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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第五章『天道教 vs 東商討伐士』

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第七十五話『消炎』

 "好きだった"


 その二文字は、戦場の残響すら断ち切る刃となって、一瞬にして剣豪の心臓を正確に撃ち抜いた。


 轟いていた炎の爆ぜる音も、遠くで崩れ落ちる瓦礫の震動も、すべてが遠のく。耳鳴りのような静寂が訪れ、ただ彼女の声だけが、胸の奥で何度も反響する。剣豪は彼女の言葉を聞いた瞬間、脳裏に過去の記憶が蘇ってくる。


 一緒に討伐士として旅をした記憶。


 血と汗に塗れた戦場を幾度も越え、背中を預け合い、夜営の火を囲みながら未来を語り合った日々。剣を交える度に深まっていった信頼と、言葉にしなくても通じ合う呼吸。


 一緒に休みの日にバカやって騒いだ時の記憶。

 任務の合間、束の間の休日に市場を冷やかし、くだらないことで笑い転げ、子供のように追いかけ合った時間。世界の重圧から解き放たれた、何よりも無防備で幸福なひととき。


 二人きりでロマンチックな時を過ごした時の記憶。

 夕暮れの丘で肩を並べ、沈む陽を眺めながら交わした他愛ない会話。触れそうで触れない距離に揺れた鼓動。言葉にできなかった想いが、胸の奥で静かに膨らんでいった夜。


 どんな記憶も、彼にとってはかけがえのなく、儚い思い出だった。戦火の中で拾い集めた宝石のように、失えば二度と戻らない光。


 そんな記憶達が、彼女の言葉と共に蘇る。

 甘く、そして残酷なほど鮮明に。


「本当は、言おうか迷ってたの。この大事な気持ちは、隠してた方がいいのかなって…でも、今言わないと、後悔するような気がして。…だから、少し恥ずかしいけど、言いたくなったの。」


 腕の中で血を流す彼女が、弱々しい声で呟くように言葉を紡ぐ。


 彼女の胸元から溢れ出た血は、剣豪の腕を伝い、地面へと落ちて小さな赤い花を咲かせていた。鉄の匂いが鼻を刺し、温もりが確実に奪われていくのを、彼の皮膚は否応なく感じ取っている。


 その言葉を、ストレイドは一言一句聞き逃さない。

 まばたきすら惜しむように、彼女の唇の動きを見つめ、震える呼吸を耳で追い続ける。


「ストレイドからの返事とか…そういうのはいいの。…私が、自分の想いを…伝えたかっただけだから。知って欲しかったの。私の本当の想いをね。」


 目を細めて、剣豪の顔を下から見上げる彼女に、剣豪は、何も言わずに目尻から涙を零していた。


 涙は止めようとしても止まらない。強者として幾多の死を見届けてきたはずの男の頬を、幼子のように濡らしていく。


 彼女の頬に涙が落ち、彼女も釣られて涙を流す。

 血と涙が混ざり合い、彼女の横顔を静かに伝っていく。


 少しの間、沈黙が続いたが。戦場の風が、焦げた匂いを運び、遠くで崩れた建造物の音が低く響く。


 剣豪が口を開いた。

 彼女を斬って、オリジナルの一星灯火が戻ってから、はじめての会話になるだろう。


 自らの刃で終わらせた戦い。その代償として取り戻した、かけがえのない存在。だがその命は、いままさに彼の腕の中で尽きようとしている。


 何を言うのか、剣豪が口を開いた時、彼女は少しの期待感を持っていた。

 震える睫毛の奥に、かすかな希望の光が宿る。叶わぬ未来を、それでも一瞬だけ夢見るように。


「────俺も。ずっと灯火が好きだったんだ。」


 剣豪の一言に、彼女は力無くも目を開いて驚く顔を見せ、剣豪の涙は止まる気配がない。


 その告白は、何十年も胸の奥に封じ込められていた真実。戦いに身を投じ、強さを求め続けた理由の核。ようやく解き放たれた想いは、あまりにも遅く、そしてあまりにも切実だった。


「…最初に約束を交わしたあの日から、俺は、ずっと灯火を想い続けてきた。灯火は俺の全てで、俺の生き甲斐だったんだ。…だから俺はいつか、最強の称号を手にして、世界が平和になった時、しっかりと灯火に告白するつもりだった。…だけど、だけどよ、…お前が先に言うのは、ズリぃだろ … 。」


 涙が零れ落ち、剣豪は籠ったような声で言い続ける。

 拳を握る力が震えに変わり、肩が小さく上下する。最強と謳われた剣士の姿は、そこには無い。


 約束の日から既に何十年も経過し、お互い、いい大人と言われるほどに成長していたが、それでも想いはずっと変わらなかった。


 幾千の刃を受け止め、幾万の敵を斬り伏せても、胸の奥のその感情だけは、誰にも触れさせなかった。


「…ふふっ、そっか。それだったら、もっと早くに…告白しとけば…良かったかなぁ。…そうしたら、もっと、楽しかったかも…。そこは、少し心残りかも、しれない。」


 か細い声で、彼女が呟いた。

 その笑みは淡く、今にも消え入りそうな灯火のように揺れている。


 声は、先程よりもか細く、彼女の寿命がどんどんと底を尽きようとしているのが聞いてるだけでわかる。

 呼吸は浅く、胸の上下は次第に小さくなり、指先から力が抜けていく。


「灯火…俺は…これから何を目指して生きればいいんだよ。…今ここで、お前が居なくなっちまったら、俺の目指す所が無くなっちまう。…俺は灯火を、一番大好きで大切な人を守れなかった。……俺は、剣士失格だ。」


 剣豪は彼女の前で弱音を吐き、涙を零す。

 血に塗れた大地の上で、膝を折り、誇りも肩書きも投げ捨てる。


 彼女の前でしか見せない。本当の自分。

 剣豪という肩書きに包まれ、世界から四英傑と讃えられる英雄の姿は、今の瞬間だけ、無くなっていた。


 残っているのはただ一人の男。

 最愛の人を抱きしめながら、崩れ落ちることしかできない、弱くて不器用な一人の人間だった。


「…でも、あなたは私を救ってくれた。ストレイドは、間違いなく私の"英雄"だったんだよ。……私、聞こえたの。暗い暗い闇の中で、ストレイドの声が。"帰ってこい"っていう声が、聞こえた気がして、目を覚ましてみたら、抱き締められてて。…不意に、ドキドキ…しちゃったんだ。それと同時に、ストレイドのお陰で、あの自決の時間が作れたんだって、思ってるんだ。…私からしたらストレイドは、最強で、最高の剣士だったよ。」


 戦場にはまだ熱が残っている。砕けた地面の隙間から立ち上る白い蒸気が、ゆらゆらと揺れ、焦げた空気が肺を刺す。


 先ほどまで命を奪い合っていたこの場所で、彼女は穏やかな声を紡いでいる。

 その対比が、あまりにも残酷だった。


 彼女の声ひとつひとつが、剣豪の心をかき乱す。

 刃を受けた時よりも深く、鎧を貫く矢よりも鋭く。


 愛情、喪失感、孤独感。様々な感情が一気に噴き出し、胸の内側を引き裂いていく。強者として築き上げた精神の防壁が、音もなく崩れていく。


 彼女の言葉の中にあった“闇”という響き。

 それは、彼女が操られていたあの時間。


 自らの意思とは無関係に刃を振るい、暴走し、最後には自ら命を絶とうとした瞬間。あの時、彼が駆け寄らなければ、抱き締めなければ、彼女は孤独のまま消えていた。


 戦闘の記憶がフラッシュバックする。

 紫の瘴気を纏い、暴風のように剣を振るう灯火。

 地を割る衝撃波、火花を散らす激突、視界を焼く閃光。彼は迷いを断ち切るように踏み込み、渾身の一撃で彼女を止めた。


 その刃は敵を斬るためではなく、“彼女を取り戻す”ための刃だった。その結果が、今この腕の中にある。


「……ストレイド。私を救ってくれて、ありがとう。あの時の約束を、しっかり守ってくれて、ありがとう。」


 先程よりも弱々しい声で呟いた。

 吐息に混ざるほど小さな音。

 か細く聞き取りずらいはずなのに、ストレイドの耳にはしっかりと届いていた。

 それは、どんな戦場の怒号よりも、明瞭だった。


「…やっぱり、カッコつけようと思ったけど、俺も蓮と同じで灯火を失うのは嫌だよ。耐えられる気がしないんだ。…俺はこれから、また三人でバカやって、笑いあってふざけ合って。団長に怒られて、なんやかんや楽しくて。…そんな夢物語を描いてた自分がいたんだ。…こんな歳でも関係ない。いい大人になっても変わらない。そんな日々を過ごして…」


 彼の声は低く、震えていた。

 未来を語るその言葉は、もはや届かない未来への祈りに等しい。戦場を幾度も越え、四英傑とまで称えられた男が、今はただ一人の未来を乞うている。


 剣豪の目は、ずっと彼女の方へ向いていた。

 下を向き、灯火が上を見上げる状態。


 彼の視界には彼女しか映っていない。

 剣豪の流す涙は、全て彼女の頬をつたって落ちていく。その涙は温かく、彼女の冷え始めた肌に、かすかなぬくもりを残した。


「───そしていつかは、灯火と結婚したかった。」


 その言葉は、静かだった。

 だが、何よりも重かった。

 戦場で交わされる誓いよりも、王に捧げる忠誠よりも、ずっと重い本音。


 様々な思い出を振り返りながら、彼女に想いを伝えた。剣を交えた日々、肩を並べて歩いた帰り道、沈黙の中で交わした視線。


 好きという感情とは別に、一緒になりたかった旨を。

 ずっと心の中で思い続けていた感情を、彼女に吐いた。隠し続けた未来図を、今になってようやく言葉にする。


「灯火と結婚してから、討伐士を引退して、一緒に幸せになろうと思ってた。でも、もうそれは叶わねえ。……灯火がいなくなったら、もう、俺の行く道はねえんだから。何処にも道がなくて、ずっと、見えない先を歩き続けなきゃいけない。……そんなの、退屈だ。」


 戦場の風が吹き抜け、砕けた旗がはためく。

 彼の言う“退屈”は、虚無のことだった。


 目標も、守るべき存在も、帰る場所もない未来。

 最強であることが、何の意味も持たなくなる世界。


 弱音を吐いて、ネガティブな感情になっていた。

 目を瞑り、落ち込むような顔を見せる剣豪。


 四英傑の威厳は影もない。

 そこにいるのは、ただ未来を奪われかけた一人の男。

 灯火はそっと頬に手を添えて、彼を見る。


 その動きはゆっくりで、震えていて、それでも確かな意志があった。触れた生あるもの全てを焼き払う、彼女の最強な異能は既に消失しかけていて、


 炎の残滓も、焦熱の気配も、もう感じられない。

 彼女の手には、暖かい感覚だけが残っていた。

 ただの、人のぬくもり。


「───ストレイド。私も、同じ気持ちだった。ストレイドと結婚して、お兄ちゃんを家に呼んで、他の同期たちも呼んで、昔の出来事を…振り返って。…二人で泣いたり笑ったりして、……あと、少し恥ずかしいけど、子供とか…欲しかったな。男の子でも、女の子でもいいの、きっと強くて逞しくて、ストレイドみたいに優しい子になると思ってた。」


 未来を語るその声は、かすれているのに、確かに幸福を描いていた。命の残り火が消えないうちに、想いを全て吐こうと死に抗っている彼女。


 まるで、言葉にすることで、その未来を一瞬でも現実に留めようとするかのように。それを、剣豪は再度黙って聞いていた。否定もできず、肯定もできず。


 ただ、その夢を壊してしまう現実を抱えたまま。


「…私も、ストレイドと同じで、色々頭の中で夢物語を描いたんだよ。…でもここは死と隣り合わせの戦場の世界。こうなることも、もちろん覚悟してたから、こうなっても仕方ないかなって思って、生きてきた。」


 彼女の綺麗な瞳で、真っ直ぐと剣豪の目を見て呟いた。その瞳は澄んでいる。


 どこか真剣な顔で、どこか寂しそうな顔で。

 覚悟と未練が、静かに同居している。

 遠くで崩れた石材が、最後に小さく音を立てて崩れ落ちた。


 戦いは終わっている。

 だが、本当に終わろうとしているのは─────

 彼らの、未来だった。


「───だから、ストレイドも同じように生きて欲しい。いつ死ぬか分からない修羅の世界で、しっかり自分の使命を全うして生きて欲しい。戦う事から逃げないで、諦めないで、自分の持ってる力を、弱き人のために使ってあげて欲しい。平和を求める市民の声に、あなたが答えて欲しいの。……私が世界で一番大好きな、あなたに。」


 震えながらも揺らがぬ声音だった。胸を裂くような痛みを抱え、呼吸一つごとに命を削り取りながら、それでも彼女は願いを託す。


 戦場を渡り歩いてきた者だけが知る現実の残酷さを理解したうえで、それでも未来を他者に委ねるという選択。その覚悟は、刃より鋭く、炎よりも強く、静かに剣豪の魂へ突き刺さっていた。


 "一星 灯火"という人間は、どこまで強いのだろう。


 純粋な戦闘能力だけではなく、志や想いまでも。


 幾度も死地を越え、幾度も絶望を見て、それでも他者のために力を振るい続けてきた少女。その強さは腕力でも異能でもなく、最後の瞬間になお誰かの未来を願える心そのものだった。


 戦場に立つ者として、そして一人の人間として、彼女はあまりにも高潔で、あまりにも眩しかった。

 命のともしびが消えていく中、市民の事も思い遣り、自分の理念を剣豪、ストレイド・ヴェルリルに託そうとしている。


 灯火は何処までいっても、剣豪が越えられない、強者だったのだ。炎に囲まれた焦土の只中で、彼女だけが不思議な静謐をまとっている。


 その姿は、血に濡れながらも気高く、まるで散り際を選ぶ花のように凛としていた。ストレイドの胸に去来するのは敗北感ではない。追いつけぬほどの敬意と、どうしようもない愛情だった。


「……そうだよな。…俺、強えもんな。……分かったよ灯火。俺と蓮を筆頭に、俺達討伐士がこの世界を平和に導く。…だから、灯火は上から見守っててくれよ。あと、いつかそっちに行く時に、俺らの席くらい用意しておいてくれ。抜け駆けしたら許さねえからな。」


 喉の奥で嗚咽を噛み殺しながら、それでも彼は無理やり笑みを作った。崩れ落ちそうな心を、彼女の望みに縛り付けるように。


 誓いは軽口の形をしていたが、その実、剣士としての生涯を賭けた宣言だった。未来を背負う覚悟を、涙の裏で固める。


 剣豪は軽く微笑み、口角を上げた。

 それに釣られて、灯火も軽く口角を上げて微笑む。


 血と煙に満ちた戦場で、その一瞬だけが穏やかな日常の断片のように切り取られる。戦いも痛みも忘れた、ただの若者たちの表情。だがそれは、あまりにも儚い奇跡だった。


 膝を着き、会話を聞いているだけの蓮だったが、剣豪の言葉で顔を上げ、二人が話しているところを見始めた。


 拳を握り締めたまま、爪が食い込むほど力を込めても、どうすることも出来ない現実。兄として、戦士として、何一つ救えない無力感が胸を焼く。それでも目を逸らさない。最期まで見届けることが、せめてもの責務だった。


「ふふっ … 分かった。…しっかり、用意しておくね?… ああ、ごめん、二人とも。もうそろそろかも。…視界がぼやけて、よく分からなくなってきた。…これから、どうなるんだろうなぁ…。」


 灯火の体は、既に大量の血を流し限界突破状態。


 衣服は赤黒く染まり、足元には小さな血溜まりが広がっている。呼吸は浅く、指先は冷え、焦点の合わない瞳が空を彷徨う。それでも声だけは、最後まで彼らを気遣う優しさを宿していた。


 ここまで会話を続けられたのが奇跡だったほど、彼女の体は衰弱していた。

 死に近づいてる実感が彼女の中で湧いているのか、目を細めて目の光が徐々に薄くなっていく。


 世界の輪郭が滲み、音が遠のき、体温が砂のように零れ落ちていく。その過程すら、彼女は受け入れようとしていた。


「───灯火…!ダメだ…やっぱりダメだよ…!!…まだ俺は…お前に何も出来てないじゃないか…!!何もしてあげれてないのに…俺より先に逝っちゃだめだ!!」


 抑え込んでいた感情が決壊する。叫びは戦場に虚しく響き、焦げた空気を震わせる。第一位としての威厳も、兄としての誇りも、その瞬間には何の意味も持たなかった。ただ一人の妹を失いたくない男の、むき出しの慟哭だった。


 後ろから見ていただけの第一位であり、家族であり、兄貴が後ろから飛び付くように涙ながらに走ってきた。

 彼女の冷たくなっていく手を握り、三人の周りを囲む炎の残り火が、徐々に消えていく。


 ぱち、と小さな音を立てて炎が崩れ落ちる。まるで彼女の命と歩調を合わせるかのように、熱も光も弱まっていく。


「……おにい、ちゃん。…ごめんね。…でもさ、私、本当にお兄ちゃんが居てくれただけで、充分だから。…私を探してくれて、私を見つけてくれて、本当に嬉しかったよ。…大丈夫、ちゃんと二人のこと見てるから、…なるべくゆっくり…来るんだよ。早くに来たら…許さないからね。」


 掠れた声は風に溶けそうで、それでも確かに二人の胸へ届く。感謝と愛情を、最期まで言葉に変え続ける強さ。別れの言葉でさえ、彼女は微笑みを含ませようとする。


 先程よりも衰弱した声、もう直ぐにでも旅立ちそうな。そんな雰囲気を醸し出していた。


 兄である蓮は泣きながら俯き、独り言をぼそぼそ呟いている。ストレイドは変わらずに、彼女を最後まで見ていた。


 涙で滲む視界の中でも、彼は瞬きをしない。焼き付けるように、その姿を刻む。忘れぬために。生き続けるために。


 そんな時、灯火が呟いた。


「─────ストレイド、最期に…私からわがまま…言ってもいい…?……耳、貸してくれる?」


 弱々しい声で、それでも意志のこもった声で、剣豪に対して我儘を、剣豪も答えようと顔を近づけ耳を傾けようとした。


 鼓動が早まる。何を望まれても応えると、迷いなく思えた。


「─────っ!」


 その時、彼女が最期の力を振り絞って顔を上げ、剣豪の唇を奪った。剣豪は目を見開いて驚き、蓮はその光景を見てさらに驚いていた。


 触れたのは一瞬。それでも確かな温もりがあった。冷えゆく体の中に残された、最後の熱。


「───ふふっ、わがままっていうのは、これ。……もしストレイドと両思いだって分かったら、しようと思ってたの。…はあ、最後に…出来て良かった…。」


 彼女の頬が若干赤く染まり、幸せそうな顔をして目を瞑る。剣豪の涙が止まり、幸せを感じる程だった。


 胸を締め付ける悲しみの奥に、確かな幸福が混じる。失う痛みと、得た温もりが同時に存在する矛盾。その感情の渦に、彼は立ち尽くすしかなかった。


「────私、今凄く幸せなんだ、…死ぬ前に、こんな幸せでいいのかな…。幸せなまま、天国に旅立てるなんて…私はツイてるなぁ…。」


 彼女が冷たくなっていく。目から光が消えようとして、一星灯火が無くなろうとしていた。


 呼吸は途切れ途切れに細くなり、やがて静寂が訪れる気配が満ちる。戦場の音が遠く、遠くへ退いていく。


 灯火の手を強く握る蓮と、最期まで上から顔を見下ろすストレイド。


「最期まで…二人と居れて…幸せ…。…お兄ちゃん、ストレイド、……がんば…っ…て…。ね…。」


 声はもはや風に溶けるほどか細く、それでも確かに二人の鼓膜を震わせた。吐息と共に零れ落ちたその言葉は、戦場に残る焦げた鉄の匂いと血の匂いの中で、ひどく澄んでいた。


 彼女の胸が小さく上下するたびに、生命という灯が、ゆらり、ゆらりと揺らぐ。まるで嵐に晒された蝋燭のように、今にも掻き消えそうで、それでも最後の光を放とうとしている。


 彼女の全身の力が抜けた。

 脈が止まった、心臓の鼓動が止まった、脳が機能を停止した。目の光が完全に消えた。


 その瞬間、時間が凍りついた。遠くで剣と剣がぶつかり合う金属音が鳴り響いているはずなのに、二人の耳には何も届かない。


 血の滴る音さえ、やけに大きく感じられる。握られていた手から、わずかな力さえ失われ、指先が重力に従って沈んだ。


 ─────灯火が、死んだ。


 事実は、あまりにも簡潔で、あまりにも残酷だった。

 戦場で幾千の死を見てきた二人でさえ、その一言は刃のように胸を裂いた。


「……ダメだ…ダメだよ…。まだダメだよ…。……灯火…灯火…灯火ぁあああ!!!!」


 蓮の叫びは、裂帛だった。喉が潰れるほどの絶叫が、煙の立ち込める空へと突き刺さる。握りしめた手に力を込めるが、返ってくる握力はもうない。


 温もりは、急速に失われていく。彼の肩が震え、歯を食いしばる音が聞こえる。第一位と称される男の威厳など、そこにはなかった。ただ、妹を失った兄がいた。


 柄にもなく泣き喚く隣で、剣豪はそっと彼女の瞼を閉ざした。震える指先で、ゆっくりと。戦場で何度も見てきた所作のはずなのに、その動作はひどく重かった。


 閉じられた瞼の下に、もうあの強い光はない。だが、その表情は不思議なほど穏やかで、先ほどまでの苦悶の痕跡は消えていた。


「────灯火。… やっと、楽になったんだな。……苦しい中、すぐに死ぬ事なく、俺らに想いを託してくれて。ありがとう。……どうか。安らかに眠ってくれ。」


 低く、押し殺した声だった。

 だが、その一語一語には、確かな敬意と、尽きぬ愛情が込められている。


 そう言うストレイドの目からは、涙が溢れ落ちた。

 屍になった灯火の頬に落ち、そのまま地面へ落ちる。


 涙は彼女の頬を伝い、血と混ざり合い、黒ずんだ土へと吸い込まれていく。まるで彼の感情ごと、この戦場が飲み込んでしまうかのように。


「…はぁ…灯火…、…俺を、一人にしないでくれよ。なんで…なんでだよ…っ。…」


 蓮の声は、崩れ落ちた。強者の仮面は完全に剥がれ、嗚咽が混じる。肩を震わせ、額を彼女の手に押し当てる。彼の中で積み重なっていた喪失が、堰を切ったように溢れ出していた。


 弱音を吐きまくる第一位に、剣豪がぽんと肩を叩く。

 その手は、重くもなく、軽くもない。だが確かに現実へ引き戻す力を持っていた。


「何弱音吐いてんだよ馬鹿野郎。お前らしくねえ。…お前には、こんなに強え親友の俺がいるじゃねえか。だからお前は独りじゃねえ。安心しろ。…灯火はもう居なくなっちまったし、俺は灯火の代わりになろうとも思わねえ。ただこれだけは言える。────本当に、お前は独りじゃねえよ。」


 剣豪の声は荒れていた。それでも、芯は折れていない。


 灯火に託された言葉が、彼の背骨を支えていた。

 代わりにはならない。だが、隣には立つ。

 それが彼なりの誓いだった。


 後輩であり、かつての青春を共に過ごした同志を慰める剣豪の優しい声に、蓮は段々と落ち着きを取り戻してきた。


 荒かった呼吸が、少しずつ整う。拳の震えも、わずかに収まる。涙で濡れた顔を乱暴に拭い、現実を受け止めようとする強さが、ゆっくりと戻ってくる。


「───嗚呼、そうだな。悪い、ストレイド…。流石に、取り乱しすぎた。…俺、母親が死んだの最近なんだよ。…だから、メンタルがおかしくなってたのかもしれねえ。…半年もしねえうちに、家族を二人も失っちまったからな。」


 絞り出すような告白だった。

 喪失は連鎖し、心を削る。第一位と呼ばれる男であっても、耐えられる量には限界がある。


 それでも彼は、深く息を吸い、吐いた。戦士として立ち続けるために。蓮は深呼吸をし、落ち着きを取り戻した。こうしている間にも、各所で剣の音や機工術士が作ったであろう兵器を使う音が聞こえ、戦争はまだ終わっていないことを二人に感じさせていた。


 爆ぜる火花、炸裂する砲撃、地面を震わせる衝撃。

 空には未だ黒煙がたなびき、遠方では光線が交錯している。


 死は、灯火だけのものではない。この瞬間にも、誰かの命が散っている。二人は、その現実から目を逸らすことはできなかった。


「───なあストレイド。悪いが灯火を頼めるか。ここは幸いにも、東商政府の近くだ。東商政府まで行ければ、死体安置所がある。…そこで、灯火の傍に居てやってくれ。」


 蓮は、東商の中心に位置する大きな施設を指差した。


 煙の向こうにそびえ立つ巨大な建造物。幾重にも重なった外壁は鈍く光り、戦火の中でも揺るがない威容を保っている。その姿は、まるでこの世界の最後の砦のようだった。


 東商政府内は、総じて安全に作られていて、外壁も特殊な金属で出来ている。


 重厚な合金は衝撃を吸収し、熱を遮断し、あらゆる攻撃を無効化するために設計されている。幾度もの戦争を想定し、最悪を前提に築かれた構造体。


 核爆弾でも傷一つ付かない。そしていざとなれば、全体にバリアを貼ることが出来て、全ての攻撃から守ることが出来る。たとえ地球が爆発しても、宇宙の大気圏内で無傷になるほど頑丈になっている。


「…蓮、お前…戦う気なのか?まだ。」


 剣豪は灯火の遺体を抱き上げ、ゆっくりと立ち上がった。腕の中の体は驚くほど軽く、つい先ほどまで確かに鼓動を打っていた温もりが、少しずつ失われていくのをはっきりと感じ取ってしまう。


 お姫様抱っこの体勢のまま、彼は一瞬だけ目を伏せ、それから視線を上げた。視界の先には、剣を凛々しく握り直し、ふらつきながらも立ち上がる蓮の姿がある。


 血と煤で汚れたその横顔は、悲嘆に沈みながらも、なお折れていなかった。その事実に、剣豪はほんの僅かに目を見張る。


「─────当たり前だ。俺は、この世界の平和を守る "討伐士" だからな。平和が脅かされてる限り、戦い続けるよ。… 灯火のようにな。」


 蓮の声は掠れていた。だが、その芯にある意志は微塵も揺らいでいない。胸の奥で暴れる痛みを無理やり押し殺し、討伐士としての責務を最優先に据えるその在り方は、もはや本能に近い。


 彼の足元には、崩れ落ちた天井の残骸と黒く焦げた床が広がり、激闘の痕跡が生々しく残っている。それでも彼は前を向く。妹の死を抱えたまま、なお。


「……やっぱり流石だよ。蓮。お前の覚悟はよく伝わったよ。それでこそ、討伐士第一位だな。」


 剣豪は小さく息を吐き、苦笑にも似た表情を浮かべる。称賛というより、確認だった。この男は折れない。どれほど心を抉られようと、前へ進むと決めたなら止まらない。その危うさも、強さも、誰より理解している。


「────じゃあ蓮。お前は私と共に行こう。」


 低く、威厳のある声が横合いから差し込んだ。空気が一瞬で張り詰める。振り向けば、崩れた壁の向こうに、堂々と立つ一人の男の姿。


 焼け焦げた瓦礫の間を、迷いなく歩いてくるその足取りには、長年戦場を知る者の重みがあった。


「父上…!」


「……いつから居たんだ。団長殿。」


「私が来たのは今さっきだ。状況も把握出来ていないが、ストレイドの中に抱きかかえられているものを見れば、大体の予想はついている。……激闘だったのだな。天井は無く、周りの瓦礫も焦げてボロボロになっている。」


 団長は周囲を一瞥する。崩落した梁、溶けた金属、黒煙の残り香。ここでどれほどの力がぶつかり合ったのか、語らずとも理解できた。


 その視線が、やがて灯火の亡骸へと落ちる。ほんの一瞬、父としてではなく、一人の戦士として、深い沈黙を置いた。


「……嗚呼。灯火はもう死んだ。…俺が、灯火を殺したんだ。……俺を生かすか殺すかは、現団長におまかせするつもりだ。なにせ、元とはいえ討伐士一位であり、絶対的な力で平和を維持していた象徴を殺したんだからな。死刑や極刑になってもおかしくはねえ。最初から、そいつは受け入れる覚悟だったよ。」


 剣豪の声音に虚勢はない。腕の中の重みと共に、自らの選択の結果を受け止めている目だった。逃げる気も、弁解する気もない。


 ただ事実を差し出す。その瞳の奥には、友を斬った者の苦渋と、それでも退かなかった覚悟が静かに燃えている。


 団長はその目を真正面から見つめ、深く息を吐いた。かつて三人が無鉄砲に笑い合っていた日々が脳裏をよぎる。未熟で、無謀で、それでも誰よりも真っ直ぐだった時代。


「はあ…ストレイド。私は君ら三人が"三馬鹿"と呼ばれていた時代から知っているのだぞ。ここでストレイドを咎めるほど、人の心を捨てたつもりもない。……確かにストレイドのした事だけを見ると、大罪人になってもおかしくないが。……君はどんな理由があろうと天道教幹部になった一星 灯火を撃退した。それは何にも変えられない功績なんだよ。昔の事なんて関係ない。大事なのは今だ。そうだろ?だから俺は、お前を罪に問うことはしない。……だから今は、焼かれるまで灯火の隣に居てやれ。これからは、私と蓮で戦場に戻る。」


 静かだが断固とした宣言だった。組織の長としてではなく、三人を知る大人としての判断。団長は戦場の方へ振り向き、逞しい背中を見せる。


 その背には、幾度も死地を越えてきた歴戦の重みが刻まれていた。その隣に、同じ方向を向いた蓮が並ぶ。目の奥の赤みは消えていないが、意志は研ぎ澄まされている。


「ストレイド。俺…いや、僕からも頼む。…灯火の事を、ずっと見てやってくれ。……あいつ、あー見えて結構寂しがり屋ですぐ寂しがるからよ。」


 兄としての最後の頼みだった。強がりの裏にある、どうしようもない愛情が滲む。剣豪は何も言わず、ただ小さく頷いた。その動きだけで十分だった。


 二人は同時に地を蹴る。瓦礫を跳び越え、黒煙の向こうへと駆け出していく。背中が遠ざかるのを見届けながら、ストレイドは聞こえないほどの声で呟いた。


「────お前ら、ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ。生きて帰ってこい。」


 信頼している。だが、それと心配は別だ。どれだけ強くとも、戦場に絶対はない。胸の奥に渦巻く不安を押し込み、彼は静かに踵を返す。


 東商政府の巨大施設はすぐそこに聳えていた。特殊金属で覆われた外壁は鈍い光を放ち、戦火の中でも揺るがぬ威容を誇っている。


 数分歩くだけで辿り着ける距離。その短い道のりを、灯火を抱いたまま、一歩一歩確かめるように進んでいく。


 ストレイドは戦線離脱、灯火は死亡。

 残った蓮と団長は、再び戦場へ戻っていった。


「…蓮、だいぶ辛いとは思うが。今は戦場だ。気持ちを切り替えろ。それが討伐士の────」


 瓦礫を蹴散らしながら並走する団長の声は、風を裂いて届く。だがその言葉の続きを、蓮が先に継いだ。


「やるべき事。ですよね。分かってます。父上の教えてくれたこと、しっかり身についていますから。…それに、あの剣バカが珍しく僕を励ましたので。切り替えはできてます。……僕はこれからも、灯火の想いを背負って、討伐士として戦っていきますから。」


 走りながらも、蓮の脳裏には先ほどの光景が焼き付いている。妹の最期の笑み、零れ落ちた涙、託された言葉。


 その全てを胸の奥に刻み込み、彼は速度を上げた。遠くで剣戟の音が響き、機工術士の兵装が火花を散らしている。救援を求める叫びが風に乗る。


 第一位と団長は、迷いなくその中心へと向かう。

 戦いは、まだ続いていた。




 ────




「……いいねえ、私の想像以上だったよ。一星 灯火という天道教最強のカードと、神蔵蓮という討伐士最強のカード。ぶつけてみたらどうなるか期待してたんだけど、まさに、期待以上の結果だったなぁ…。剣豪の登場が、やっぱり大きかったんだろうねぇ。」


 あの時、小柳 深海の前に現れた少女が、独り言を呟いている。何もない、無の空間の中で。


 そこは色も音も温度も存在しない、完全なる虚無だった。上下の感覚すら曖昧で、重力さえ彼女に意味を持たない。


 足元はあるのかないのか分からず、それでも少女は確かに“立っている”という確信だけを持っている。白とも黒ともつかぬ空間は、まるで世界の裏側を剥がして覗いたかのような異質さを孕み、現実という殻から切り離された思考だけの領域だった。


 その中心で、少女は愉しげに目を細める。まるで盤上の駒が想定通りに動いたことを確認する棋士のように、満足げな笑みを浮かべながら。


「……さて、そろそろこっちの戦いも正念場かな。……小柳 深海と鉄壁のベンケイ。…はたして、どんな結末になるのかなぁ。深海にはアドバイスをしたつもりだけど、しっかり伝わってるかなぁ。…私的には、深海が勝った方が面白いからね。………期待してるよ。」


 少女はくるりとその場で回る。だが衣擦れの音一つ鳴らない。風も存在しないこの世界では、揺れるものは何一つないはずなのに、彼女の髪だけが不自然にふわりと浮かび上がった。


 瞳の奥には、慈悲でも悪意でもない、純粋な観測者の光が宿っている。救いでも破滅でもなく、ただ“より面白い未来”を選別する冷酷な好奇心。


 深海が勝てば物語は加速する。ベンケイが勝てば均衡は保たれる。どちらに転んでも破綻はしない。だが彼女は、均衡よりも波乱を好む。


 それがこの少女の本質だった。

 少女が無の世界で呟いた言葉は、もちろん誰にも届かない。ただの独り言に過ぎないが、その独り言は、異様な不気味さを放っていた。


 虚空に溶けたはずの声音は、しかし空間そのものに染み込むように広がり、やがて見えない波紋となってどこか遠くの戦場へと影を落とす。


 観測されるということは、干渉されるということ。

 誰も気付かぬまま、運命の糸はほんのわずかに撓んでいた。



 ──────



「……灯火。やっとふかふかのベッドで、ゆっくり出来るな。…きっと天道教に洗脳されてた時も、こんな最高のベッドで寝たこと無かっただろ。」


 死体安置所で彼女を寝かせて、隣に座るストレイド。

 死体安置所とはいっても、病棟のようになっており、個室個室で分かれていた。


 白い壁は清潔に保たれ、消毒液の匂いが静かに漂っている。冷たいはずの場所なのに、この部屋だけはどこか柔らかな光に包まれていた。


 灯火は静かに横たわっている。まるで眠っているだけのように、安らかな表情で。戦場で見せていた激情も、苦悶も、そこにはない。ただ穏やかな少女の顔があるだけだった。


「───今頃、灯火は兄貴の様子でも見てるだろうな。…俺は今ずっと隣にいれてやれるが、あいつはそうもいかねえし。」


 剣を置き、椅子に腰掛けて下を向き話す彼。

 重厚な長剣は壁に立てかけられ、その刃はもう血を求めていない。ただの鉄の塊として、沈黙している。


 ストレイドの拳は膝の上で静かに握られていた。指先が白くなるほど力が入っているのに、震えは止まらないら。返事などあるはずもない。だがずっと独り言を話続けていた。言葉を止めれば、静寂が押し寄せる。静寂は、現実を突きつける。


 だから彼は喋り続ける。彼女がそこにいると、錯覚できるように。


「───ったく、最後にファーストキスまで奪っていきやがって……。反則だっつうんだよ…馬鹿野郎が…。……これじゃあ、灯火の事、忘れたくても忘れらんなくなっちまうじゃねぇか…。」


 かすれた声が、白い部屋に吸い込まれていく。

 あの瞬間の感触が、まだ唇に残っている気がした。炎のように熱く、同時に壊れてしまいそうなほど儚かった温もり。


 彼女は最後まで勝手だった。勝手に背負い、勝手に決めて、勝手に笑って、そして勝手に奪っていった。

 だが、その“勝手さ”こそが灯火だった。


 ストレイドの目尻から涙がこぼれ落ち、肩を揺らしながら彼女の近くで静かに涙を流した。


 雫は頬を伝い、顎から落ち、白い床に小さな染みを作る。蓮の前では強がり涙をすぐに引っ込めたが、今は一人、いや、二人きりだ。涙も流したい。


 強く在ることを求められ続けた剣豪も、今だけはただの男だった。守れなかったという悔恨と、守りきったという誇りが胸の奥で絡み合い、どうしようもない痛みとなって込み上げる。


 こうして戦が終わるまで、ずっと彼は、隣に居た。

 夜が更け、窓の外の光が変わっても、彼は動かない。


 ただ静かに、灯火の傍で。

 まるで彼女が目を覚ますその瞬間を、今も待ち続けているかのように。

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