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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第一章『討伐士認定試験』
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第十八話『お前は独りじゃない』

「ありゃりゃ、コレは派手にやったねぇ。確かにこれは普通の治療じゃ一日で治らんね。はい。」


「……これが、メディカルカプセル?」


「そうだよ、このカプセルはどんな傷だって直ぐに治す無敵の薬。効果が強いし貴重性も強いから、団長さんが許可を出さないと使えないんだ。」


半信半疑で一粒飲んでみた。

────元気が溢れてくる。

体の痛みが徐々に消えていく。と同時に力も戻ってきている気がする。


「な、なんだこれ……!」


「どうだい?力がみなぎってくるだろ?」


「あぁ、最高だ。今までの疲れや力が戻ってくるかのように最高の気分だ。」


「それは良かった。じゃあ、これからも頑張ってね。」


自動ドアが閉じた。

どうやら彼女は認定試験専用の治癒術師らしく、普通に見た目は可愛かった。


「────ふう、」


自室に戻った。

俺の体の疲れは取れても、心の疲れは取れない。

俺が琴葉に負けたという事実は変わらない。

悔しかった。


「やり返してぇなぁ。俺が本気で挑んでも、勝てなかった、実力や経験で追い越された。」


俺の攻撃は空を切り、彼女の攻撃は的確に的を捉えていた。


「まぁ、所々の記憶は無いけど、でも俺の完敗だった気がするな。最後に言われた言葉……」



「────飢えた馬鹿な獣が一番油断する瞬間。それは、獲物をあと一歩で捕食できる!と勝ちを確信した時。最強の獣は、勝ちを確信したとしても、次の一撃に備えておく。そこの力の差で、貴方は私に負けた。」



その通りだ。

俺はあの時堪らなく高揚感に浸っていた。

彼女にトドメを刺せる!そんな気持ちで突進するしかなかった。

だから、全て読まれていて負けた。


その時、音が鳴った。


プルルルル、プルルルル。


電話の音だった。


「────おお、出たな。どうじゃった?」


「師匠……。一応第二次試験を通過出来ました。…でも、ある一人の強い女性がいて、勝てませんでした。」


「ふむ、誰かは分からんが、突破出来たならいいではないか。」


「───悔しいんです。心の底にモヤモヤがある感じというか、勝ったけど勝ってない、みたいな。」


「なるほどな、じゃあ一個お主にアドバイスじゃ、───本気で勝てない相手が目の前に現れた時は、相手を『格上』だと思わない事じゃ。どんだけ強くても弱点は必ずある。それをよく見定め、確実に一撃を与えろ。そうして自分の波にのれば、お主は必ず勝てる。そのポテンシャルを持っているからな。」


「─────確かに、先程の自分は、格上の相手にただ焦って、トドメを刺そうと必死になっていました。」


「そこが勝負の分かれ目だった訳じゃ、いいか、第三次試験はおそらく対人になる。どんな格上が出てくるか分からんが、絶対に今言ったことを忘れるな。……大丈夫、お前は独りじゃない。常にみんなの想いを背負ってる、だから安心して挑んでこい。」


「はい、師匠。────あと、愛菜の様子は……」


「今もぐっすりじゃよ。……あ、でも今日の昼頃、なにかごにょごにょ言ってたような気がするが、なんて言ってたかは聞こえなかったわい。」


「……そうですか。分かりました。色々ありがとうございました。」


「うむ、絶対負けるんじゃないぞ。」


電話が切れた。

やっぱり師匠は俺の事をいちばん理解してくれていると感じた。

俺の直すべきところを的確にアドバイスしてくれる。


「───俺もこんな所で寝てられないし、飯食ったら少し体動かしてトレーニングして、だな。」


このホテルには、トレーニングルームがある。

もちろん全員無料で24時間使い放題という豪華っぷり

筋トレするには最適な場所だった。


────よし、早速行くか!!



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「結構空いてるんだなぁ。」

時間帯的にはゴールデンタイム辺りのはずなのに、人が少ない。

数人はいるが、広いジムの中で数人がいても少なく感じるのは当然だ。


「まぁ少ない方がやりやすいしいいけど、」


と、筋トレ器具を色々見ていたら、見覚えのある顔がいた。


────琴葉だ。

あの激戦の後でも、しっかりトレーニングしている。しかも男性レベルの重量で。


「おいおい、本物のバケモンかよあいつ。」


「──はぁ、はぁ、聞こえてますわよ。全く、仮にもレディーなのにその言い方はないんじゃありませんの?」


「あぁ、悪かった。つかお前、あの激戦の中メディカルカプセルも使わないで筋トレ出来んのかよ。」


「私にそんなの必要ありませんし、……私も、一撃食らってしまいましたしね。あそこで一撃食らってるようでは、強いとは言えませんわ。」


「──努力家だなぁ。お前。」


「──普通の女の子が嫌なだけですわ。私は金持ちも嫌ですが、普通に見られるのも嫌なんです。だから強くなりたいと思うんですわ。」


「まぁ、よく分かんねえけど、お前が強いのは確かだし、それは認めるよ。この未来の世界でお前と再会できるとは思わなかったがな。」


「私も、見た時驚きましたわ。でも、私はまだ"あの時の事"、諦めたわけではありませんからね。」


「あの時……?分かんねえけど、頑張れよ!」


「この天然女誑しが。」


と、筋トレに戻ってしまった。

その横で、同じ器具が並んでいたのでそれを使うことにした。

意地を張ってか、彼女よりも少し重い重量で設定した。


「───ぅ"、んんっしょ!!!」


肩と腕に重い重圧がのしかかる。

ギリギリ持ち上げられたが、明日また試験があるのにここで痛めたら元も子もないと、意地を張るのをやめて適正重量に戻した。


「──そういえば1個、聞きたかったことがあるのですが、」


「ん?なんだ?」


「────この世界に、愛菜ちゃんは居るんですの?」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



──俺は、今まで俺と愛菜に起こっている全てを話した。


「なるほど、弁慶ね。その弁慶のせいで愛菜ちゃんは今昏睡状態に陥ってると。」


「あぁ、俺は弁慶が許せねぇ。アイツにやり返すためにも、ここで討伐士になって、強くならなきゃいけないんだ。」


「そこに関しては同情しますわ。…あ、そういえば私も弁慶が所属している天道教に心当たりがありますの。」


「知ってるのか?」


「ええ、この世界に長く居るので、大体のことは分かりますわ。"信仰宗教 天道教" は、とても数が多い信者を持つ宗教団体で、その中でも卓越した力を持つ7人の戦士が居るらしいのですが、私もその内部までは把握出来てませんの。でもその弁慶という男、その7人のうちの1人で間違いないですわ。」


「やっぱりそうか…、オレに勝ったお前に、一個聞きたいことがある。オレは、どうしたらもっと強くなれる。」


「仮にもまた戦うかもしれない相手なのに、よくそんな事聞けますわね。……そうですわね、ではひとつだけアドバイスしますわ。」

「あなたの剣術はおそらく、伝統派の構え、流儀だと思いますが。その流儀を使うなら、力に身を任せたら逆効果ですわ。私が言った言葉、覚えていますわよね?頭を使って、常に相手の先を読みながら剣を振る。そうしなければ、誰にも勝てませんわよ。」


「確かにな。思い返してみれば、美咲も師匠も、力を大振りに使っていなかった。オレの剣筋を読んで、その先に剣を当てていたのか。」


勉強になった。

恐らくこの教訓は、絶対後にになって響く。


「ありがとな、琴葉。」


「……名前呼びで呼ばないで下さいます?」


「え?なんでだよ。」


彼女は照れていた。

天然なオレには、何故照れているのかあまり理解出来なかったが、少しクスッと笑ってしまった。


「ありがとな。俺、これから強くなれるように頑張って努力して、いつかお前にリベンジしてやるからな!」


「受けてたちますわ。その時は手加減などしませんので、ご容赦を。」


その会話後、筋トレに戻り自主トレを続けた、

その後、彼女と別れ自室に戻ると、筋トレと激戦で疲れが溜まっていた。

ので、このホテル名物の露天風呂に入りたくなった。


「────おお、広いなおい。」


「確かに、昨日も入ったけどやっぱり広いよな。」


「そうだな……ってえ!?なんでお前居んの!?つか全然気付かなかったわ!!」


一人で来たつもりだったが、

一言独り言をつぶやくと横から割って入ってきた。

猿、否、翔也だった。


「なーんだよ、水くせえな。温泉目の前にして水くせえっていわせんなよな。」


「お前がいきなり来たからだろ!ったく、何しに来たんだよ。」


「何しにって、温泉入りに来たに決まってんだろ?俺だってお前らほどの戦いはしてなくても、疲れてんだから。」


「それもそうか、じゃあせっかくだし一緒にまた入ろうぜ。」


「おう!賛成賛成!!」


しっかり身体を洗った後、湯に浸かった。

変わらず天然温泉の効果は凄まじく、疲れは一気に吹き飛び、気持ちが落ち着く。


「───ふう、気持ちいいなぁ。」


「だな、…つか、お前らほんと凄かったな。あの戦い、見てる側はすげぇシビれたぜ?」


「でもオレは負けた。完敗だったよ。」


「んや、そんな事もねえんじゃね?ほら、腹に一発当ててたし、最後トドメ刺す前までは結構いい動きしてたし、」


「そうかな、べらぼうに攻めて少しでも相手を混乱させたかっただけだよ。」


「あの動きに合わせて攻められる人間が少ない事くらい分かってんだろぉ?小柳は謙遜しすぎなんだよ。 負けた事がそんなにマイナスなのかよ。」


「負けは負けだし、さ。」


「俺は勝者より敗者の方が成長できるって思ってんだよ。だって、勝者は "勝ち" という名誉を受け取るだけで、成長はあまりできないだろ?それに比べて敗者は、悔しいという感情を覚えて、自分のダメなところを修正できる。そっちの方が何百倍も良くねぇ?」


「……翔也。」


その言葉は重くのしかかった。

事実だったからだ。

何も言い返せない。彼なりの励ましなのだろうと感じた。


「だーかーら、お前がそんなに気に留める必要はねえっつうの。次やり返せばいいじゃねえか。」


「……そうだよな。確かに。まさかお前にここまで励まされるとは思わなかったよ。」


「当然だろ?だって俺ら、"トモダチ" だろ?」


「ふふっ、あぁ。友達だ。これからの第三次試験も、お互い乗り越えような。」


「おう!絶対負けんじゃねぇぞ!」


グータッチを交わした。

俺は友情の素晴らしさを再認識できた。やっぱり友がいるのといないのとでは明らかに違う。

俺は、翔也に救われた。

俺が強くなる為の素材は、みんなから貰った。

師匠、琴葉、翔也。

色んな人からの助言を聞いて、オレはもう一歩二歩、成長出来た気がした。

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