表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/37

第25話 刻み込まれたマグネチック

夕方が過ぎ、夜に差し迫った頃。

誰もいない路地から、まだまだ人の賑わいが絶えない街の表通りを通って、ようやくソフィーが待っているらしい酒屋にたどり着いた。

ルカが発見された後、襲われかけていたルカを発見してからリースはずっと赤面して黙ったまま。ヨークはずっとルカを冷やかし続けると思われたが、その後すぐに魔法が切れて無気力に黙ってしまった。

沈黙が続く三人の間に「気まずい」の4文字が漂う中、リースが出してくれた矢印魔法を頼りに黙々とソフィーのもとまで歩いてきた。

正直、ルカはもうぐったりだ。早くどこかで眠ってしまって、今日のことなんか考えたくない。

(はぁー、ソフィーさんに会いたくないよ~。もう逃げてしまいたいよ~)

特に今は、財布のことが考えたくない。


チリンチリン~

酔っ払いの喧騒が響く店内で、申し訳ない程度に来客を告げる鈴が鳴る。

ルカが先頭にドアを押して入ったのだが……右を見ても、左を見ても、どのテーブルにもビールを豪勢に飲むおっちゃんしかいない。女性なんて一人もいない。

「リース、本当にここにソフィーさんいるの?」

不安になって、一番最後に店へ入ったリースを振り返り、聞いてみた。

「えっ!」

「……え、リース?」

ルカと目が合うなりビクリと反応して、急いでリースは顔を斜め上へと逸らした。そしてまた赤面。

その反応にルカは違う意味で不安になった。

(なに、その反応。僕、何かした?それとも変?)

リースを振り返りながら急に不安がり出したルカ。

軽くあたふたし出したルカに、リースとルカの間で無言だったヨークが声をかけた。

「大丈夫」

「大丈夫?本当に?」

「……(コクリ)。それより、ソフィー」

「え、あ、うん、そうだね」

ヨークに促されるまま、ルカは渋々ソフィーを探すために店内を歩きだした。

先にルカを行かしている間に、ヨークは後ろのリースに耳打ち。

コソリ。

「……リースが動揺したら、ダメ。それ、ルカが気付いてから」

「はぁー、ごめん。ヨークに気を配られせちゃいましたね」

ガクリと、リースは自分の情けなさにうな垂れた。どこまでもおぼこい自分が一番恥ずかしい。

落ち込むリースに、何故か今日はよく喋るヨークがもう一言かけた。

「……アレぐらいで」

「アレぐらい!?アレぐらいでって言いましたか、今!?じゃあ、ヨークはアレしたこと…………あっ」

ヨークを問い詰めようとした拍子に、持ち上げた頭がはじめてまともに店内を見渡した。

そしてリースはすぐに見破り、発見。変装しながら周りの人に混ざって、楽しそうに酒を飲んでいるソフィーを。

次いで、そのソフィーが座っている席の近くでキョロキョロとソフィーを探しているルカも発見。

「ルカ!見つけました、そこのカウンターの左から三つめの席で飲んでるのがソフィーさんです!」

リースは店内の音に負けないよう、大声でルカに知らせた。

「了解、リース。えーと、左から1、2、さn…………ホントに三つめ?」

席を数えるために指した人差指が示す方向を見て、ルカは眉をひそめた。

そこに座っていたのは、両隣のおっさん達と肩を組み、野太い声で陽気に歌っているマッチョだった。





「あー、さすがはリース!

アタシの渾身の変装を見破るとはね~」

そう言いながら元の姿に戻ったソフィーはまた一杯、ビールがなみなみと入っていたジョッキを空にした。「ぷはー」と飲み終えたご機嫌で真っ赤な顔から察するに、相当飲んでいる。

「ソフィーさん、ちょっと飲みすぎじゃないですか?一体、何杯飲んだら気が済むんですか」

リースはふとテーブルの上に置かれた空のジョッキを数えてみる。

ソフィーを見つけたあと、いきなりマッチョから綺麗な娘へとソフィーが戻ったため、先ほどの店ではちょっとした騒ぎになってしまった。とくに肩を組んでいた両隣のおっさんの驚き方、尋常じゃなかった。

そのため、今はまた新たに違う酒場に一行はいる。そしてそこでもソフィーは飲み続ける。

その様子を――――例の副作用とかいうやつで眠って身じろぎもしないヨークの隣に座る――――ルカは半ば呆れ顔で眺めていて、ふと気付いた。

(あっ、財布のこと言うの忘れてた……って、でもさっきの店でソフィーさん、自分で会計を済ませてたよな。もしかして、予備にお金持ってたのかな?)

酔っ払っているソフィー。

財布を奪い返しに本気でヨークを差し向けたくせに、帰って来たあとのルカ達に財布がどうなったかを聞いてこない。相当酔っている様子である。

これは……

これは……

(切り出すのは今しかないっ!)


「あ、あの、ソフィーさn「ところでルカ君」」

勢い付けて口を開いたルカの言葉にソフィーの声が重なった。

ニコニコと真正面のルカをジョッキを傾けながらソフィーは見据えている。

ビクッ

一気に蛇に睨まれたカエルだ。

バレた。いや、ソフィーは最初から忘れていては無かったのだ、きっと。

ルカはちっちゃな声で「……はぃ」と答え、次にくるであろう怒声に身構えた。

しかし、その問いは予想を反するものであった。

「ところでルカ君。

さっきから気になってたんだけど、どうして胸元のボタン吹っ飛んでるの?」

「へっ……あっ、これは……」

ソフィーに指差されてルカは自分の胸元を見た。そしてボタンが二個ほど消えていて、自身の白い肌が露わになっていることに今気付いた。

これはきっとスティグリーに飛ばされたものであろう。

そう思いながら、もう一つ気付いた。ソフィーに言われるまでもなく気付き、次の瞬間にはトイレにダッシュしていた。

「そんでさ、ルカ君の肌に真っ赤に咲いてるソレって、もしやキスマー…………って、ありゃま、誰も教えてなかったのね」

走り去って行くルカをしり目にリースの方に顔を向けた。

リースは髪と同じぐらい顔を真っ赤にして、自分のことじゃないのにあたふたと慌て始める。

「いや、あの、これはっ! 決して、ルカが金髪青年に襲われかけてたとか、そういうのじゃああああぁぁぁぁ」

すでにショート寸前である。これじゃあ、ソフィーもリースをからかえない。

変わりに、ショートされちゃう前に伝えておきたいことがあった。

「で、アタシの財布は結局取り戻せなかったのよね」

「えっ、あっはい。

って、そう言えば、さっきの店の代金、ちゃんと払ってましたよね?」

疑問が上がったところで、ソフィーはサッとテーブルに出した。出した物は、使い込まれている感が良い味を出しているリースの長財布。

もちろん、“ごめんなさい”は忘れずに。

「ごめん、無断で借りてた(すってた)&全部使っちゃった☆」


「ぜ、ぜんぶ………………」

言葉が続かない。ワナワナと肩の震えが止まらない。現実が受け入れられない。というか、主人であるソフィーが信じられない。

驚愕を通り越して、もう、何だかもう。

静かに。

静かに、リースは息を深く吸い込む。




同じ時、もう一人、リースと同じ気持ちの者が鏡の前にいた。

「うそ、だろ………………?」

言葉が続かない。自身の胸元から目が離せない。現実が受け入れられない。というか、男である僕にあの男がやったこと、信じたくない。

彼もまた、静かに。

静かに、溜息をついた反動で息を吸い込んだ。







「どういうことですかーーーーーーーーーー!!!!」

「あの野郎ーーーーーーーーーー!!!!」


言葉は違えども、二人の怒りは同時に爆発。店内を通り越し、その夜、その二者の叫び声は街中に響き渡った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ