第15話 目覚めよ、僕のアビリティ―♯3
「キャハハハハ。
ほらよ、もっと来いよ!!もっと、俺を楽しませてみろよ!!」
狂った笑い声をあげながら、ヨークは踊るようにどんどん狼頭を斬ってゆく。
まぁ、そんな変な人と血まみれな怖い光景は(無理矢理にでも)無視して、と。
「では、ルカ君。
君にも戦ってもらうから」
ポンッと肩に置かれたソフィーの手。ルカはすぐさま振り払った。
「ちょっ、無理っす。
僕にも心構えってもんがあって!!」
「いやいや、問答無用。
リース、第二段その辺に投げちゃって」
「はい!」
抵抗するルカだが、どうやら反論の余地はないようだ。
ソフィーは、うだうだ言うルカを無視し、リースにあれを投げるように指示する。
・・・・・・そう、あの臭そうな煙を出す、モンスターを誘き寄せるアイテム。
ポンっ
それをリースは投げるというか・・・・・・結界のギリギリ外に置いた。
プシュー
黙々と溢れ出る臭そうなガス。
どうやら結界内にはそのガスが入ってこないようになっているようで匂いはしないが・・・・・・
「ほらっ、いっぱい来ちゃってるよっ!!」
そのガスに多くの狼頭が反応した。
・・・・・・というか、半ばヨークから逃げるかのようにこちらへと向かって来ている。
もういっぱい。
皆が皆、勝てそうな新しい敵を発見したとばかりにこちらへと向かってくる。
「うわぁ、どうしようニコ~」
「ルカ様。
戦闘前からそんなにビビってはいけません、ここは落ち着いて・・・・・・」
慌てるルカに、ニコは落ち着くようアドバイスをかけるが。
スゥー
ルカの慌てぶりに追い打ちをかけるかのようにソフィーが上手いこと、ちょうどルカの周りだけの結界を解除。
「うわっ、何だこの匂い・・・・・・って、結界がない!?」
急に鼻から強烈な匂いが入る。
何ともいいがたいその匂いは、さっきリースが投げたモンスターを誘き寄せるためのアイテムの匂い。
それに気付いたときには、もう時、すでに遅し。
ルカは大勢の敵を前にして一人、結界の外へと出された後だった。
ドドドドッ
だが、パニくる暇は残念ながらない。
・・・・・・もうすでに、前から沢山の狼頭が迫ってきているのだ。
「ひぃぃぃぃぃ~~~~~~!!」
弱虫、チキンなルカ君。
斧を振り回し、牙を剥きながら迫ってくる敵の恐ろしさにより、見事に、腰を抜かしてしまう。
「ルカ様!!
ちょっとソフィーさん、何してくれてるんですか!!
早く、はやくルカ様を結界の内にっ」
ルカを落ち着かせようとしていたところを邪魔されたニコは必死にソフィーに訴える。
だけど、ソフィーは知らんぷり。
「やーだね。
ルカ君、結界の内に入れちゃったらテストになんないじゃん」
「し、しかしですねぇ・・・・・・」
ニコもさすがに絶対絶命なルカを助けようと慌てているようだ。
それもそのはず。
(まだ、ルカ様に召喚術の発動も教えてない・・・・・・というか、こんなところでお怪我をされて、万が一死なれたら・・・・・・あぁ、上様に言い訳が出来ないじゃないですか!!
その場合、わたち、クビどころの騒ぎじゃないんですよっ!!!!)
ルカと違う意味で絶対絶命的。
しかし、ニコが慌てている内にもルカはどんどん危ない状況へ。
「うわぁぁぁ、来るな~!!」
ついには、手を前にかざし、尻もちをつき・・・・・・完全に的から背を向けてしまった。
「ルカ様!!」
(しょうがない、わたちはただの化け猫で何にも出来ないけど、)
しないよりはマシだっ(自分の未来的にも)。
意を決して、結界の外。敵の集団の目の前に躍り出ようとしたニコ。
そんな無謀なニコの行動をさっしてソフィーが急いで止める。
「こらっ、猫ちゃん!!
あんたには無理でしょ、死ぬよっ!!」
「行かせてください!!
そうでないと、ルカ様が・・・・・・ゆくゆくはわたちも殺されてしまいますー!!」
「はぁ?何、言ってんの?
それに、これはテストなんだから邪魔しちゃいけn・・・・・・」
ソフィーが血迷ったニコを説得している間にも、時間は進む。
(どうしよう、僕、死んじゃう!!)
ルカの心拍数は上がる。震えが増える。
敵の足音が近づく。殺気が増える。
ニコの嫌な汗が増える。ソフィーの?が増える。
ヨークの楽しそうな笑い声が少なくなってきた。
死の足音が、近づいてきているようにルカには感じれた―――その時間。
止まっている気もしたその時間。
もう一度動きだしたその時・・・・・・始まりは彼女の詠唱からだった。
「“父は踊る 母は歌う 聞き入るのは天使の笑い声 民の讃美歌 続くは丘の上”
『オリオの冒険』、第八章「制裁と竜」、236ページの15行目。
『オリオは剣を持ち対峙した。相手はごつごつとした口から灼熱の火を吹き、この広大な森でさえ一瞬で灰にしてしまうドラゴンだ・・・・・・』
求めるは火の精霊の助力。敵を焼き尽くしてしまえ!!」
ルカの目の前に救世主。
彼女はあの大きな本を右手に持ちながら、ルカを見事に敵から守ってくれた。
灼熱の炎。
真っ赤な彼女の髪のような炎を狼頭に襲わせて。
「リースさんっ」
ルカには、涙目に映る彼女の背中がとても大きく見えた。