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第23話 オーセンティックかもこの救世主

「――――ちょっと止めてくれないかな、君達。

そんな汚い手で俺の大事な婚約者ファインセ、汚さないでくれたまえ」



颯爽と空から降ってきた男。

トンっと軽い音を立てながら細身な長身が地面に着地、すぐさま風で髪にかかった浮力を手でなおす。双方から覗かせた漆黒の玉がまっすぐこちらを見ており、あの薄く笑った口もとから先ほどのカッコイイ言の葉が発せられたのだ。


「何だ、コイツ」

スティグリーが掴んでいたルカの服の襟を乱暴に離し、男の方へ振り向いた。

あまりの乱暴さにルカは後ろの壁へと背中を激突。いきなりの解放からの反動でズルズルと再び地面へ落ちた。

しかし、瞳は男を見たまま。救世主出現、まだ夢だと疑いつつ。

どうやら先ほどの願い、ちゃんと神さまは聞いていたようだ―――ルカは放心状態のまま、ペタリと地面にへたり込んだ。


「おいおい、兄ちゃんや。

俺たち、今からお楽しみのお時間なんだわ。見ててわかるだろ?

邪魔なんて変なマネするつもりなら、ちょいと止してくれないかなー」

一番男に近いスティグリーの仲間が軽い口ぶりで話しかける。そっと肩に手までおいちゃって。

「……」

さっきのセリフはどこにやら、今度は返事がない。

何かを言う代わりに、かぶっている大きな帽子で顔が見えなくなるまで俯いてしまった。

それを同意と思ったのか。

「そうそう。

やっぱ兄ちゃんも男だな、わかったんならさっさとどっか失せろ。

それでさっきのはチャラにしといてやるから」

おいてた手を動かし、男の肩をバシバシと叩く。



      ビキッ



無言が男の我慢の表れだったのだとはつゆ知らず、ついに逆鱗に触れしまった。あぁ、哀れスティグリーの仲間のチンピラA君。


「……だから、その汚い手で俺に触れるなッ!!」


男の怒号。 それとともに、話しかけていた男の周りで爆発が起こった。

ダンッ dddddddダンッ ダダダダダン!

一気に狭い路地裏が爆風に包まれ、視界が悪くなる。

爆弾などなかった…………いや、アレは急に空気が爆発したと言っても過言ではない。

「チッ、魔術師(ネオアビリティ―)かっ。

おい、能力使えねー奴は後ろに下がれ!」

目の前にいるスティグリーは仲間たちがあっけに取られている中、すぐに相手の正体を見抜き、指示を出す。この一連の動作はさすがリーダーとも言うべきなのだろうか。


「コホッ」

爆風のおかげで、そりゃあまぁ路地裏のチリや埃がよく舞うこと。地面に座り込んでいたルカは一番にその被害を受け、むせるし目をつぶる。

しかし、今は目を瞑っている時間が一秒でも惜しい。

スティグリー達と降って来た男。……どちらが勝つのか非常に気になる。どちらが勝つかでこの後の自分の未来が決まるかもしれないのだから。

もちろん、このケンカを見届ける以外に、喧騒のどさくさに紛れて「逃げる」という選択肢もルカは考えていたのだ。

しかし、スティグリーが仲間達を後ろへと下げた今、降って来た男とスティグリーの仲間たちで見事に狭い路地は封鎖されてしまった。残念。

(……にしても、さっきの、あの男はソフィーさんやリースみたいに呪文みたいの唱えてたっけ?)

ふと、ルカの頭の中で疑問があがる。

それを確かめるのも目的に+され、目の前で起こるケンカに釘付けとなった。



スティグリー含め5人が男と対峙している。つまり、仲間たちの中でこの5人だけが能力者ということになる。

何の合図もなく、すぐにケンカははじまった。

「“アイツが口ずさんだ 下手くそな独唱アリア 捧げるは天使でない 怠惰な天使でない 丘の上のあの人へ”

求めるは―――」

スティグリーが右手を男の方へ向け詠唱を開始した。

すると周りの仲間たちもその後へと続く。皆、それぞれ詠唱はバラバラであるため、野太い不協和音が辺りへ耳障りに響きわたる。

―――5対1だ。

いつしかソフィーから受けた能力者についての説明が思い出される。

『いい?

魔力の量は人それぞれ、生まれた時からその器の大きさ、深さは決まってるの。

一般的に能力者の魔術師は、最低でも半人間の魔術師の倍の量の魔力を使えると聞く。

だから半人間は普段から魔具を通して力を増幅させてるわけだけど―――もう一つ、違う方法で魔力を強くさせることができるわ。

これは能力者だって同じだけど、複数人の魔術師が一斉に同じ魔術を行使した場合、その威力は個々の強さが足されて何倍にも膨らむ。

現に魔術師だけが集まったチーム作って、この方法で強く有名なところもあるし……』

つまり、チームプレー。まさにスティグリーのこの集団がその具体例だろう。

(えっ、5対1ってじゃあキツくないか?

見たところ誰も魔具っぽいの使ってないし、みんな魔術師ってことは魔力は……)

考えてルカはゾッとした。軽く絶望した。

これは男の方が遥かに強くないと勝てないのでは―――!?


「「「「「求めるは土の精霊の助力。」」」」」

今まで混ざり合わなかった5人の声が急に重なり合った。

その声を聞いた瞬間ルカは「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、今度こそ目をギュッとつぶった。

(あぁ、お終いだっ)

助けに来てくれた男には正直申し訳ないが、このケンカはもうお終いだ。決着が見えている。

そして、そしてルカのこれからも見えて、 い る      ?




bbbbbbbbbbっばぁぁん!!!!

先ほどの比じゃない、ものすごい爆発音とともに爆風が起きた。

今度こそルカも対応し、腕で顔をガッチリとガードしていたが……その腕にも体にも何故かそよ風さえ当たったようには感じられなかった。

おかしいと思い、爆風から数秒後すぐに顔を上げてみるとそこには透明に透き通る壁が一枚。

「……あっ、これシールドだ」

ちょっと前、お世話になったことがあったのでルカも覚えている。

だが、一体誰がルカの安全までも気にかけてくれたのだろうか?

はっきり言ってスティグリー達にそんな優しさがあるとは到底思えなかったし、男にそんな余裕があるはずもないと思う。しかし第三者がいるのかも今のところ分からない。

ひとまず決着はどうなったのだろうかと、辺りを見回してみた。

するとスティグリー側に轟々と燃え上がる灼熱の炎が見える。さきほどの爆発音と爆風で火が起こったのだろう。

そう一人でに解釈して……ルカは硬直。驚いて硬直。第二の異変に気付いたのだ。

「火?」

(たしかスティグリー達は“土”の精霊に助力を求めていたような……僕の頭ではどうしても“土”と“火”の関連性が見えないんですけど……てか、なんでスティグリー達の方で火が燃えてるんだ!?)



恐る恐ると一%の考えを持って、ルカはギギギギッと首を180度回転。





どうやら爆風で帽子は見事に飛ばされてしまったらしい。

今、改めて男……いや、青年の素顔が覗けた。

髪はルカと同じ金で、目にかかるぐらいに少し長くサラサラしてそう。明るい髪色のせいか色白な肌のせいか、漆黒の瞳がより際立つ。

黒いスーツのような服装はどこか怪しげなマジシャンを連想させるが、残念ながら杖を持ってはいない。

全体的にスラッと細身な体格、そのどこにも見た感じ外傷はなく、黒い服に白いチリさえ目立っていない。


自身の足でしっかりとコンクリートを踏みしめ、彼ははじめと同じくニヤリと笑って立っていた。









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