第二話『最悪の運命』
「──なにか困っている事があるなら、僕で良かったら話を聞かせてくれないか?」
同い年くらいの若い青年が話しかけてきた。正直いきなり話しかけてきて不安な気持ちもあったが、今は彼に縋るしか無かった。
そんなこちらの状況を悟ってか彼が口火を切った。
「あ、すまない。自己紹介がまだだったね。僕は折木竜馬。僕は東商の平和を守る『討伐士』だ。」
討伐士─────
その名は先程警察から聞いたが。自分のイメージだと依頼を受けてその依頼に応じてお金を貰う職業というイメージだった。そのため不安な気持ちが拭われることは無かった。
「…討伐士って事は、お金とか貰うんだろ?俺たち、お金持ってないんだけど。」
「ははっ、流石に僕もそこまで薄情な人間では無いよ。さっきから見ていたけど、行く宛てもないほど困っているんだろう?そんな困ってる人の手助けくらいタダでやるさ。何を困っていたんだい?」
「ちっクソ、絵に書いたような爽やかイケメンキャラじゃねえかよおい。」
漫画の中でしか見た事ないような爽やかイケメンキャラに圧倒されるかのようにぼそぼそと今までの事情を全て説明した。
「─────なるほど、つまり君達は過去の世界からやって来て、今行く場所がないって事か。」
「ああ、それで一個聞きたいんだけど。俺らはこれからどうすればいいと思う?」
「うーん、そうだな。じゃあまずはひとまず、この世界の説明をしておこうか。この世界は少し特殊でね。昔と違う部分が何個もあるんだ。」
「ああ、助かる。」
「────この世界が昔と変わったことを簡潔に言えば、近代化と、職種の変化だ。近代化は、この街の風景とかを見てもらえれば分かると思う。大事なのはもうひとつの"職種"だ。昔の時代の人たちは、色んな職種があると聞いた事がある。だが今は、ほぼ指で数えられる程に限定されている。まずひとつが、昔の言葉で公務員と呼ばれていた人達。基本的に政府で動いているね、そして新たに増えた職種でいえば、僕たちのような『討伐士』と、傷を癒すことを専門にしている『治癒術士』それから兵器や罠などを開発し売り出す『機工術士』がいる。それ以外は食べ物や飲み物といった、人間が生きてく上で大事になってくる者を売ってる人達。これは昔と変わらないんじゃないかな?」
「なるほど、つまり妖怪ウォッチバスターズで言うところのアタッカーとヒーラーとレンジャーが主な職種として存在しているって事か。」
「何?その、妖怪なんちゃらばすたーずって、分からないけど、なんかかわいい!」
「ああそうだ、この世界は『警察』や『救急隊』が機能していない。隠さずいえばその辺の一般人と変わらないって事だ。その人たちに助けを求めでも何もしてくれないだろうね。高額な金を渡せば、動いてくれるかもしれないが。」
「そしてこれも非常に大きな変化だけど、生きてる種族が人間だけではなくなったという事だ。もちろん種族的には人間が多いけど、様々な種族が進化していってね、例に上げると、トカゲと人間のハーフとか、狼と人間のハーフとか、そんな様な多種多様な生物が生まれるようになった。」
「その進化した種族は、日本語を喋るのか?」
「ああ、基本的に日本語だが。英語を喋る人もいれば、フランス語を喋る人もいる。未知の言語を使う人もいるけど、翻訳を使えば大丈夫だから安心してね。」
「…大体この世界のことは分かった、それで俺たちは、どうやって現実世界に帰ればいい。」
「そこについてはよく分からないが、一つ頭の中で考えていた事がある。」
彼から発せられた言葉を聞いた瞬間、驚きを隠せなかった。
頭の中で様々な思考が巡り、全てを理解するのに時間がかかっていた。
────君たちをここへ送った人間は、"この世界の人間"すなわち "未来から来た人間" だと、僕は思う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「…恐らく、僕達討伐士が長年追っている極悪集団『香良洲』が編み出した特殊兵器が関係している。この世界の事象を塗り替える事が出来るレベルの最悪兵器だ。」
「僕達が知り得ている情報は、香良洲が作り出した物は、"最悪の未来が訪れる" という人の運命を書き換える物のレシピ。それがとある機工術士に渡された事により。兵器が完成した。という情報まで。そしてその機工術士こそが君達をこの世界に送ったとある人間ということになるんじゃないかな。」
「あの、その機工術士、私のお父さんかもしれないんです。…いや、あの顔は絶対にお父さんでした。断言できます。」
「本当かい…!?それは驚きだ。」
「ちょっと待てよ。そのお父さんかもしれない機工術士はこの未来の世界の人間なんだろ?だったらなんで過去に行けてるんだよ。本当にコイツの父親なら、今この世界には居ないはずだろ。」
「『香良洲』は、この世界のことわりを破り、様々な犯罪に手を染める極悪集団だ。もし仮に人体実験として先程の兵器を作った機工術士、すなわち彼女の父親らしき人物に兵器を使われ、最悪の運命が起こるという確定された未来を背負わされた状態で過去に捨てられ、その様子を捉えられていたとするなら。」
「コイツの親父が最悪の運命を辿るのを確定された状態で俺達の世界に無理やり来させられた、って事か?」
「…そんな、何それ…それを私たちに隠して…。」
「あくまで仮説だが、大まかは正しいはずだ。『香良洲』が今勢力を強めているのも現状だし、その兵器の実験をいち早くしたいはずだしね。」
「じゃああの時。最悪の運命が来るって思った親父さんは、怖くなって気が狂ってあんな奇行に走ったって事か?」
「僕の考えとは少し違うな。…きっとお父さんは。君たち、あるいは君に、"最悪の運命から救われて欲しい" と思ったんじゃないかな?」
「…私に…?」
正座で座りこみ、涙を隠す余裕が無くなる程に泣いていた彼女に、そっとハンカチを渡しながら彼が声をかける。
「一個一個の仕草までイケメン主人公じゃねえかよクソ。」
ぼそっと呟いた。聞こえないほどの声量で
「嗚呼、おそらく君のお父さんは。最悪の運命を呼び起こす装置を作ってしまったこと、そして君を巻き込んでしまった事を後悔し、君達が最悪の運命の犠牲者になって欲しくなかった。どんなカラクリがあるかは分からないが、君達をお父さんが持つ最悪の運命から逃がすために、未来の世界へ送った。」
「……恐らく君のお父さんも時を重ねていくうちに気付いたんだろうね、君は、最悪の運命を背負わされた中に咲いた、世界で一番可愛く綺麗な、一輪の花だって。だからこそ、守りたいって思うのは当然のことで、僕も理解ができるよ。」
「キザセリフまで完璧だなコイツ。」
またぼそっと呟いた。
「だから君たちに未来を託し、この今いる世界へと送った。君達を未来へ送った装置はきっと過去の技術を上手く駆使して作ったんだろう。相当凄い発明品だ。」
「だからってぶん殴る事ねえだろ。親父も親父で、」
またまたぼそっと呟いた。
「ううっ … おとうさん、わたし … がんばるよ。どんな事があっても 、お父さんの意思、受け継いだから … 絶対、絶対、お父さんを壊した『香良洲』って人達に、絶対復讐するからねっ…。」
「無論、私達討伐士も全力で協力しよう。良かったら君たちも、私たちに協力してくれないか?君たちの力が必要なんだ。」
「… 分かりました。」
と、硬い決意を固めた2人を少し遠目から見ていた彼は、とある事に気が付き、ぼそっと独り言を呟いた。
────待てよ?俺達の事を巻き込みたくなくて親父さんは俺達を未来の世界へ送ったんだよな?ならあの親父さんの最後のセリフ─────
「お前らがああああああ、犠牲になっちまえぇェェェェェェェ!!!!」
の言葉の意味は、一体何だったんだ?────────
皆が涙や慰めの雰囲気の中、一人疑問を抱いていた。
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