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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
序章『未来へ』
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第九話『天に愛された最強』

 ───── 一瞬の出来事だった。


 目の前の幼馴染が撃たれた。

 俺の目の前で、腹部から血を出し、倒れた。


「……あい、な?」


 久しぶりに名前を呼んだ。

 だが彼女に声は届いていない。


「ちっ、不発か。まぁいい、犠牲者が出ただけでも口封じになるだろう。…貴様らに忠告しておく、もし俺が来たことを誰かにバラしたら、お前ら全員を消し飛ばす。」


「───テメェ。何帰ろうとしてんだ。待てや。」


 後ろを向き帰ろうとする相手に待ったをかけた。

 俺の中で完全に何かが切れた。必死に師匠が応急処置をしてくれているが。彼女を撃たれたことに対してか、彼女を守れなかった事に対する怒りか、はたまた両方か。


「──── あ"?誰に口聞いてんだガキ。…んだよその目。気持ち悪いなぁ?ナメてんのか?」


「よせ深海!!あやつは次元が違う!!正直討伐士のトップでも勝てるか分からないほどの実力じゃ!!お前さんじゃ到底無理じゃ!」


「師匠、止めないでください。オレは今、人生で一番イライラしてるんですよ。」


 この相手に勝てるかどうかなんて、この際どうでもよかった。 ただ俺は、愛菜を無慈悲に攻撃したあいつに言葉に出来ない程の憤りを感じているだけだ。


「ぐっ…深海…お主の気持ちはよく分かる。今お前さんは、怒りが抑えられず、殺意だけで動いておるのじゃろう。じゃが、その殺意や怒りをコントロールせなければ、最強にはなれんぞ。」


「───そうだとしても、オレは今、13年間一緒に居た幼馴染を傷付けられたんです!!そんな大事なヤツを傷付けられて、怒りを……抑えられるはずが……ねえだろがぁぁぁ!!」


 大声を出し、走った。

 弁慶の顔面めがけて思いっきり蹴り飛ばした、感触は無い、というよりも。届かない。2m20cmほどの身長がある大男に、ハイキックは胸元にしか当たらず、ビクともしなかった。


「───おいおい痒いなぁ?小学生の蹴りかと思ったぜ。」


「クソ、全然届かねえし効いてねえ……オレは、まだまだなのか。でもオレはこんな所で、負けてらんねえんだよ。」


「そうか、死ね。」


 弁慶が動いた。思い切り頭を殴られ、地面に叩き落とされた。一撃で脳が揺れた、頭から出血もある。目に血が入りそうで前があまり見えない。


「ハッハッハッハ!!一撃でボコされてんじゃねえかよ。あんな偉そうに啖呵切っといて雑魚は雑魚だなァ!!!」


「──おい、まだ終わってねえだろ。クソ野郎が。」


 血だらけの状態で立ち上がった。一瞬でも油断すれば腰から崩れ落ちそうな程にダメージを受けているはずだ。


 だが、頭の中で、誰かが語り掛けている。


 今にも意識がなくなりそうなこの時ですら立ち上がれているのは、彼女の声が聞こえるから。



 ─────────ないで。



 ──────けないで。



 ────負けないで!!!!!



 惨劇の現場を目撃したはずなのに、彼女の鼓舞する声が聞こえてきた。血だらけで前も見えないのに、彼女の姿がうっすらと見えてしまう。


「────馬鹿野郎、オレは負けねえし、倒れねえよ…。お前が……そばに居てくれてる限り…な。」


「あぁ?何1人でブツブツ話しかけてんだよ。気持ちわりい、殴られて頭おかしくなったのか?」


「すぅ……ふぅ……。頼む!!オレのささやかな願いだ!オレに、この一瞬でいい。力を貸してくれ。俺一人じゃ、勝てねえんだ。誰でもいい!!神様でもいい!!俺に!力を貸してくれぇぇぇ!」


 オタク特有の『漫画やアニメから知識を得る』作戦を実行した。神頼みに近いが、誰かに助けを求めるしか無かった。

 頭の中に声が聞こえたのは本当だ。だが、助けを求めるのは、単なる自己暗示でしか無かった。自分ならできる、という単なる自己暗示。


「あ?誰に言ってんだよ。本気で頭イっちまってんじゃねえのか───────」


 弁慶が言葉を途中で止め周囲を警戒し始めた。世界が揺れた、いや、この地が揺れた。

 何が来る、今までとは比にならない程のなにかが。


「─────そこまでだ。」


 弁慶の後ろに、誰かが空から落ちてきた。

 というより、飛んできた。そして、竜馬と同じ上着を羽織った彼は、こう言った。


「───助けを呼ぶ声が聞こえたならば、"討伐士"として、見過ごす訳にはいかない。」


「だ、誰だテメェは!!」



 そうして彼は、鞘から剣を引き抜きこう言い放った



「東商討伐士団。"第一位"神蔵蓮。僭越ながら、君の相手は僕が引き受けよう。」


「…まさか、神蔵って─────」


 弁慶が青ざめた、喧嘩を売る相手を間違えたと、そう判断したような顔で。


「その反応的に、僕の事を知ってくれてたみたいだね。でも僕は今、そこに倒れている急患の治療にあたらなきゃいけない。だからそんなにかまってる時間はないんだ。悪いけど、一撃で終わらせてもらうよ。」


「──クソが、ここは一旦引く。おいそこのガキ!!また戦おうぜぇ??俺がボコし足りねぇからよぉ!!!ハッハッハッハ────」


「おい!!待て!!まだ終わってねぇっつってんだろうが!!逃げんなっ……!!」


 弁慶の体がスルスルと幻影のように消えていった。

 正直逃がしたくなかったのだが、自分の怪我と、愛菜の状況的に、逃がした方が良かったのかもしれない。オレはすぐ様彼女の元へ走った。




 ────── 愛菜!!返事をしろ!!愛菜!!




 彼女が息をしていない。


 そんなの分かりきっていた事ではあるが、俺はこの時焦る以外に感情が出てこなかった。


「──────おい!!愛菜!!返事をしてくれ!!頼む、頼むから!!」


「ダメじゃ、治癒術師を呼ばねば治らん。傷が深すぎて出血が止まらん。」


「…これは酷いな。さっきの大男がやったのか。」


 先程の彼が話しかけてきた。

 オレはもう誰でもいいから、こいつを、愛菜を助けて欲しいと思った。


「ああ、銃で打たれた、腕が銃のように変形して、気付いたら打たれた。どうすれば彼女は助かる!!」


「なるほど、天道教は相変わらず法を犯しても目的を遂行しようとするんだな。卑怯な奴らだ。」

「彼女の容態は、────ちょっと失礼。」


 蓮が愛菜に触れると、愛菜の周りにオーラのような光が浮き出てきた。よくよく見ると、その光は赤色だった。


「────心肺停止、脈も当然止まってるか。」


「……マジかよ。なんで、こうなるんだ。」


「心配しなくとも大丈夫だよ。少し彼女に触れるけど、彼女を助けてみせる。」


「…… 頼む。」


 そう言うと蓮は、愛菜の銃弾を受けた腹部を触り、呪文を唱え始めた。


「天に恵まれし恩恵の原石よ、我が主の名のもとに、授かりし恩恵を解放せよ─────」


「な、なんだこれ。すげぇ……」


 呪文を唱えながら目を瞑り、神経を集中しているように見える。蓮が呪文を唱えていると。彼女の傷口が徐々に、徐々に塞がっているのが目で確認できる。


「─────境界となりて延命せよ。この者に、安らぎと安寧を。」


 全ての呪文が言い終わると、彼女の傷はすっかり塞がっていた。


「──────愛菜!!愛菜の傷が塞がったってことは、助かったのか!!?」


「いや、まだだ。僕の治癒は傷を治すだけで、意識が回復するかどうかはこの子の頑張り次第になってしまうんだ。だからあとは、この子に頑張ってもらうしかない。」


「そんな……愛菜!頑張れ、頑張ってくれ……今度は……今度はちゃんと守ってやるから……、オレ、もう絶対に、お前を見捨てたりしねえから!!」


 意味があるかどうかなんて、この際どうでもいい。

 オレが、彼女に話しかけたいから話しかけた。叫んだ、魂を震わせるくらいの大きな声で、彼女を呼んだ。


「…すまない、そういえば、僕はまだ君の名前を聞いていなかったね。」


「あぁ、そうだな。悪いアツくなっちまって。オレは小柳深海。」


「深海か、よろしく。僕は神蔵蓮。さっきも聞こえたかもしれないけど、討伐士の第一位なんだ。自分で言うのはなんか自慢みたいで嫌なんだけどね。」


「討伐士の第一位って、クソ強えんじゃねえの?いいのか?そんな "最強" がここにいて。」


「討伐士の仕事は、主に平穏に暮らす盗賊たちを守るためにあるからね。君の助ける声が聞こえてきて良かったよ。おかげで助けられた。」

「────とは言っても、彼女を助けられなかったのは僕の責任だ。申し訳ない。」


 深く頭を下げてきた。

 それに対し俺は、申し訳なくなってしまった。彼に悪いところは一個もない、むしろ感謝しなければならないのに。


「いやいや!蓮は何も悪くねえんだし、むしろ助けてくれてありがとう。助けてくれなかったら、オレまでやられる所だった。」


「キミの頭も、さっき血が出てただろ。今は固まって塞がってるみたいだけど、一応治療した方がいい。少し触るよ。」


 傷口の部分に手をかけ、先程と同じ呪文を唱えた後、きれいさっぱり治った。


「──治癒術師ってすげぇなぁ。」


「僕は治癒術師じゃないけどね。僕は討伐士の部類だし、僕みたいなケースは中々居ないから。基本的に治癒魔法は治癒術師の力として扱われる。僕は、ちょっと天に愛されすぎただけなんだ。」


「典型的なチートキャラって所か。んじゃあこの世界は基本的にお前が居れば大丈夫みたいな感じになってんのか?」


 久しぶりのオタクが出てきた気がする。

 約1年ぶりだ。


「そうだな、確かに『東商』の中じゃ、僕が一番強い自負はあるんだけど。他の県の討伐士と比べられちゃうと、正直自信はないんだ。」


「え、討伐士って、県ごとに違うのか?」


「嗚呼、違うよ。それぞれ "7県" ごとに討伐士団が居てね、基本的な部隊構成は同じだけど、人も、実力も何もかも他県とは違うから。」


「─────ん?ちょっと待て。お前今 "7県" って言った?言ったよな?」


 聞き間違いか?

 俺達が生きていた時は47都道府県だったはずだ、何故7つまで減っているんだ。


「嗚呼、7つだよ?まず1番北の『北海相』そしてその下の『岩町』そしてその下の『東商県』そしてその左の『布山県』そしてその左の『大敷府』そしてその左の『徳川県』そして最後に『沖縄県』沖縄県は大昔離島だったらしいんだけどね、何年かで昔の "九州" が沖縄と呼ばれたらしいんだ。」


「未来になって随分削られてんじゃねえか!何が起こって47から7まで減らされてんだよ。」


「────もしかしてだけど、君達も昔の世界からやってきたのか?」


「───ぎくり。そ、そうだ。と言っても信じてもらえるかわかんねえ…え?君達"も"?」


「ああ、討伐士団で香良洲を追っていた時に、似たような事例を聞いたことがあってね。そうか、竜馬が言っていたのは君達だったか。」


 竜馬、懐かしい名前だ。

 最初に良くしてもらってから長く時間が経ってしまったから。


「そうだ、竜馬にも随分世話になったなあ、最近会えてねえけど結構感謝してるぜ。」


「そうか、それなら良かったよ。それにしても東商討伐士 "第二位" と接点があったなんて、知らなかったよ。」



 ──────え、第二位?

ご覧いただきありがとうございます!


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沢山の人に俺の小説を届かせたいです!

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