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第14話 目覚めよ、僕のアビリティ―♯2

ウォーン ワウォーン


狼の遠吠えによく似たそれは、いくつも聞こえ、辺り一帯から聞こえ。

森がざわめくのがわかる。小鳥たちが逃げていくのがわかる。

視界の端っこに映ったそれは・・・・・・狼の頭をかぶり、人間のような体。手には斧。口には尖った牙。

―――彼らは、この“叫びの森シャウトフォレスト”の住人、“狼頭ウルフヘッド”。



(って、グロい。ちょっ、本気でキモイって!!

待って、今からこいつらと僕、戦わなきゃならないの!?)

心な中の慌てっぷりが顔に出る。

しかし、それ以上に分かりやすいのが一つ。

ルカは、自分でも気付かずに足を震わせていた。

視界へと入った、初めて戦う敵に少しだけでも恐怖を感じていたのだ。


「よしよし、イイ感じの数がやって来たようね。

じゃ、ルカ君。

このパーティーでは、ヨークが前方で攻め込み、リースが後方から攻撃する形を取ってるの。

アタシは守りと援助をするから」

そう言いながらソフィーはどこからか取りだしたのか、紫色の物体を口に含み、「ガリッ」。噛み砕いた。

そして彼女の魔具が再び、輝き始め、ルカの視線を奪う。

「“子供が笑う 丘の上で笑う 見えし世界は 最悪の楽園 災厄の女神が 歌う鎮魂歌”

彼の者に与えるは、力。

願いしは地の精霊の助力。我の願いを実行したまえ」

その詠唱呪文とともに光は増幅する。

しかし、先ほどとはまた違った魔術のようだ。

その増幅した光の群は、ソフィーの周りで広がるのではなく、一筋の線になるとそのまま前にいたヨークへと注ぎ込まれてしまった。

「えっ、ヨークさんに魔法かけちゃっていいのっ!?」

「注ぎ込まれちゃったよ」と慌てるルカとは対照的に、何故かニヤリと笑うソフィー。

「まぁ、見ときなさいって。

―――こっちの方が、ヨークの本来の姿なんだよねぇ」


ソフィーに何らかの魔術をかけられたヨーク。

一瞬、体が前へとカクン。折れるように顔を下へと向けた。

だから、ルカには少しもヨークの表情が見えない。

今、彼が最高に・・・・・・笑い、喜んでいることも。



ボソリ。。

「・・・・・・やっと来たよ、俺様のターン」



独り言のその声は誰の耳にも入らなかった。

だけど、それでいい。

ヨークは今、最高潮に気分が高まり、心も弾み、楽しみで楽しみでたまらなくって。

そして、誰の干渉も受けたくない。

これは自分だけの楽しみでありたい。



ヨークは突然、勢いよく顔を上げる。

その時、チラッと見えた横顔。

彼の横顔がほんの少し見えただけなのだが・・・・・・ルカはもうすでに絶句だ。

「あの人・・・・・・誰デスカ」



ルカが声を発するよりも早く、彼は先に行動に出ていた。

ビュンッ。

彼が走るとともに聞こえた音。

彼の体の後ろから風を切る音が追いつくよりも早く、彼は走る。

ソフィーが作った結界など、彼には何の役にも立たない。

それ以前に障害にもなっていない。

一直線に加えられた“ヨーク”という物体の力は、結界の一部を難なく破壊してしまう。

パリン。

ガラスが割れるような音。

しかし、彼はそんな音に気を取られることもなく。

光の破片を付きまとわせながらも、加速するその足は止まることを知らずに、敵集団へと突っ込んでいく。


突っ込んで到着した敵陣の中心。

本来なら絶体絶命なはずのその場所で、全身真っ黒な彼がじと目で今だ彼を認識しきれていない敵を見る。

ニヤリ。

グルルという狼頭の威嚇の音と、彼が急ブレーキをかけたことによって舞いあがった砂が入り乱れる中

、彼は小さく笑って今、この最高な時間の開始を告げる。



ヨークは狼頭に負けずに一呼吸、吠え返してやった。



「よお、バカ面そろえたワンころども。

俺様がやってきたからには安心しろ、お前達をすぐさまあの世へ寝かしつけてやろうじゃねーか!!

きっと、最高だぞ。

俺が歌ってやる子守り歌はさー、お前達の断末魔で奏でてやっからさー。

ほらほら、そんな気持ち悪ぃよだれなんて垂らしやがって。

そんなに俺様に殺して欲しいか?そんなに俺様、じ・き・じ・きに殺して欲しいーのかよ、アアン?

んじゃーまぁー、殺ってやっから・・・・・・そっから一歩も動くんじゃねぇーぞ!!!!」



早口で叫びだされたその乱暴な言葉たちは、どうやってもあの面倒くさがりで口数の少ないヨークから放たれたものとは信じがたい。

しかし、今、言ったのは前方のソフィーでも、真横にいるリースでもニコでもない。ましてや狼頭でも。

受け入れがたいヨークの本当の姿。

普段の彼から想像もできない“彼”が、本来のヨークの姿とでも言うのだろうか。

そんなときに思い出される今朝の意味深なヨークの言葉。

「これが“副作用”・・・・・・」

ここでやっとルカは納得出来た。



戦闘中のヨークは狼頭と張り合うくらいの、まさに獣であった。

多分服かどこかに忍ばせていたのであろうナイフ二本を両手で持ち、その二本の武器だけで敵の斧と応戦。

・・・・・・いや、応戦ではない。

狼頭が動き出すよりも早く、武器を振り下ろすよりも早く。

ヨークは宣言通りに敵を動かすこともなく、次々と急所をナイフで狙い、息の根を止めていく。

迅速かつ、無駄のない、圧倒的な強さ。

これは戦いではなく、一方的な殺しと言ったほうが合っている気がする。



彼の方こそ、正真正銘の狼ではないか。



ヨークは「アハハハハ」と頭に響く笑い声を森いっぱいに響かせながら、視界いっぱいを血の海にしてしまう。

そんな勢いであった。




遠くから見ているだけでも、体が勝手に今日最大の身震い。


(ヨークは本当に要注意人物だ)







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