第三話『本当の優しさ』
「────じゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。これから、討伐士任命式があるんだ。」
「分かった。あ、竜馬。色々ありがとな。タダで情報教えてくれたり、終いにはお金まで…」
「気にしないでくれ。…そうだ、ところで君達、年齢は?」
「年齢?俺もコイツも18だ。」
「そうか、やっぱりか!実は僕も18なんだ。最初ひと目見た時から同い年くらいなんじゃないかなって思ってたんだよ。そうか。ふふっ、同い年なら尚更気にしないでくれ。」
「本当に、ありがとうございました。その、お父さんの事は … 。」
「ああ、その件はまた別日に招集要請がかかると思うから。その時は出席してくれるとありがたい。」
「…分かりました。」
「じゃあ、僕はこの辺で。」
言葉を言い残し、ビュン───と風を斬る音が聞こえ。
その瞬間、彼は空中を飛んでいった。あまりにも近代化、というか同じ世界にいる気がしなかった。
公園での一件があった後、街を一通り案内してもらった。どうやらこの街は、俺達の世界で東京に位置する場所らしい。今は市の名前が変わって、『東商』という名前に変わっていた。
そしてもう一個思った事がある。
それは、意外と "異種族" と呼ばれる人たちは多く存在しているという事。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
愛菜がトイレに行きたいと言ったので俺は一人外で待っていた。するといきなり、一人、いや、一匹の異種族が話し掛けてきた。
「 ────う"ぉ、気持ち悪ぃ … ぁ"? オイ 、テメェ何俺の事見てんだァ ? あぁん?」
いきなり肩を掴み話し掛けてきた。所々から酒臭い匂いが漂ってくる。正直目だったので一瞬見てしまったが、見つめた訳ではなかった。
「いや、見てないです。」
「見てないです。じゃねえんだよ。俺が見たって言ったら見たんだよテメェはよぉ?」
こいつは某四次元ポケットが出せるアニメに出てくる、ジャイなんとかの生まれ変わりかなんかなのか?と思ってしまうほどの自己中発言に、どう反応していいかわからず話を聞いていた。
「俺はなァ?オレ・オレオって名前なんだよ、テメェ俺の名前知らねぇなんて言わねえよなァ?そこそこ有名だからなァオレ。」
「───お菓子みてぇな名前だな。」
反射的に言葉が出てしまった。しまったと思って聞いていないでくれと願ったが、自分より身長が高い異種族は上から見下ろすようにガン見していた。
「ぁ"?テメェいまなんつった?」
完全にキレている。お金は無いですと言おうか迷っていた時、ベストタイミングだった。
「───いやぁすまない。少し席を外しすぎたね。… あれ、そこの方は?」
竜馬だった。竜馬がちょうどいいタイミングで戻ってきてくれたおかげで助かる、と説明しようとした時。
「と、討伐士…チッ、テメェ、覚えてやがれ!!」
と、お決まりのような捨て台詞を吐いて逃走してしまった。間違いなく討伐士を見てビビって逃げたのだろう。
「あれ、もしかしたら彼は、"盗賊" だったのかもしれないね。」
「盗賊?」
「盗賊というのは、討伐士にも治癒術士にも機工術師にもなれず、職を持たない人間全てを指す言葉さ、正直、その呼ばれ方は可哀想ではあるんだけどね。」
「なるほど、職を持てなかった人たちを全て "盗賊" で一括りにしちまうのか。」
────正直この世界は、昔の世界よりも生きにくい世の中なのだろうと。直観的に思った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
─────とりあえず、泊まる宿を探そう。
二人の思考は一致していた。
完全に疲れきった体を癒したい。そんな気持ちしか思い浮かばなかった。そしてある安そうなホテルに来た。正直薄汚れててあまり好きじゃないが。
「すみません、今日ダブルの部屋って空いてますか?」
と尋ねた。そうするとやる気のなさそうな女性の店員さんらしき人が。
「いいっすけど、ダブルの場合結構高いっすよ?一泊300は貰わないと。」
300というのは、300円という訳では無い。
300万円という意味だ。
それを聞いた瞬間2人は少しドン引きした。
明らかに薄汚れているのにこの値段だという事実に対してだ。
「もう少し、安くなりませんか?」
「あー無理っすね。というか、 "人様の家" にお邪魔しようとしてるのに値下げ交渉っすか?うちは盗賊一家なんでね、お金貰わねえと無理なんですよ。お金ないなら帰って貰えます?」
「家?ここ、ホテルじゃないんですか?」
「… もしかしてあなた。原始人すか?今どき "ホテル" なんて。ホテルは討伐士だけが使っていい高級な場所なんすよ。今は "民泊サービス" しかないっすよ。盗賊はそうやって金稼ぐしかねえんですよ。分かったらさっさと帰ってもらえます?」
「民泊、人様の家にお邪魔して宿泊料を稼ぐやり方が主流みたい、この未来では。」
心身ともに疲れきった彼女が口を動かし喋った。完全に行く場所が分からなくなってしまった。正直。あずさちゃんに会いたい。
その気持ちしか無かった。
その時──────
「……おや、君らさん。なにやら疲れてるみたいだけど、大丈夫かい?」
一人のおばあさんが話し掛けてきた。多くの人が歩き、車は宙に浮き、夜でも眩しいほどの光が当たっている大都会の中、そこら辺に捨ててあったダンボールを敷いて体育座りで座ってた俺たちに話し掛けてきてくれた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「どうぞ、少し狭くて汚いけど、ゆっくりしていってね。」
俺たちは、おばあさんの家に住まわせて貰うことになった。おばあさんの家は東商から少し離れた場所にあり、見た目は完全に昭和の匂いが残ってるような家で、妙に落ち着きすら覚えるほどだった。
「───お邪魔します。どうもすみません。何から何までご親切に、まさか無料で住まわせて貰えるなんて思わなかったので。とても助かります。」
流石は生徒会長、年上への接し方や礼儀を弁えている。
「いいのよ、あなた達は、どこか雰囲気が孫に似ててね。困った顔をしてたから。今あたしたちはおじいさんと二人暮らし。1階はあたし達で、2階は空き部屋になってたから。自由に使っておくれ。」
何から何まで親切な印象を受けた。
なにより未来に飛ばされた事によって忘れていた "実家のような安心感" というのを再確認出来ていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。使わせていただきます。」
「はいよ。あ、ご飯出来たら呼ぶから。2階にいなさいな。」
2人は荷物を置きに2階へ上がった。2回への階段は狭く木の軋む音が聞こえ、少し不安だったが、部屋に着くと綺麗な状態で用意されていた。
「これ、本当にこれから住む俺たちの部屋かよ。さっきの300オンボロ民泊よりよっぽど最高じゃねえか!」
「確かに、こんくらいがちょうどいいわね!!最高最高!!でも少し気になるのは、私の部屋の半分くらいなトコ?」
「───お前ん家、でけえもんな。」
部屋には敷布団とベッドがひとつずつ置いてあり、勉強机にテレビ、ゲームまで置いてあるという豪華っぷり。
ゲームと言っても、3Dを超えて6Dの世界になっており。某ソードオンラインの様なゲームが置いていた。
「うおおおお…!!すっげぇ…!!これ、キリトが実際使ってたヤツにそっくりじゃねえか…!!」
完全にオタク全開で興味津々。
それを後ろから訳分からなそうに見つめる彼女。第三者目線で見れば、普段の光景に見えるこの雰囲気が、何より楽しかった。
「ふふっ、シンくん。楽しそう。私も何か探そうかな…」
────── バン!!!
その時 、ドアが物凄く強い音を立てて開いた。
少し腰の曲がった白髪の髭が生えたおじいちゃんが、物凄い剣幕でこちらを見て一言喋りだした。
「───── 表に出ろ。お前さんが討伐士に向いてるか。試してやる。」
ご覧いただきありがとうございます!
応援してくださる方は、ぜひここで☆からの評価とブクマをお願いします!!
沢山の人に俺の小説を届かせたいです!