第11話 受け入れがたいリアライズ♯2
ズズズー
絶え間なく聞こえる、不愉快極まりない音。
(どうしよう。
いつ聞いたら・・・・・・てか、あんまり関わりたくないかもっ)
自分から彼に直接聞いた方がいいのか。それとも、他の人に助け舟を出すべきなのか。
ルカが悩みながらも、目玉焼きの黄身の部分にナイフを入れたとき、
ズズズー プハッ
どうやら隣の彼は朝食を・・・・・・飲み終えたらしい。
「・・・・・・誰」
凛とした低音が、微かに隣から聞こえてきた。
まさか、相手から聞いてくるとは。
見た目でなんとなく、自らは行動に出てこないだろうとルカは思っていたのだが・・・・・・大変、失礼をしたものだ。
「・・・・・・えっと、僕のことですよ、ね?」
「・・・・・・(コクリ)」
彼はルカをじと目で見つめながらも、頷いた。
見つめられている本人、ルカの額には汗がいっぱいだ。
(うわぁー、そんな目で見つめないでー)
恐る恐るという感じにルカは答える。
「実は昨日、レチア組合に入ったばかりのルカといいマス。えと、あっちが連れのニコでして・・・・・・」
そう言って手をニコの方へかざせば、相手もそちらをチラリと見てくれる。
「あのー・・・・・・“ヨーク”さん、デスよね?」
「・・・・・・(コクリ)」
「は、はじめまして宜しくお願いします」
「・・・・・・(コクリ)」
ブンブン←(無言で握手)
しかし、どうしたものだろうか。
はじめの一言以来、何にも話してくれない。
(か、会話が成り立たない)
焦るルカをよそに、ヨークはルカをじーと見つめる。
見つめられる度に、ルカは「何か話さないと」とまた慌てる。
エンドレスリピート。
自分は慌てるというのに、相手は黙々と黙り、何の表情の変化もない。
(ええい、もう聞いちゃえ!!)
躍起になったルカは、単刀直入に聞いてしまった。
「何で、朝ごはん、そんな風に飲んでるんですかっ!!」
「おお!!」
後ろで歓声が上がった。
ソフィーさん、一体何を驚いているのですか。
いやいや、そんな場合じゃない。
(ぼ、僕には、ヨークさんと会話するという試練がっ)
少々熱が入りすぎて、何やら大げさになりすぎてはいるが。
ルカはヨークに注目した。
彼の唇が動く。あの声も聞こえて・・・・・・
「・・・・・・めんどくさいから」
「はっ?」
面倒くさい。
朝食を噛んで体内に取り入れるのが面倒くさい。
だから飲んで取る。
そっちの方が楽っぽいから―――
「って、ちょっと待ってよ。
そんな理由?そんな理由で君は“食べる”という選択肢を失くしたっていうのっ」
「・・・・・・(コクリ)」
何ということだろうかっ!!・・・・・・って、しょうもない。
「ルカ様。
一応、お食事のお席なのでお静かになさってください」
ニコが「はぁー、見ているわたちが恥ずかしいです」とばかりに目をそらし、溜息。
「いやぁ、ヨークに真正面からぶつかっていく人、初めて見たわ!!
ねっ、リース?」
「は、はい。
ヨークも何だかルカさんに興味があるようで、珍しいですよね」
ギャハハッとソフィーは椅子にもたれながら大きく笑い、リースは目を丸く見開いてルカとヨークを見る。
「興味って・・・・・・」
横を再び見れば、またバチッと目が合う。
(あんまし、この人に興味持たれたくない気がする)
何だかろくなことがないような気が・・・・・・ルカの野生の感が働いた。
ひとしきり笑ってすんだのか。
目じりに溜まった涙を拭きとり、ソフィーはやっとルカにヨークを紹介し始めた。
「紹介遅れちゃった・・・・・・っていうか、またもや君達の反応が見たかったから黙ってただけなんだけど。
いやー、ルカ君はいいねぇ。猫ちゃんの方は全然乗ってくんなかったけどさ」
明らかに人の反応を見て楽しむタイプの人だ、ソフィーは。
「こいつはね。
めんどくさがり屋のヨーク。“人間”だけど、凄腕の暗殺者だから要注意ねー」
(凄腕?この人が?)
ソフィーの言葉が信じられないルカ。
思わず、不思議な目でヨークを見てしまう。
「もー、ヨークのめんどくさがりは凄いんですよ!
面倒だといって会話は最小限で済ますし、本当は朝ごはん、『点滴がいいー』って言われたんですが、それはさすがに止めましたよ」
そう言いながらプンプンと少し怒った表情を作ってみせるリース。
リースの言葉を聞いたヨークが、首を横に振り、溜息を吐いた。
「しょうがない・・・・・・コレ、俺の副作用・・・・・・」
(副作用?)
一体、何のことだろうと、ルカはヨークの言葉を聞き流さなかった。
しかし、それを聞く気にも今はなれないので、それは保留へ。
(あーあ、また変な人が増えた)
口へと出かかったその愚痴を、ルカは冷めきった目玉焼きとともに食べた。