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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第五章『天道教 vs 東商討伐士』
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第六十一話『決戦前』

「────ふぅ。ドアが壊れる、優しく開けろ。」


 川沿いの道場に、思わぬ来客が訪れた。

 その人物は勢いよくドアを押し開け、無遠慮に中へ踏み込む。


 道場内には、いつも通りタバコをくゆらせる和服の男がいた。まるで来客の予兆を察していたかのように、静かに待ち構えている。


「おいおい、久しぶりの再会なのに相変わらず口が悪いなぁ、こんくらいいいだろぉ?んな事よりまだこの道場が壊されてないことに驚いてるよ、俺は。」


 明らかに歳上の和服の男に、腰に剣を帯びた金髪の男がタメ口で語りかける。討伐士の上着は着ておらず、その挑発的な態度が一層目立った。


「…ふぅ、んで?お前は俺に何の用だ。」


「おい、演技クセェぞ師匠。俺が来た理由なんてとっくに分かってんだろ?俺は、あのクッッソ弱ぇ女に"あの剣を"渡したこと許してねえ。だから、俺が力づくで奪いにいってやる。そんで、あの女の場所を聞きに来たってわけ。」


「…ちなみにだが、俺も琴葉の場所は知らん。それに、琴葉はお前の思ってる以上に弱くはない。あまりナメてると痛い目見るからな。クソガキ。」


「勘違いすんなよクソジジイが。俺はもうあの頃強くなった、圧倒的に。だからあの剣を持つべきなのは俺だ。あの弱虫女じゃねぇ。……あぁ、イライラしてきやがるぜ。」


 金髪の青年は髪を掻きながら怒りを募らせる。

 和服の男は一瞬でその背後に回り、伝家の右ハイキックを炸裂させた。


「─────まだまだ俺には勝てないんだな。修斗。」


「いってぇ…オイジジイ!不意打ちはずりぃだろうが!!テメェ動きがはええからわかんねえんだよ!!」


「俺の攻撃を見切れないようじゃ、琴葉の攻撃なんて防げねえぞ。絶対。なんてったって琴葉は、天の…」


「導き。だろ?んなもん分かってるっつうの。あいつが神に愛されてようがなんだろうが、そんなもん知らねぇし関係ねえ。俺はただ、あの剣を力づくで奪いてえだけだ。」


「……その目、お前本気なんだな。なんでそこまでしてあの剣が欲しい。」


「───あの剣は、この東商に3本しか存在しない伝説の剣。『神籟剣(しんらいけん)』だろうが!!あの剣に隠された力、忘れたとは言わせねえぞジジイ!!」


「────この世で死に耐え幽体となった人間が剣に宿り、剣を持つだけでその幽体が力を貸してくれる。それが、神籟剣。」


「ジジイでもモノボケしてねえでよかったよ。」


「言っとくが俺はジジイって呼ばれるほどの年齢にはまだいってねえんだよ。クソガキ。」


「……神籟剣を手に入れたら、俺は死んだ奴の力を借りれる。つまり……死んだ爺ちゃんと、一緒に戦えるって事じゃねえかよ……。爺ちゃんは強かったんだ!アンタの何十倍もな!!俺は神籟剣目当てでここに入門したってのに、あの弱くて汚ねえ女に剣を渡すとか言いやがったんだ!!てめぇは!!目の前で意味のわからねえ弱い女に、俺の大切な目的が奪われた、その俺の気持ちが理解出来るか!!出来ねえよな!!」


 道場の中心で、金髪の青年は叫んだ。

 周囲に響き渡るその声に、和服の男は煙草をくゆらせるばかりで、聞く気配はない。青年はナイフを取り出し、刃先を和服の男に向けた。


「────オイジジイ、今ここで選べ、滅多刺しになって殺されるか、大人しく琴葉の場所、もしくは目処を教えるか。次は油断しねぇ、あんなハイキックもう喰らってやらねえからな。」


 和服の男は最善手を思案するが、タバコの火も煙も消さなかった。


「────分かった、じゃあお前にひとつ、耳寄りな情報を教えてやるよ。」


「あ"ぁ?ンだよその耳寄りな情報ってのは。」


「10月31日。天道教が東商の人間全てを皆殺しにすると宣言してきた。場所は分からないが、その戦に琴葉も参戦するはずだ。討伐士全員招集だと聞いているからな。」


「天道教?ンだよそれ。」


「そこはどうでもいい。とにかく、絶対この戦いには琴葉も来る、別に参加して天道教を倒せなんて言わないが、琴葉から奪いたきゃ自力で奪うんだな。……だが、これも一個言っとくぞ。」


「……んだよ。言ってみろ。」


「──────お前は、絶対に琴葉に勝てない。諦めるのが先決だ。」


 その言葉に、青年は口を噛み締めた。

 悔しさと怒りを抑え込むためのものだと、即座に理解できた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 亜獣騒動から六日後、10月30日。

 俺たちはシクリータ宮殿で軽い依頼をこなしながら、ストレイドと剣の特訓に明け暮れていた。


 何度挑んでも、剣豪には一撃も与えられない。日々多彩になる動きは予測不能で、目の良さを頼りにしても避けるのが精一杯だった。


「…………くそ、また負けた…」


「悪く無かったぞ、深海。お前の動きは日を重ねる毎にバリエーションが増えてきつつある。その考えて行動する脳も大事だが、なるべく、考える『思考』の時間を減らしたい。その考える時間だけでも無駄になるからな。───簡単に言うなら、本能的に体が最適解を導けるようになれば、お前ももっと早く成長できる。」


 中庭で大の字に寝そべる俺に、剣豪は静かにアドバイスした。 俺はその言葉を深く理解する。剣豪はきっと、考えずとも体が反応する境地にいるのだ。経験則が自然に体を動かす。


「───分かりました、頑張ります……。」


「んじゃ、今日の特訓は終了だな。……そうだ、深海。明日は何の日か知ってるよな。」


「はい、スマホの通知で、全討伐士が招集されましたから。……明日は、天道教との全面戦争の日ですよね。」


「そうだ、そこで、お前にだけは言っておく事がある。────俺も、この戦いに参加する。」


 その言葉に俺は驚く。剣豪が戦いに参加するなら、戦力が大幅に増す。何より心強い知らせだった。


「───そうなんですか、じゃあ、これで勝てる可能性が多くなったって事ですよね。良かった。」


「いや、俺が戦闘に参加するのは、灯火を探すためだ。」


「灯火……あ、一星灯火さん。確か、行方不明って……」


「行方不明、だったはずだが。情報によれば、天道教の幹部に成り下がった可能性があるらしい。だから俺が呼ばれた。」


「えっ……幹部……?」


「俺だって信じられねえよ、灯火が幹部なんて。でももし仮に灯火が居るなら、あいつにケジメをつける必要がある。だから俺も参加する。戦力になることは間違いない。」


「分かりました、見つかるといいですね。」


「嗚呼、そこでなんだが。」


 剣豪が少し口をつぐむ。俺は真剣に彼の目を見る。


「─────フィアを、お前に頼めないか?」


「フィアを、ですか?」


「嗚呼、俺が戦闘に参加すると言えば、フィアは必ず着いてくる。だから、それを止めて一緒にいてやってほしい。深海がお前の隣にいることが、彼女にとって大きな支えになる。…頼む。」


 剣豪が頭を下げる。俺は自然と頷き、返事を告げた。


「ストレイドさんの気持ちは分かりました。引き受けます。ストレイドさんの目的が達成出来るように、オレも全力で協力しますから。」


「……本当に、君の素直さには助かっている。嗚呼、俺も君が困った時は力になるよ。約束だ、」


 硬い握手を交わし、立ち上がる。すると、朝食の準備を知らせる彼女の声が聞こえた。


「──あ、いたいた、深海くん〜、ストレイド様〜。朝ごはんの準備が出来ました。食卓へどうぞ。」


「いつも悪いな、じゃあ行くか深海。」


「はい、そうですね。」


 過去のトラウマから解放されて以来、フィアは少しずつ笑顔を取り戻していた。


「……深海くん、大丈夫ですか?何か疲れてそうなので。」


「大丈夫、余裕だ。少し目の前の最強にボコられただけで。」


「そんなにボコしてるつもりは無いんだけどなぁ。」


 三人で歩きながら食卓に向かう。それが毎朝のルーティーンになった。


「────シンくん!また青タン作って…怪我してるなら早く言わないと……。」


 愛菜が毎朝、傷の有無をチェックしてくる。それもすっかり日常になった。


「大丈夫だから、そんなに怪我してないし。飯食いたい。」


「そ、そうだよね…!先に琴葉ちゃんが食べてるから、一緒に食べよっ!」


 愛菜も馴染み、昔と変わらぬ自然な態度を見せていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 グループVINEによれば、皆が襲撃の事実を知り、特訓を重ねているらしい。

 相手は過去最強の信仰宗教『天道教』。準備不足ではすぐにやられる。


 俺はベンケイへの復讐を糧に、トレーニング量を倍に増やした。奴に勝てなければ、俺の目的は達せられない。師匠を再起不能に追い込んだアイツを絶対に許せるはずがない。


 トレーニングルームで黙々と汗を流していると、一本の電話が鳴った。


「─────師匠!?」


 表示には「師匠」と書かれていた。即座に電話に出る。


「師匠!無事なんですか!!師匠!!」


「オオウ、耳が張り裂けそうになるデスよ。」


 電話の相手は美咲だった。ずっと師匠の看病を続けてくれている。


「──あぁ、悪ぃ美咲だったのか。それで、なんか用か?」


「聞きました、天道教と勝負するんデスよね?」


「嗚呼、遂にだよ。この手でベンケイを仕留められる絶好のチャンスだぜ。」


「───それが関係してるのか分かりませんが、今師匠の様子が落ち着き呼吸も安定してきています。」


「そうなのか……!良かった……!」


「それでデスね、師匠がボソッと、『死ぬな、深海』と言っていたんデスよ。いやぁ、戦士のカンって恐ろしいデスよねぇ?」


 その言葉に、俺の頬を涙が伝った。

 命を懸けて戦う師匠が、俺に死ぬなと言ってくれたのだ。


 俄然、気合が入った。トレーニングも、復讐も。


「─────ありがとう、美咲。またかける。」


「ハイッ、深海くん、ご武運をお祈りしておきます。」


 電話を切り、俺は天井を見上げ呟いた。


 ────死なねえで帰ってくるから、あんたも死なないで帰ってこいよな。師匠。


 スマホを置き、再びトレーニングルームに戻った。

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