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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第三章『遊楽施設に潜む影』
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第四十三話『親子の絆は永遠に』

「───そうか。おそらく君は、可哀想な末路を辿り、母との約束を守るために討伐士になったんだね。可哀想に……分かるよ。君の気持ちは。」


「……!!お前に私とお母さんの何がわかる!!何も知らないくせに!知ったような口をきくな!!」


「怖い声だねぇ。そんな声を出しても、君の"お母さん"は戻ってこないのにねぇ?悲しいねぇ?」


 彼の鼻につく言葉に、私は苛立ちを抑えられなかった。


「お前に、人の心なんてない。お前はただ、自分の狂った思想を押し付け、正当化しているだけの殺人鬼だ!!」


「まぁ、好きに言ってればいいさ。いずれ俺の言葉は全世界に理解される。君はもういいや。遊び疲れたし、俺の手で終わらせて、お母さんの元に送ってあげるよ。」


 閃光が動いた。前回同様、光が弾けるように発生し、気づくころにはすぐ間合いの近くにいる。

 以前の私ならやられていたはずだが、今なら反応できる気がした。


 彼のダガーナイフと私の剣が火花を散らし、鉄と鉄がぶつかる音が響く。技術の押し合いが始まった。


『───なんだ、さっきより速くなった…?いや、気のせいか…?でも、明らかに俺の攻撃を捌いている。』


 メガネを外し、気合を入れた奥寺絵梨花は、反射的に彼の攻撃をかわしている。

 まだ技術的に習得していないはずなのに、閃光の超スピードに対応できていた。


『─────見える、彼の動きが。行く先まで見える。……これなら、行ける!倒せる!』


『なんなんだコイツは…!さっきまで対応できなかったはずなのに…!』


「───そうか、奥寺さんが閃光の動きに対応できているのは、彼女が閃光の立ち回りを本能的に学習しているからだ。いくら超スピードでも、典型的な動きをしていれば次には読まれる。彼女には、読む力がある。だから、速さで対応するのではなく、コンパクトに攻撃をかわせているんだ。」


 遠くで戦闘を見ていた第二位が、驚きを隠せずに彼女の動きを見つめる。


 一度戦闘が途切れ、少し会話をするために閃光が動きを止めた。


「君、やるじゃないか。まさかここまで俺の速さに着いてこれるとは思わなかった。君の名前、絵梨花ちゃんだっけ?どうだ、討伐士なんてやめて、俺と天道教の幹部にならないか?君なら絶対上位に入れる。」


「馬鹿にしているの?ふざけるな。私は絶対、あなた達の味方にはならない。屈したりもしない。」


「釣れないなあ。せっかく情状酌量の余地を与えたのにさ。じゃあいいや、後悔しても知らないぞ。────あの方から授かった力、受けてみろ。」


 空気が変わる。彼の周囲で地面が微かに蠢き、緊張が張り詰める。

 警戒しながら彼を見つめる絵梨花。


「───暗き闇を照らす白き閃光よ、闇を打ち砕くその力を、我に授けよ。」


 白い光が全体を照らした。絵梨花は目を閉じ、その様子を第2位は無言で見守る。


 光が消えると、彼は立っていた。外見は変わらないが、腕の血管が脈打っている。警戒していた絵梨花は単純なパワーアップだと思ったが、彼が動いた瞬間、目で追えない速さで攻撃され、吹き飛ばされた。


「ぐはっ……。」


 腹に衝撃が走り、口から血が流れ落ちる。

 立ち上がろうとするが、彼の剣は脳が判断する前に届いていた。


「なんだ、閃光の動きが変わった…俺も知らない閃光の姿だ。……何をした。」


「可哀想だけど、これが現実だ。俺は強くなってしまった。」


 彼は自分の手を握ったり開いたりして力を再確認し、視線を絵梨花に向ける。


「君があの時、俺の前で降参していれば、こんなことにはならなかった。もう遅い。俺は君を殺すことしか考えてない。」


「ぐふっ…私は…負けない。絶対に。」


 剣を強く握り、再び構える。

 フラフラでダメージは残っているはずだが、立ち上がれる。そして今までにない構えを取った。この構えは、とある人から教わった大事な構え。


「───お父さん、今だけでいい。今この時だけでいいから……私に、力を貸して。」


 尊敬する父と同じ構えを取り、心の中で呟く。

 最初に父から教わったのも、この構えだった。


 ---


「───お父さん、私に剣を教えて。私に、戦い方を教えて。」


 母が亡くなって数か月後、私たちは気持ちを切り替えようとしていた。 父一人で働かせるのはよくないと感じ、討伐士を目指す決意をした。


 戦いとは無縁の私が、今から討伐士になる。

 受かるはずもないと分かっていても、父から教わることにした。


「───でもな、絵梨花。討伐士は本当に危険だ。命に関わる仕事だぞ。」


「それでもいい。私は強くなりたい。」


「でもな……」


「お願い、私は討伐士として皆を支えたい。その覚悟ができたの。だからお願い。」


「……分かった。じゃあ、遠慮なくビシバシ行くぞ。甘やかしたら戦闘で死ぬリスクが高くなるからな。着いて来れなかったら諦めろ。」


「分かった。絶対ついて行く。」


 あの日から、私の猛特訓が始まった。


「いいか、剣を握るということは、敵を倒すだけでなく、自分を守るためだ。そのためにはまず構え!一瞬の隙もない構えが最も大事だ。」


「構え…どうやるの?」


「まず、利き足と逆の足を後ろに下げて腰を落とす。剣の柄に手を置き、いつでも握れる状態にしておく。最も重要なのは───相手から目を逸らさないこと。絶対に見逃したら負ける。絶対にだ。」


「こ、こう?」


「あーだめだめ、まだ腰が下がってない。それじゃ立ち姿勢になっちゃうから力が入らないぞ─────」


 教わったことが頭の中で情景として浮かぶ。

 暖かい記憶、父の声、手取り足取り教えてくれた瞬間の数々が蘇る。


「────そうだったね、腰は低くして、力を入れないといけなかったんだ。討伐士認定試験の時は、集中しすぎて忘れてた……私、馬鹿だったな。」


「その一瞬の隙もない構え……厄介だな。手を出せばすぐ反撃されそうで、吐き気がする。」


 後ろから、居るはずのない父の声が聞こえた。


「────来てくれたんだね。お父さん。」


『…絵梨花、今まで見た中で一番いい構えだ。あとは自分の力と技術、努力を信じて目の前の奴を倒せ。大丈夫。絵梨花なら絶対勝てる。お父さんが保証する。』


「────ありがとう、お父さん。」


「あ?お父さん?夢でも見てるのかい?お父さんもお母さんももう居ないだろ?そんな演技、俺には通用しない。でも、無理もないね……現実から目を背けたい気持ちは分かる。可哀想に。だったらもう、楽にしてあげるよ!!」


「────来る。」


 閃光の動きを観察し、絶対に目を逸らさず構える。

 彼の周囲に光が出る瞬間、攻撃を合わせれば防げる───そう判断して実行に移す。


「───ここだ!うりゃ!」


「────!?ぐはっ…!」


 肩に切り傷をつけることに成功。

 彼の動きより早く鋭い攻撃が閃光を破った。


「────ふぅ、やっと当たった。」


『その調子で奴の行動パターンを予測しろ。構えは絶対忘れるな。奴のスピードなら一瞬の油断で死ぬぞ。』


 心強い父の声が聞こえる。実際に父がいるわけではない、幻かもしれない。 でも今、閃光に一撃を与えられている事実がある。父の声は、以前と同じく優しい。


「…一撃当たったくらいでいい気になってんの?俺が油断しただけだ。かすり傷だ。」


「───分かる。…………今だ!!」


 ベストタイミングで剣が交わる。一撃は与えられなかったが、攻撃を防ぐことには成功。


『見ろ絵梨花。奴が焦り出してる。戦闘では焦っている者が不利になる。今がチャンスだ。渾身の一撃を叩き込む絶好のタイミングが来た。』


「俺の速さも力も……あの方から貰った力も……こんな小娘に……通用しない?そんなことは、有り得ない!!!」


 閃光は苛立ち、激昂し、地面を蹴って凄まじいスピードで近づく。 しかし動きが単調になっている。

 "私を殺す" それだけをインプットされたアンドロイドのようだ。


「───ここだっ!!」


 ダガーナイフが迫る前に、私の剣が弾き飛ばす。

 武器を失った彼には、もう為す術がない。


「行けるぞ…!奥寺さん!」


『──今だ絵梨花!!行け!!!』


「──今まで奪われてきた人たちの想いを込めて!!うりゃぁぁぁぁっっっ!!!!」


 斬る瞬間、後ろで父が支えてくれた気がした。

 あの時、父が手を添えて剣の振り方を教えてくれたように───


「───あ、あぁ…なんで、こんな……命が、血がこぼれる……こんな小娘に……なんで……」


 閃光の胸元に三日月のような傷が走り、血が溢れる。

 私は血を散らすように剣を振り、鞘に収める。


「───お父さん、やったよ。」


「なんで……なんで……こんな力を授かって……なのに……俺が……俺が……こんな小娘に……どうして……」


「私一人じゃ、絶対に勝てなかった。あなたのスピードは一級品だった。昔の私なら、とっくに何十回も死んでいたと思う。でも、お父さんが私に力をくれた。……あなたの敗因は、私たち親子の絆を侮ったこと。」


「ふざけるなよ……俺は──」


 閃光が言いかけた瞬間、上からおぞましい邪悪な気配が落ちてくるような感覚がした。

 体が自然に硬直し、警戒せざるを得ない。


 ドシン——!

 力強く地面を揺らす衝撃音。上空から、巨大な物体が落下してきた。


 閃光の仲間かと思い剣を構える。

 しかし、その声はボイスチェンジャーのようで、体は人間のそれを超えて巨大、まるで化け物だった。


『閃光、貴様にはまだ利用価値がある。こんな所でくたばるな。貴様は我の授けた力に絶大な信頼を置きすぎた。』


 巨大な手が瀕死の閃光を掴み、持ち上げて飛び去ろうとしている。手の大きさだけで、閃光の首から膝までを覆うほどだ。


 これまでの戦いを制した絵梨花でも、さすがに動揺する。声が出ない、出さなければならない。恐怖で体が動かない。しかし、動かなければ閃光は連れ去られる────


 その瞬間、後ろにいた第二位が前に出て、大化け物に声をかけた。


「ソイツを何処にやるつもりだ。」


『───貴様は討伐士の坊ちゃんか。話すことなどない。だが、この男をここまで追い込んだ褒美として、一つだけ忠告してやろう。私達天道教は、もうすぐ大きな計画を実行する予定だ。それを阻止すれば、東商全てを吹き飛ばすことになる。』


「計画が何か分からなければ、判断もできない。だから僕らは、見逃すわけにはいかない。」


『簡単に言えば、"東商の人間の大量虐殺" だ。人間の魂と亡骸を捧げ、目的を達成する。単純な話だろう?』


「それを聞いて、僕らが黙って見逃すと?悪いが、その計画は阻止させてもらう。」


『ハッハッハ、貴様らには無理だ。あの方は唯一無二の存在。あの方が動けば、地球全てを破壊できる力を持っている。……まぁ、阻止したければ阻止するがいい。こちらから喧嘩をふっかけてもいいのだがなァ、ハハハハ!!』


「最後に聞かせろ。お前達はいつ実行するつもりだ。」


『フン、教える訳がなかろう。だが数ヶ月以内に実行する予定だとだけ伝えておく。嗚呼、我はなんと優しいのか。ハッハッハッハッハッハッハ!!!』


 そう言うと、大化け物は翼のようなものを広げ、空高く舞い上がって消えた。

 一瞬の出来事で、細部はよく見えなかったが、明らかに人間ではない何かだった。


 数ヶ月以内に、東商全員の大量虐殺……。

 フラフラの状態で立つ奥寺絵梨花の胸に、強い決意が芽生えた。どんな犠牲を払っても、この計画を阻止しなければならない──────


 そして、次の戦いは避けられないと直感した。

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沢山の人に俺の小説を届かせたいです!

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