第19話 タウンウェアはひと騒ぎとともに
夢の中。
ふわふわ意識の迷宮。
確かなものは何もなく、でもこれだけが本物で、
「やっと会えた、俺の・・・・・・」
優しそうに微笑んで見せた彼は
その温かい包容力で
僕を・・・・・・
「っっっっって、僕はお前なんかの“婚約者”じゃなーい!!」
ゴスッ
叫んだ寝言と、一緒に突き出した両手はそのまま誰かへとクリーンヒット
「・・・・・・ルカ君、元気があって良いわね。
こちとら、疲れてるだろうと思って誰かさんをわざわざお姫様抱っこして、ひと晩森の中を歩いてあげたっていうのに、ねぇ?」
寝ぼけ眼で声のする方を向いて、
サー
ルカは一瞬にして目が覚め・・・・・・冷めました、醒めましたとも。
「す、すみませんっ!!!
・・・・・・と、何で僕、ソフィーさんに(屈辱的にも)お姫様抱っこされて・・・・・・ここ、第八周円状じゃないですよね?」
少しの記憶を頼りに、ソフィーに降ろしてもらいながらふと疑問を口にする。
街並みはそう第八周円状と変わらない気がする。
しかし、この人並みの量・・・・・・はんぱじゃない。
(何かお祭りでもあるのかな?)
「良く分かったわね。
ここはアタシ達の事務所がある第八円周状じゃなくて、第七周円状の中心地、第一地区。
あの叫びの森をぬけたとこ」
「へぇ、あの森をぬけたら・・・・・・ってあれっ!!?
そういえば僕、あの後どうしましたっ!!?」
「えっ、あの後って・・・・・・あぁ、ルカ君はちゃ~んと狼頭を倒したわ。
もう箱入りなんて嘘でしょ?とっても凄い力で、このソフィーさんも見とれて驚いちゃったわよっ!!」
「合格、合格、余裕合格~♪」とどこかウキウキと嬉しいそうに、ソフィーは隣のルカの頭をぐしゃぐしゃ撫でまわす。
そこにヒョコリ。
ソフィーとルカの間にリースが少し興奮した様子で顔を覗かせた。
「ほんっと、昨日のルカ君は・・・・・・いえ、もうこれからはお仲間ですから“ルカ”と呼んでもいいですか?いいですよね!!私も呼び捨てでかまいませんっ。
ルカ、凄かったし格好良かったですよー!!ソフィーさんの次にっ!!
ねっ、ヨーク?」
「・・・・・・見てない。・・・・・・倒れてたから」
「そういえば、そうでしたねぇー。
あー、ヨークは惜しいことしましたねぇ。
大丈夫。これから仲間なんですから、きっといくらでも見れますって、ね?」
「・・・・・・楽しみにしとく」
「とにかく、ルカの召喚術は召喚師の中で一番ですっ!!」
いつにもなく興奮気味なリースに、ルカは少し虚をつかれる。
(おぉ、リースさん・・・・・あっ、呼び捨てなら“リース”か。
リースってこんなに押してくる人だったっけ??)
「あ、ありがとぅ・・・・・・」
一先ず、感謝だけはしておいた。
まぁ、ルカへの褒め言葉の中にもソフィーを称えるものがあったが。ここは素直に受け取った。
「でも、凄いと思う半面、わたちは見ててハラハラしましたよ。
・・・・・・ルカ様には実践だけでなく、“戦闘”という知識が必要そうですね」
「はぁ~」と隣の下らへんから批評が現れた。
「うわぉ、ニコ、いたんだ」
全然気付かなかったルカは驚く。
「いましたとも、失礼な。
もう、こんな人ゴミの中、わたちのような小さい生き物がどんだけ人様の足元ばかり見て歩いて酔って、大変だとも知らないでっ」
プンすかと怒るニコ。
どうやら、リース達のように機嫌が良いわけじゃなさそうだ。
ルカが寝ている間に、何かあったのだろうか?
(てかそんなことより・・・・・・皆、僕のこと褒めてくれてるケド―――)
事実。
ルカははっきりいって、あんまりあの時のあの記憶を覚えていない。
(う~ん、何か指嚙み切ったのは覚えてるんだけど・・・・・・)
うろ覚え。何となしに。
もし、今ここで何か出せと言われても多分無理だろう。
だって、ルカは肝心の自分がどうやって召喚術を使ったのかを覚えていないし、知らないのだから。
(弱ったなぁ、)
嬉しそうに自分を褒めてくれるソフィー達に、少し、申し訳なくなった。
「あっ、そう言えばルカ君。
さっきの『僕はお前なんかの婚約者じゃなーい』って言ってたけど。
一体、どんな夢見てたのよ」
ふふふとソフィーが隣で思い出し笑い。
ルカは不服そうに夢を思い出す。
「あー、ほんっと嫌な夢でした。
ったく、僕は男だって言うのにあんな夢なんか見ちゃって!!」
ソフィーは少し怒って歩くルカを見て、ちょっとイジワルなことを思ってみる。
(ここで、『何でルカ君は“女の子”になんてなっちゃったの?』ってアタシが聞いたら・・・・・・ルカ君、一体どういう反応するかしらね)
決して、口には出さない。
興味は大いにあるものの、これは個人のプライベートな問題。
きっとこの先も長い付き合いになるなら、その内、真相はわかるというものだ。
多分、首謀者の方々たちの正体も。
チラリとソフィーは少し前を歩くニコを見たのであった。
「ルカっ。
夢で不吉なものや自分が嫌なことを見たなら、そんなに甘く見ちゃダメですよ~!!
何故なら、魔術の一種で夢を扱ったものもあるんですから」
後ろのリースからの忠告、それに隣のソフィーが同意し頷く。
「そうね。
まぁ、夢を扱うのは高等魔術だから、そうそう無いけど用心はしといた方がいいわね」
「えー、でもどうやって用心なんか・・・・・・」
立派な魔術師二人が言うのだ。
ルカは怒りも忘れ、一気に不安になってしまった。
(どうしよう。
もしアレが魔術だったりしたらっ。
そう言えば、こころなしにちょっと現実っぽかったかもっ!!)
そんな心中を察してか、ソフィーがニコッと先ほどの発言を笑い飛ばす。
「まっ、言っても極稀だから。
アタシだって今日、途中休憩で仮眠取った短い間に、結構悪い夢見たのよ?
それがさぁ、ちょうどこんな人が大勢いる街中で、財布スラれちゃうってやつでさぁ・・・・・・」
ボス
話していたため、前方不注意中だったソフィーは走って来た少年とぶつかった。
「ぁ・・・・・・ぁのすみませんっ」
「いやいや謝るのはこっちだわ。
大丈夫?転んじゃったみたいだけど、どっか怪我とか無い?」
歩道されているタイル上の地面で尻もちをつく少年に、ソフィーは親切に立ち止まって手を差し伸べたが、どうやら相手はそんな場合じゃないようだ。
「失礼します」の一言もないまま、ソフィーの手を振り払って。
少年は慌てて反対方向へと駆け出した。
「すっごい急いでたわね、あの子」
大丈夫なのは何よりだと言わんばかりの眼差しで、ソフィーは立ち上がり少年が消えていった人ごみを見送る。
ちょっと、ソフィーさんのやさしい一面が見れた。
普通だったらルカがそう感心するところなのだが・・・・・・
「ソ、ソフィーさん。
今の子・・・・・・もしかしてスリじゃないですか?」
顔面蒼白でルカは、そっとソフィーのスーツの上着ポケットを指差した。