとか熱さが……)

 彼が指を鳴らした途端、しんどいのが離れていく。ズキズキとした痛みも、気持ち悪かった熱さも。

 ある一定の体調の悪さが回復して、ルカは気づいた。

 あの彼はまだニコニコしながらルカを見ていたのだ。食してしまったのか、もうとっくに飴の存在は無い。

 そして、そんな彼を見て、もう一つ気づいた。

(あぁ、さっきまでのアレは……)



――――――――――アイツが僕にかけた呪いか。  と。

 


 不思議にもそのことをソフィーやニコに知らせる気がしない。おそらく、この先も教える気が起こらないかもしれない。

 さらに、この呪いとは今後も付き合っていかなきゃいけない気もする。アイツと会う度に。

 

 きっと、アイツが僕にわざわざ教えてくれたのだろう。呪いのこと。

 じゃないと、僕は一生気づけなかった。



 ルカは悟る。

 微笑む彼を見て理解する。

 

 これが。

 これが、ソフィーさんが以前言っていた、『呪いをかけた術者以上の力がないとソレを見破れない』ということの良い例の一つで、


 

 彼が、ソフィーよりも強い魔術師だってことを。




 

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