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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第二章『復讐に燃える青年と小さな暗殺者』
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第二十八話『身体に染み渡る殺意』

 ────ただいま。


 最初の任務を無事に終え、仮の家へと帰還した。


「──おかえりなさい、二人とも! 怪我とかなくて良かったです……!」


 愛菜が柔らかな笑顔で迎えてくれた。

 その横で琴葉は、どこか違和感を覚えるような表情をしていたが、俺は特に気にせず言葉を返した。


「おう、ただいま。やっぱり最初の任務だし、思ったより楽勝だったな。」


「まぁ、根本は洞窟の探索ですし、簡単なのは想定していましたが……それにしても、あなたの成長ぶりには驚きましたわ。」


「……あれは、咄嗟に出たことだ。オレはいろんな人の技術を吸収したい。取り込んで、もっと強くなりたい。今回の経験は、その序章ってところだな。」


「ふふっ、とにかく無事で何よりですわ。あ、お風呂に入ったらご飯にしますね!」


「じゃあ、オレが先に入るよ。オレが入ったあと、二人で一緒に入ったら効率いいだろ。」


 そう言って、すっと脱衣所へ向かった。

 リビングではその後、女子会というには少し寂しい、二人だけの会話が始まっていた。


「──ねえ、愛菜ちゃん。」


「ふぁい!! な、なに!?」


「そんなに驚かなくても……。愛菜ちゃん、なんか雰囲気変わったわね。」


「え、ええ!? そう!? 私は私だよ??」


「誤魔化してるのがバレバレ……。まぁ、成長して雰囲気が変わる人もいるし、なんとも言えないけど。なんというか、今の愛菜ちゃんはどこか大人っぽくて。前の無邪気で元気いっぱいな感じが少し薄れたというか。」


「そ、それは……わ、私だってもう十九だし! 性格くらい変わるよ!! ……でも少し、記憶が曖昧だから……昔の深海く──シンくんについて、教えてくれたりする?」


「昔の深海くん、ね。そうね……昔の彼は正義感の強いオーラをまとった男の子だったわ。かくいう私も、そんな彼に惹かれていましたの。」


「……そうなんだ。…………実はね、私、記憶がないの。今更隠すのもバカバカしいかなって思って、それで琴葉ちゃん、一つ聞きたいんだけど……私の知らないシンくんのこと、いろいろ教えてくれない?」


「それは構わないけど……どうしていきなりそんなことを聞くんですの?」


「だって、彼は私のことをいろいろ知ってるのに、私は彼のことをなにも知らない……。海宮愛菜という人物はわかっても、私にいろんなことを教えてくれた彼のことを、私は全然知ってあげられてないから……知りたい。ただ単純に、知りたいだけなの。」


「……結局、私は愛菜ちゃんに負けるのね。もう分かっていたことだけど、認めたくなかった。」


「……琴葉ちゃん?」


「……あ、ごめんなさい。少し昔を思い出してて……。で、深海くんのことね。深海くんは────」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ふう、さっぱりしたぜ……」


 風呂上がりの体はまだ湯気をまとい、心地よい熱が全身を包んでいた。

 そのまま脱衣所のドアを開けると─────


「あ、おかえりシンくん……! ご飯できてるから、先に食べる?」


「いや、待ってるよ。テレビでも見ながらな。」


「分かった、じゃあ一緒に入ろ、琴葉ちゃん。」


「え、ええ。分かったわ、行きましょう。」


 二人はそう言って脱衣所へ消えていった。

 夜特有の静けさが、田舎の空気と混じり合って心地いい。


「さてっと、未来のテレビはどこまで進化してんのかなぁ。」


 そう呟きながらリモコンを手に取ろうとした瞬間、着信音が鳴った。

 画面には『美咲』の文字。何気なく通話ボタンを押す。


「あ、もしもし美咲? どうした?」


『深海!! 大変デス!! Masterが……アナタとワタシの師匠が……!!!!』


 その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍った。

 最悪の予感が脳裏をよぎる。

 嫌な汗が頬を伝い落ちた。


「ど、どうしたんだ?」


『Masterが、天道教のデカいやつにやられて、目を覚まさないんデス!! 息はしてるみたいデスが!!』


「……なんだと。今すぐ行く、待ってろ。」


 言うが早いか、通話を切った。


「急がねぇと……師匠……!!」


 走った。

 ただひたすらに、全力で。

 ナビの示す道を、呼吸が切れるのも構わず駆け抜けた。

 疲労も痛みも、いまの俺には関係なかった。


「────はぁ、はぁっ……師匠!!」


 バンッ────!!

 勢いよくドアを開け、リビングへ飛び込む。

 目に映ったのは、惨憺たる光景だった。


 砕けた机と椅子。倒れた時計。

 ひび割れたガラスに、床一面に飛び散る血痕。

 ボロボロになった家具の残骸。

 ここで積み重ねた記憶の断片が、無惨に踏みにじられたようだった。


 泣き崩れる美咲。その横には倒れ伏す師匠。

 治癒術師によって応急処置は施されたようだが……その表情は虚ろだった。 愛菜のときのように、記憶が失われている可能性が脳裏をよぎる。


「すみません……Masterを、ワタシが守っていれば……!」


「……美咲。天道教の奴、名前は言っていたか?」


「…確か、Masterが“ベンケイ”と、そう呼んでいました。」


 その名を聞いた瞬間、何かが切れた。

 聞き覚えのある名。あの惨劇が脳裏に蘇る。

 胸の奥で、静かに、しかし確実に怒りが燃え上がった。

 憎悪。殺意。 今までの“獣”とは違う、別のベクトルの衝動。


 ────奴を、絶対に倒さなければならない。


 俺の大切な人を、二人も傷つけた。

 あいつだけは、絶対に許さない。


 ───絶対に、殺してやる。


「……美咲、悪いがしばらく師匠のことを頼む。」


「もちろんデス……深海は、どこへ行くんデスか?」


「決まってる。奴を叩き潰すためだ。今のままじゃ返り討ちに遭うだけだ。だから、今以上に強くなる。」


「……なにか、考えがあるんデスね?」


「なに、単純なことだ。強くなるには、すでに強い奴に学べばいい。第一位────神蔵 蓮に、強さの秘訣を聞きに行く。」


「……深海、その……絶対、死なないでくださいね。なんか、嫌なヨカンがしたので。」


「おう、絶対に仇を討って戻ってくる。師匠のこと、頼んだ。」


 そう言い残し、俺は再び走り出した。

 認定試験以来、一度も足を踏み入れていなかった本拠地へ。 そこに、強さの核心があると信じて。


 ───待ってろよ、クソ野郎。

 絶対に、お前の息の根を止めてやる。

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