第七話『彼女が剣を振る理由』
─────はぁ、はぁ。ちょっと、休憩。
同棲訓練生活を始めて数日が経った。感想を一言で言えば。『ドギツイ』だ。
この金髪女、師匠とは比べ物にならないほどキツイ。一番厄介なのは、この女が加減を知らないこと。
木刀だから死なないと思い込んでいるのか、思いっきり木刀を振り下ろしてくる。避けるのが精一杯。正直今のままじゃ体がもたない。鍛えたはずの体力が限界値を超えそうになっていた。
「──もう休憩デスか?シン。まだ1hourしか経っていませんよ?」
「無理無理、1時間もやってんだから一回水飲ませてくれよ。」
「全く、仕方ありませんネ。じゃあ私の手作りおにぎり食べて元気だしてクダさい。」
ちなみに彼女は、仲良くなると敬語になる珍しいタイプで、この数日の訓練で俺達はだいぶ打ち解けていた。
岩の上に座り、2人隣でご飯を食べる。ちなみに食料は爺さんが持ってきてくれる。小屋に冷蔵庫とキッチンはあるからある程度充実はしているが、訓練が死ぬほどキツイ。
「───うまっ!これ超うめえ!」
「フフッ、当然デス。私が作ったのですから。」
「美咲、料理できるんだな。」
「昔は出来なかったのですが、一人で頑張ってStudyして覚えたのですよ。」
「なるほどなぁ。つか気になったんだけどさ。その日本語と英語混ぜるやつ、癖?」
「ハイ、完全に癖デス。私は元々アメリカに居ましたから。日本語が分からないところや言いずらいところは全てEnglishに置き換えてるんデスよ。」
「それで独学で日本語覚えられるってすげぇな、日本語って結構難しいんだろ?」
「まぁえいごより字が多いですからね。A〜Zと、あ〜んまででは雲泥の差ってやつデスよ。でも正直、英語の方が喋りやすいです。」
「だろうな、俺全く英語出来ねえし。」
「出来なそうな顔してますもんね。」
「おいそれ失礼だぞ。日本の道徳学んだかお前。」
「どうとく?というのはなんですか?」
「マジかよコイツ。────道徳っつうのは人間に絶対必要な優しさや思いやりを学ぶ授業だよ。心のノートとかやらなかったか?」
「私学校はアメリカだったので、やってませんでした。」
なんて世間話をしながら昼ごはんを食べ終え、またひと修行へと戻る。彼女の剣技は目を疑う時があるほどだ。
手首が柔らかいのか、腕を動かすのが早いのか分からないが、剣を動かすスピードが明らかに常人の域を超えている。
分かりずらい人は、某巨人アニメの人類最強兵士を思い浮かべて欲しい。その人のレベルだと俺は思ってる。
それに果敢について行く俺は、何度も何度もやっているのだが、彼女に一撃を与えることすら出来ていない。
「───はぁ、はぁ。…なあ、どうしたらそんなに剣が上手くなるんだ?」
「そうですね、一番はやはり相手の動きをしっかり見ることデス。相手を見るというのは、相手の次来る動きを予測して、それに合う最適解を瞬時に判断すること、という意味ですよ。」
「難しい日本語使えてんじゃん。」
「剣を早く動かすには、自分の手を剣だと思えばいいんデスよ。何言ってるか分からないって顔してますけど、実際そうなんデス。剣は実際重さもありますし難しいデスが、そこは筋力で補い、大切な "手の柔らかさ" は体に染み込ませるしかないんデスよ。」
「なるほど、"相手を見ること" と "手の柔らかさ" か、ありがとう。勉強になったよ。」
大体の感覚は掴んでいるが、体がついてこない。これはもう、一度剣術の修行を止め、筋力トレーニングに切り替える。
それが、今の最適解だと判断した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
筋力トレーニングにシフトチェンジした俺は、毎日の筋トレメニューを考え、美咲と一緒に筋トレをするという毎日に切り替えた。
最初は筋肉痛を起こし、地獄の日々を過ごしたが、徐々に慣れ、筋肉は日を追う事に順調に着いていった。
数ヶ月経ったら完全に慣れ、筋トレだけではなく、体術や剣術の訓練も同時進行で効率よく行うことが出来た。
そんな生活を始めて一年が過ぎた。
俺は19になり、10代も終わりに差し掛かっていた時、俺の体は一年前より大きく、身長も伸びていた。
この一年間、ずっと美咲と山にこもり。一度も爺さんのところには帰っていなかった。
「───ふっ、これがオレか?信じらんねえな。昔のオレとはもうおさらばだ。1年前までオタクやってたとは思えねえぜ。」
「シンはもう完全に成長したヨ。体つきも体術も剣術も、昔とは比べ物にならないほど成長した。あとはオマエの剣術を見せてみろ。」
「嗚呼、オレの訓練の集大成見せてやるよ。」
美咲から渡された日本刀を持ち、構えた。
構えの種類は "青眼の構え" 昔から伝わる基本的な構えだ。神経を研ぎ澄ませ、美咲の合図で投げられた木々を切り刻んでいく。
ひとつでも見過ごすと、自分に飛んでくるので集中しなければ当たる。
今回は初めて、全部斬り刻むことができた。
美咲程の腕前ではないものの、以前とは見違えるほど早く鋭く動くようになった。
「まさかぜんぶ斬れるとは、驚きました。これなら、"Master" に勝てるかもしれないデス。」
「色々、ありがとな。オレがここまで強くなれたのも、美咲が居てくれたおかげだ。本当に感謝してる。」
「ワタシも、"同じ境遇" の仲間が強くなったのは何より嬉しいデス。私はずっとこの山に居るので、また来て下さいネ。」
「───同じ境遇?なあ、最後に聞いていいか?美咲はどこの人で、師匠とはどんな関係なんだ?」
「…あぁ、言ってなかったデスね……実は私も、過去の世界から来たんデスよ。」
「あぁなるほどね、過去の世界…………ぁ??過去の世界!?」
サラッと言われたせいで反応が遅れた。
まさか似た境遇っていうのがタイムリープだとは思っていなかった。
「私は、皆さんのような生活は出来ませんでしたから。unhappyってやつですよ。」
「────そんなに不幸だったのか?」
「聞きたいデスか?少し長くなるデスよ。」
「嗚呼、聞かせてくれ。」
「実は私、嘘をつきましたが、日本の学校に通っていたんですよ。でも、色々あって──────」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は小学生一年生の頃、日本に来ました。
親は裕福ではなく、欲しいものがあってもなかなか買ってもらえないような状況でした。
学校でも、日本とアメリカのハーフという事もあり、中々馴染めませんでした。
「はーい、みんな注目。今日からみんなのクラスメイトになる事になった、アルリア・シルリナコ・美咲さんです。皆さん仲良くしてあげてくださいね。」
「は、ハジメマシテ。アルリア・シルリナコ・美咲 。デス 。みな、さま。どうぞ、よろしく、お願いします。です。」
「うわあ目の色違う、」「髪も金色だぁ」「なんか俺たちと違うなあ」「すげぇ外人初めて見た」
皆にとっては、特に考えずに発言した事でも小学生の私にとっては、心にくる発言だったのです。
転校してから私は、ずっと独りで本を読んで過ごしていました。特に私は日本の歴史が好きだったのでその本を読んでいました。
「うわぁお、Japanese サムライ 。ものすごくかっこいいデス。」
私は、日本の侍に憧れを抱きました。
相手に敬意を評し、剣を交えて戦う侍が、私にとっては本当に魅力的に感じたのです。
図工の時間では剣を作ったり、常に武士や侍関係の本を読んだりと、他の小学生とは違った感じだったのです。
周りの人達からは、「女の子らしくない子」「男っぽい」「気色悪い」「外国帰れ」なと、心無い言葉を沢山受けましたが、私はそれでも、侍の精神で絶対にやり返したり、負けたりはせず、学校に通い続けました。
中学生に上がった時、私は運命を感じたのです
中学生になり、部活動が始まりました。
その時私は、『剣道部』に入ろうと最初から決めていたのです。
そして、念願の剣道部に入り、剣道のいろはや武道を学び、学校生活を送っていました。
ですがある日。お父さんが亡くなりました。
自殺とのことでした。
遺書には、『お前らと出会ったのが間違ってた、俺はもう耐えられない。お前ら2人も楽になれよ。俺はもう、楽な道を選びたい』と残してありました。
お父さんが居なくなってから、お母さんの精神状態も不安定になり、家では暴力を振られる毎日でしたが、私は学校生活をこなしながら耐え抜き頑張っていました。
ですがある日、お母さんも病気で息を引き取りました。死因は癌でしたが、私は絶対に精神病で衰弱していたことも原因だと思っていました。
生活保護を貰いに行きましたが、外国籍という事もあるのか申請がうまく通らず、非合法なやり方でお金を稼ごうともしました。
でも男の人と会って連れ込まれそうになった時。本気で恐怖を覚えました。私はそれに耐えられずに逃げ出し、その日は野宿で過ごしました。
家を追い出され、学校も退学させられ、完全に私はひとりになりました。
友達も出来ず、家族は居なくなり。
私は、人生の路頭に迷っていました。
もういっその事、私も空に羽ばたきたい、なんて思ったりもしました。
その時、道端に落ちていた "赤い箱" があったのです。
それに何故か興味を引かれて、その箱を開けてしまいました。すると、急に煙が巻き上がり、気が付いたら。この山に飛ばされていたのです。
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そして山で師匠。お爺さんに会って、しばらくの間面倒を見てもらいました。久しぶりの白米を食べた時には、涙が止まりませんでしたよ。
「────── そして師匠が引っ越す時に、この家を貰って、今もこうして住んでいるという訳デス。師匠は、引っ越した今でもこの山に来て、食料や必要なものを渡してくれる。感謝してもしきれないデスよ」
「そうがぁ、そんなに辛かったんだなぁ…ううっ、オレは感動したよ。」
自然と涙が出てきた。
彼女の話を聞いてると、自分がまだ恵まれてる方なのだというのがよく実感出来た。
「この剣技も、師匠からInputして自分なりにアレンジしたんですよ。私はもう家族も居ないので、剣を信じるしかなくなってしまったのデスよ。」
「ああ、それでいい。それでいいんだよお前は、それでずっと剣を信じて…ぞんなやつにがでねぇよぉおお。」
馬鹿みたいに泣いた。感情移入したという安直な理由だが。未来でこれほど泣いたのは初めてだった。
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「んじゃあ、行ってくる。今まで世話になったな。また来るからそんときは頼むぜ。」
彼女と会話を交わし、彼女は笑顔で見送ってくれていた。
「────さぁて、ワクワクしてきたな。師匠、一年間の修行の成果、見せてやりますよ。」
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