第二十三話『シスターズ』
「ごはんですよ~!」
一階から、彼女の声が聞こえた。
師匠との話はここで打ち切り。でも結構有力な話を聞けた。
「…行きましょうか。色々教えてくださりありがとうございます。」
「ああ、気にするでない。この老骨をどう使うかはお主次第じゃよ。」
師匠が階段を下りた。
俺も後に続いていこうと思った時、携帯の通知が飛んできた。
「──なんだ?川崎…彩葉?確か、琴葉の妹か。ええっと…『少し話がある。今すぐ、王宮近くの公園に来れる?』か、なんだろうな、行ってみるか。」
ドタバタと階段を駆け下りると、その声に愛菜が反応する。
「──あれ、深海さん!ごはんは…!」
「悪い!俺の分取っておいてくれ!少し出かけてくる!!」
何故か俺は走った。
走る用事では無いはずなのに。
心のどこかで、記憶が無い彼女と喋るのが辛いとでも思ってるのか。それすらまともに分からないまま、公園まで走った。
「はぁ … はぁ …… 。」
何とか公園に着いた。
この公園は、俺達が最初にいた場所だった。やたらとここの公園に縁がある。驚くくらいにだ。暫く息を整えていると、彩葉が話しかけてきた。
「──あなた、走ってきたの?あなたの家、ここから結構遠いんじゃなかった?」
「た、ただの運動だ。ここまででちょうど良かったぜ。はぁ…。」
「と、いう割には疲れてるわね。」
「こんなのへでもねえよ。んで、わざわざオレをこんな所に呼び出した要件は?」
「そうだったわね、じゃあ単刀直入に聞くわ。──あなた、私のお姉ちゃんとどういう関係?彼氏かなんか?」
「…は?なんでそう思うんだよ。」
「第二次試験の時、あなたとお姉ちゃんが凄い激しいアツい戦いをしてたのを私はしっかり見てた。凄かったし、鳥肌たったわ。でも、それと同時に思ったの。お姉ちゃんと距離近くない?って。だから聞いてる。お姉ちゃんとどういう関係?」
「別にどんな関係でもねえよ。ただの幼馴染ってだけで、正直なんでこの世界にいるかも分かってねえ。あそこで再会できるとは思ってなかったしな。」
「……じゃあ、なんであんなに距離近いのよ。」
「なんでって、別に距離近くしてる自覚ねえし、つかオレと琴葉ってそんなに距離近いか?」
「近いよ!!私の中じゃ、目が合ってるだけで距離近い!!名前で呼び合うなんて論外!!トレーニング室で二人で話すとかも有り得ないから!!お姉ちゃんは私のモノだし!!そのルックスが最高で顔が可愛くてかっこいいのは私のお姉ちゃんなんですけどー?ってカンジ!!」
「バッチバチのシスコンじゃねえか。お姉ちゃんのことになるとやけに暑苦しいな。」
「──というかお前!トレーニング室での話聞いてたのか!?」
「え?いや、流石に話までは聞けてないよ。ただ二人でトレーニング室に行く姿を目撃しただけ。…もしかして、エッチな事でもしてた?二人きりで深夜だったから人が居ないのをいい事に?」
「あほか、そんなわけないだろ。それだけならもう帰るぞオレ。」
「あーちょっと待って待ってえ!!」
「なんだよ。お姉ちゃんへの嫉妬なら、お姉ちゃんに直接言えばいいだろ?」
「──だって、言いずらいんだもん。」
「言いずらい?なんで。実の姉妹だろ?」
「…私、親が嫌いだったの。金持ってるだけで態度でかくて、何かあればすぐ私たちに八つ当たりして、小さい頃から礼儀という礼儀をほとんど教わって。そんな環境に耐えられなくて、家を出ちゃってさ。それ以降、たまにしか会ってないの。」
「たまにしか会ってないのに、そんなにお姉ちゃんのこと好きになれるもんなのか?」
「そりゃ好きだよ!あのルックス、あの凛とした表情、意外と喋らないタイプかと思ったら結構コミュ力高いところとか!!……私とは、全然違ってさ。私はお姉ちゃんみたいにルックス良くないし、みんなと馴染むの苦手だし。こうやって1対1が限界。」
「ルックスは普通にいいだろ、お前ら姉妹は。」
「…なに、私を恋に落とそうとしてるつもり?あんま調子乗るな。体つきが少しいいだけのフツメン風情が。」
グサッと俺の心を貫いた。
女子にこんなグサッと言われたのは始めてだった。
「で、でも実際事実だろ。オレが学校行ってた時は、川崎グループの令嬢が可愛いって、噂になってるくらいだったんだぜ?」
「それはお姉ちゃんだけの話。私は絶対、その中に入ってない。私は、お姉ちゃんに何もかも負けてる。凄い人だよ、お姉ちゃんは。」
「そうだな、お前もあの第二次試験の時見てたなら分かるだろ?オレはあいつに負けた。合格はしたかもしれないけど、アイツに負けたという事実は変わらない。あいつは剣術においても、体の使い方も全てが上手い。」
「でっしょ!?お姉ちゃんってやっぱりパーフェクトルックスだよね!!あのクールな見た目で、時折見せる女の子っぽい所がまた──────」
始まった。オタク特有の早口。
昔のあずさちゃん大好きオタクだった俺にそっくりだ。少し親近感すら湧く。
「──で、結局オレはなんでここに拘束されてる訳?用ないなら帰るぞ。」
「…えぇっとね、少し、お願いごとがあってさ、…明後日、私達新入りの討伐士に、最初の依頼が来たでしょ?それで依頼詳細でメンバー欄見たら、琴葉お姉ちゃんとあなたがペアだったから、少し聞いて欲しいことがあって。」
「──え?マジで?そんなのあったの?」
思い返せば、今日帰ってから師匠とずっと話をしていてスマホを見ていなかった。
「そこから!?…もう、スマホ見なさいよ。アプリの中にしっかり通達行ってるでしょうが、さてはあなた通知飛ばしてないでしょ。通知オンにしないと大事な依頼見ないで損しちゃうわよ。」
「やべぇ、忘れてた。てっきりもう使わねえただの順位見るだけアプリだと思ってた。」
「そんな自己満アプリな訳ないでしょ。いいから早く見なさいよ。」
「ええっと、なになに…?」
この世界のスマホは、3回タップすると空中に表示できる。パソコンのように、マルチタスクも可能になっていた。便利なもんだ。
『依頼:洞窟の探索』
『依頼内容:東商の中心から、少し離れた田舎町。その田舎町に、まだ誰も足を踏み入れたことがない洞窟がある。その洞窟に行き、中を探索し調査せよ。』
『討伐士:小柳 深海 、川崎 琴葉 』
───これか。
昔で言うところのメールのように、題名と本文が記載されていて、依頼されている討伐士の名前もしっかり書いてある。
この依頼文は皆に共有されており、他の人に依頼された依頼文も見る事が出来る。
「確かにこれは、しっかりチェックしておかないといけなかったな。」
「そうでしょー?通知飛ばしておくと、依頼されてる人とか、ひと目でわかるからオススメだよ。」
「なるほどな、覚えとく。それで琴葉に何を聞いて欲しいんだ?」
「ええっと…その……」
彩葉は目をそらしてから、意を決したようにこちらを見た。
「────私のこと、どう思ってるか……お姉ちゃんに聞いてほしいの。」
「どう思ってるか?そんなの聞いてどうするんだ?」
「いいから聞いて!!お姉ちゃんの言葉が聞きたいの!私に対する想いとか!!」
「お、おう。分かった。聞いとくよ。…まぁこれまで全然話してこなかった姉妹が、急に話しろって言っても無理っぽいよな。」
「そうそう、気まずさLv100だからさ。だからあなたにお願いしたの。よろしくね。」
「分かった。というか、そろそろ "あなた" って呼ぶのやめてくれよ。仲間だろ?」
「確かに…。じゃあ…深海くんで。」
「それだと琴葉と被るぞ。いいのか?」
「やっぱやだやめる。」
即答だった。
「じゃあ、シンくんって呼ぶ。」
「!!」
急に、頭の中に浮かんできた数多の記憶。
彼女、愛菜との昔の記憶が、脳裏に浮かんできた。もう二度と見れないのかな。もう愛菜が、そう読んでくれる日は来ないのかな。なんて考えてしまうと、非常に心が痛くなる。
自分に対しての嫌悪、情けなさ。あの時救えていたら、なんて。思ってしまう感情が渦巻いた。
「──大丈夫?急に具合悪くなった?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。ちょっとトラウマを思い出しちまって。…ふう、深呼吸したら落ち着いた。シンくんでいいよ、オレは、彩葉でいいか?」
「うん!いいよ。よろしくね。」
「おう、よろしく。んじゃあオレはそろそろ帰るぜ。晩飯中に抜け出しちまったから、怒ってるかもな。あ、でもこんな時間だし、家まで送ってこうか?」
「いいよ、私ここの近くだし、一人暮らしだからさ。土地勘でいえば完全に慣れてるし。」
「お前、一人暮らしなのか。いくつだよ。」
「今年で17、お姉ちゃんとは2個違い。」
「そんな若いのに一人暮らししてんのか、すげぇ根性だなおい。」
「──そうするしか無かったんだよ。ここに来た時、誰も拾ってくれなくて。道に落ちてる少しのお金で何とか食いつないで、何とかお金を貰うために色々働いて。でも今、私は討伐士になれた!討伐士になれれば、衣食住全て提供される!だから今一人暮らし出来てるの、生きるため私は討伐士になりたかった。…ならなきゃいけなかった。」
こんな完全アウェイな環境で食いつないで、何とかお金を稼いでってやって行く彩葉の根性と根気強さは、賞賛に値するレベルだ。
彩葉は精神的な強さがめっぽう強いタイプなのだろうと、勝手に解釈した。
気が付けば、そっと彼女の頭に手を差し伸べていた。
「そうか、彩葉もここまで1人で大変だったんだな。よくここまで頑張ったよ。これからも頑張ることになるかもしれないけど。お互い、頑張っていこうな!」
彼女は目を見開いて驚いている様子だった。
何に対してなのかは分からなかったが、彼女の目が、疑心から安心の目に変わったのだけは火を見るより明らかだった。
「──じゃあね、シンくん。」
「おう、気を付けろよ。」
彼女と別れた。
少し帰路を歩いていると、彩葉から一通のメッセージが来ていた。
『───今日は来てくれて、ありがとう。』
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