第二十六話『胸に秘めた想い』
「とは言っても、基本情報は同じ、任務内容は洞窟の探索。でもさっき村長さんから言われのだけど、どうやらこの洞窟には、怪しい匂いがすると、何も無い洞窟なのに人が出入りする様子が度々見られたと報告があって、私の見立てだと"天道教"か"香良洲"の連中だと思ってるわ。」
「天道教…?香良洲…?からすって、あのからす?」
「…愛菜は知らなくていい。で、天道教や香良洲の奴らだった場合、戦わなきゃ行けないよな。オレらで勝てるのか?」
「最悪勝てなかった場合、本部に救助要請を出すと思うけど、少しは対処しなきゃ行けないと思うわ。ワープ出来るのはあくまで、任務に選ばれた人のみだから。」
「なるほどな、要請は出せるけど足止めしなきゃいけないってことか。分かった。まぁ奴らがいたらの話だしな。」
「そうですわね、大まかな目的は探索ですから、しっかり探索して、何があったか報告書を送らないといけないですわよ。」
「てかお前、結構色々と詳しいよな。この世界に長いからか?」
「…まぁ、それもありますが、私に剣を教えてくれたお人が詳しかったので。」
「相当強え人だったんだろうな、きっと。」
「そうですわね。最初対峙した時はこの世界で一番強い人だと思ったくらいですわ。私よりキレが凄かったしスピードもありましたので。最初はコテンパンに、でもそのお人が "元団長" と聞いた時は強さに納得しましたわ。」
「やっぱり強えんだなあ、元団長ってみんな」
「貴方の師匠も団長だったんですの?」
「ああ、そうだよ。まぁ色々あって辞めちまったらしいけどな。」
「なるほど……そろそろ話を戻しますわよ。私たちは報告書を書かなきゃいけない関係で洞窟の奥まで行きます、なので途中で帰れる回数が限られて来ます。帰る方法は、このカエリ玉。カエリ玉を投げると直径5m以内の人間が予めマッピングした場所に戻れるというスグレモノです。」
「すげぇな時代!!こんなのあんの!?」
「ただし支給されたのは3つのみ、つまり3回しか使えませんわ。最悪洞窟に泊まるという可能性も視野に入れなければいけませんわね。」
「了解、だいたい分かった。」
「では、そろそろ出発しますわよ。愛菜ちゃんはここでお留守番でお願いね。」
「わ、分かった!」
「では、出発します。歩いて5分くらいなので、すぐに着くと思いますわ。」
そうして、俺たちは家を出た。
道中は不思議なほど静かだった。言葉を交わすこともなく、それぞれの胸に緊張が張り詰めている。これから足を踏み入れる未知の場所が、どこか底知れぬ気配を放っていた。
「──ココが、その洞窟ですわ。」
「アニメでよくありがちな洞窟っぽいけど、奥が深いな。光照らしても先が見えねえぞ。」
洞窟の中は完全な闇に包まれ、人の気配は一切ない。
崖の下にぽっかりと口を開けた入口は広く、俺が立ったままでも入れるほどだった。
「早速行きましょう。」
「ああ、そうだな。」
足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした湿気が肌を刺した。 壁面から滴り落ちる水がぽたぽたと音を立て、静寂に小さなリズムを刻んでいる。
歩きながら、俺はふと彩葉の言葉を思い出し、琴葉に尋ねた。
「──なあ、お前の妹、彩葉について今どう思ってんだ?」
「どう思ってる……?というのは?」
「妹をどう思ってるかって事、好きとか嫌いとかさ。」
「…………そうね、中々会えてなかったし、嫌いとは思ってないわよ。あの親に耐えられない気持ちは分かるしね。常に完璧を求められ、親のコネで嫌なことも含めて色んなことやらせてもらってたから、嫌な子は嫌だろうし。」
「で、そんな妹をどう思ってんだ?」
「そうね、普通に好きよ。彩葉は私と会う度に抱き着いてきて、常に私と一緒にいないとダメで、私が一人称をアタクシから私に変えた時は一発で見破られたわ。…そんな妹だけど、昔の私は素直に好きって言えずに、一回、本気で怒鳴っちゃったことがあって。それ以降私はあまり彩葉とは話さないようにしようって思ってさ。」
「怒鳴った?なんで怒鳴ったんだ?」
「…………私の気分。その時すごくイライラしてて、いつもの絡みが耐えられなくて。『めんどくさい!』って強く言っちゃって。」
「なるほどな、それから気まづくなってなかなか会わなくなったって事か。」
「私が死にかける前に一度会ったんだけど、その時の私は完全に人生を諦めてたから、あまり覚えてないわ。」
「少し小耳に挟んだんだが、彩葉はお前のこと結構今でも好きらしいぞ。新しく2人とも討伐士になったんだし話に行ってやれよ。」
「今更私が話しても、きっと口を聞いてくれないわ。……彩葉は人と話すのは苦手で絡まないタイプだしね。」
「そんなもんなのかなあ。」
──会話を録音しながら、俺たちはさらに奥へと進んでいく。 振り返っても入口の光はもう見えない。
調査書には、見つけた動物、温度、湿度、状況などを細かく記録していく。 息を吐くたびに湿った空気が肌にまとわりついた。
しばらく歩いたところで、琴葉がふいに立ち止まった。
「……彩葉には、普通の生活をさせてあげたかった。だから私が父にお願いして、あの子が出ていくのを後押しした。普通に友達と遊んで、普通に周りの子と仲良くなって、川崎グループなんて背負わなくて。そんな生活が、彩葉の理想だったんだと思う。」
「それは、確証なしの自分の意見か?」
「そう、あの子と一番長く関わってきた私が思う結論。……私がお姉ちゃんじゃなければ、もっと彩葉は幸せだったんでしょうね。だから私は敢えて距離を置いてるのよ。」
湿り気を帯びた空気の中に、彼女の声が細く響いた。
自信のないその声は、どこか脆く、そして痛ましかった。 録音を続けていた俺でさえ、この部分だけは彩葉に聞かせるのをためらったほどだ。
「悪いな、色々聞いちまって。」
「深海くんらしくないですわよ。そんなに下向いて。ほら、そろそろ最深部まで行けそうですわ。」
話に没頭していたせいで気づくのが遅れたが、ある違和感があった。
──────音が、ない。
「──なあ、最深部まで来たのに静かすぎねえか?人ならまだしも、まだ動物一匹も見つけたことねえぞ。」
「そうですわね、報告書を書きながら歩いてましたけど、それも1個の特徴として書いておきます。でも確かに静かすぎますわ。」
二時間ほど歩いたはずなのに、物音がまるでしない。
呼吸の音さえもやけに大きく感じるほど、洞窟の中は沈黙していた。
やがて、壁の先に不自然な空間が現れた。
まるで部屋のように開けたその場所の奥には、巨大な岩の扉がそびえている。 自然にできたものではない、明確な人工の気配があった。
「───おそらくここが最深部、気を引き締めてくださいね。深海くん。」
「おう、任せろ。」
俺は前に出て、ゆっくりと扉に手をかける。
背後では琴葉が構え、いつでも対応できるように備えていた。 重い扉を押し開けた、その瞬間─────。
「────グルルルル…、ヴォォォォォ!!!!」
鋭い赤光が闇を裂いた。 ギラリと光る二つの瞳。
次の瞬間、洞窟全体を震わせるほどの咆哮が響き渡る。
目の前に現れたのは、俺たちの倍以上の体躯を持つ獣。
その姿はまるで、伝説のドラゴンのようだった。
「な、なんだこれは!」
「私も初めて見ましたわ。どうやら後ろの死体の山を見る限り、この獣が洞窟内の動物達を捕食し、自らの餌にしていたようですわね。」
洞窟は狭い。あの巨体では、素早い動きは難しいはずだ。 そう判断し、俺は剣を抜き放った。鋼の音が湿った空気を切り裂く。
「グルル…グギギ……」
「来るなら来いよ、この子犬が。」
俺の挑発に、獣の眼光が変わる。
それはもはや、獲物を見る目ではなかった。
排除すべき敵を見据える、純粋な殺意の色に染まっていた。
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