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そして君は明日を生きる  作者: 佐野零斗
第一章『討伐士認定試験』
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第十五話『第二次試験』

 ───それでは、第二次試験の説明をします。


 場内の照明が一段階落ち、代わりに闘技場中央にだけ、白い光がスポットのように降りた。


 75人の受験者は円形に広がり、その光に照らされながら固唾を呑んで説明を聞く。


 緊張──というより“沸騰寸前の興奮”が充満していた。


「ここにいる75人の皆様には、この場内闘技場で、一斉にバトルロワイヤル方式で戦ってもらいます。」


 天井を飛ぶ複数のドローンが、薄いホログラムを走らせながらルールの投影を始めた。


 赤いラインが床に浮かび上がり、危険区域やセンサーの反応ポイントが視覚化されていく。

 未来の闘技場──そんな言葉が自然に頭に浮かぶ。


「武器は木刀のみ。戦闘不能、もしくはこちら側が続行不能と判断した時点で脱落。闘技場内で生き残った上位30名が第三次試験へ。ちなみに、木刀のみならず、殴り蹴りなどの打撃行為も自由とします。」


「なるほど、なんでもありの場内乱闘ってとこか。」


「おもしれぇ!ワクワクしてきた。」


 生き残った75名に、怯えた色は一つもない。

 むしろ、誰もが“やっと本番だ”とでも言いたげな鋭い眼をしていた。


「────では、木刀を配布します。ご武運を。」


 無人搬送ドローンが音もなく滑空し、俺たちの前に木刀を落とす。


 手に取るとずっしり重い。普通の木刀より硬質で、内部に衝撃増幅材でも仕込まれているような感触だ。


「なぁ小柳、俺ら背中守り合わね??そしたら俺ら余裕で突破出来ると思うんだよなあ。」


「それでも別にいいけど、俺もプロじゃねえから守りきれねえかもだぜ?」


「そりゃ俺も同じだっつーの。」


「なあちょっと、うちは?」


「お前は頑張れ」

「お前は頑張れ」


 同じタイミングで深海と翔也が言った。


「……お前ら後で覚えてろよ。」


 緊張と笑いが混ざった、ほんの一瞬の平和。


「第二次試験──開始!!」


 鋭い電子音。

 その瞬間、床面のラインが赤く光り、観客席から爆発的な歓声が上がる。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「こりゃ本気で危ねぇな……後遺症が残った人がいるってのも納得だぜ。」


 開始と同時に、闘技場はまるで暴風の中心になった。

 足音、叫び声、木刀の激突音──音の洪水が押し寄せてくる。


 俺のところへ、まず二人が突っ込んできた。


 一人は勢い任せの直進。

 もう一人は俺の死角へ回り込むように低く構えている。


「っ……!」


 突っ込んでくる木刀を受け流し、腕の向きを少しずらして前方へ弾く。体勢を崩したそいつの腹に肘を叩き込むと、獣のような息が抜け、膝が落ちた。


 すかさず背後から風切り音。


 反射で半身を捻り、振り下ろされる木刀を肩で受け流す。その腕を掴んで引き込むと、相手の体重が前へ倒れ込む。


「ぉぐっ──!」


 床へ叩きつけられた拍子に木刀が転がった。


「回収ロボ、出動」


 白いヒューマノイドロボットがすぐさま滑り込み、倒れた受験者を抱え上げる。あまりの自然さに、“人間を相手にしてる錯覚”に陥るほどだ。


「……危ね。殴るとこだった。」


 だが、次の相手が三人まとめて走ってくる。


「はぁ三人同時ね…つかなんでオレんとこばっかり来るんだよ。はいはい、まとめて相手してやるよ。」


 ひとりは上段の一撃。

 もうひとりは右の下段を狙っている。

 最後のひとりは距離を詰めて拳で殴る気だ。


 本来なら対処不能の三方向同時攻撃。

 でも──


 美咲との訓練に比べれば、こんなの散歩みたいなものだ。


「せぇっ……!」


 まず、上段をはじいた反動を利用してステップ。

 すぐ下段の一撃を回避し、その脇腹へ木刀の柄を叩き込む。


「ぐはっ……!」


 続けざまに迫る拳。

 俺は腕を首の後ろに引っ掛け、勢いを逆に利用して床に叩きつける。


 わずか三秒。

 だが、この戦場では永遠にも感じる濃密な時間だった。


 周囲では、木刀の衝撃で吹き飛ばされた受験者が次々にロボットへ回収されている。観客席は興奮でざわめき、たびたび歓声のうねりが起こる。


「大丈夫。まだいける。これなら、師匠と組手をやってる時の方がよっぽど絶望感あったぜ。」


 息を整えつつ、俺は木刀を構え直した。


「ほいっ!ふぃっ! よいしょっとぉ!! らくしょーらくしょー!お前ら全員でかかってこいや!!」


 桜木の声は、戦場の中心でひときわ目立っていた。

 ただ叫んでいるだけじゃない。動きそのものが異次元だ。


 五人に囲まれたはずなのに、その中をまるで水の中を泳ぐように滑らかにすり抜け、


 木刀の一撃を軽やかにかわし、逆に肘、膝、木刀の柄まで使いながら正確に反撃していく。


 普通なら一対五なんて瞬殺される状況だ。

 だが桜木は、笑いながら、踊るようにさばいていく。


「危なっ! 無理無理!おいお前!! 今このうちに向かって剣振ろうとしたな!! 百年早えよ!!」


 その叫びと同時に、伊織へ向けて振り下ろされた木刀が、桜木の蹴りで軌道を逸らされ地面に突き刺さった。


「助かった……って言わないけど!」


 伊織は舌を出すようにしながらも、すぐに体勢を立て直す。短髪から滴る汗が、飛び散った血のように空気へ溶けていった。


 彼女の動きもまた鋭い。

 余裕ではない。だが“諦め”の欠片もない目だった。


「……はぁ…でも気を抜くな、しっかり相手を見るんだ…。見れば大したこと…ない。」


 俺の言葉など待たず、伊織は視線を次の敵へ移し、真正面から木刀を構える。

 その立ち姿は、さっきよりも一段引き締まっていた。


 今のところ──三人ともノーダメージ。

 バテてもいないし、折れそうにもない。


 そんな俺たちを、闘技場上のガラス越しから二つの影が見下ろしていた。


「────いい感じだね、今回の参加者。みんなレベルが高いよ。」


 落ち着き払った第一位の声。

 まるで熟練の監督が選手を眺めるような眼差しだった。


「あぁ、そうだな。今回は皆腕がいい。これは期待出来そうだ。」


「やっぱ蓮も、一番期待してるのはあそこにいる深海だろ?実は僕もなんだよね。」


「まぁね。彼の身内に不幸があるにも関わらず、あそこまで動ける人間はそうそう居ない。相当な精神力を持っていて、尚且つ人間として強いんだろう。彼は。」


「君がそこまで言うなんてね。第二位の僕ですらそんなに言われたことないのに。」


「深海は、いずれ討伐士第一位になれる人材さ。いつか僕たちの正面に立つ日が来るだろうね。」


「いずれ戦うかもしれない……か。僕ももっと鍛錬しないと。この世界を背負う討伐士として。」


「あぁ、僕も彼が上がってくるのが楽しみだ。でも、この討伐士の世界は残酷だからな。いつ落とされるかわからない。」


「───君の、かつての親父がそうだったようにかい?あー、君のお父さんは上がる土俵にすら居なかったか。」


「口を慎め第二位。僕の父は神蔵源治。今の団長だけだということを忘れるな。」


「……すまない。そうだったね。」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ──────ふぅ、ざっと残り40人ってとこか? あと10人倒せば……!


 場内の気温が明らかに上がった。

 汗の匂い、床に当たる木刀の響き、観客の歓声、選手たちの荒い呼吸──


 すべてが混ざり合って“戦場”そのものになっていた。


 俺の木刀には無数の傷が入り、手の皮が軽く擦れて痛みが走る。 けど──まだいける。


「ここまで来たら流石に疲れるな…。」


「うちも……もうヘトヘト。いつ終わるの……?」


 伊織の肩が上下し、息が白く見えるほど荒い。

 桜木も口元には笑みを浮かべているが、額には汗がにじんでいた。


 だが、敵は待ってくれない。


 前方から二人の巨体が迫り、横からは俊敏な受験者が跳びかかる。残った猛者たちは、最初の雑魚とは比べ物にならない。足運びも、目の強さも、攻めの鋭さも違う。


 木刀同士が激しくぶつかる度、手首に電撃のような痺れが走った。


 受け損ねれば、そのまま負ける。

 倒れれば一瞬で回収され、この試験は終わり──全てが水の泡。


「はぁっ……まだだ……!」


 俺は木刀を構え直し、再び戦いに身を投じた。

 一人を倒すのに全神経を注がなければならない。

 それくらい、この段階の敵は全員しぶとく、そして強い。


 でも──負ける気は、ない。

 心の奥底が、熱く燃えている。


 愛菜のためにも。

 自分の未来のためにも。

 誰にもここを譲りたくない。


「さぁ……来い!!」


 木刀を掲げ、血の味を感じながら俺は吠えた。

 ここからが、本当の“生き残り戦”だった。


「くそ、もう体力が……。」


 肺の奥が焼けつくように痛い。腕は鉛のように重く、汗が目に入り、視界がじんわりと滲む。


 目の前の五人が一斉に彼に走り寄ってくる。息を整えようとしても、体力低下の影響で上手くできない。それでも木刀だけは離さない。離した瞬間、俺の試験も、ここで終わる。


 ───その瞬間だった。


 空気が、裂けた。


 稲妻が通り抜けたような衝撃波が舞台全体を震わせる。


 視界の端に、残っていた五人の影が、一斉に吹き飛ばされていくのが見えた。木刀が舞い、砂埃が巻き上がり、倒れた五人はまるで何が起きたのか理解できずに呆然としたまま動かない。


「……なんだ!? 今、見えなかったぞ。」


「この速さ、まるで異次元だぜ……。今まで見たことねえ速さだった。」


「やだ、うち隠れてようかな……。」


 観客席の一部が揺れた。驚きと興奮が混ざったどよめき。俺もツッコミどころじゃなく、ただその威力に息を飲む。


 木刀なのに、こんな破壊力。

 単純な筋力でも、技量だけでも説明がつかない。あの速度で動ける人間なんて、そうそう居ない。


 ───でも、どこかで見た事がある。

 姿形じゃない。立ち方でもない。

 "気配" が、だ。


 記憶の奥の、引っかかるような違和感が、胸をざわつかせる。視線を向けると、その人物がゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。


 木刀を軽く下げたまま、汗ひとつかいていない。乱れない呼吸、澄んだ雰囲気。まるでここが戦場ではなく、散歩の途中みたいに自然だ。


 俺の目の前まで来ると───彼女は軽く微笑んだ。


「────あら、自販機の時以来ですわね。」


「あっ…あの時の小銭拾ってくれた人。あ、あの時はどうもありがとうございました。」


「こんな所で感謝してる場合か!」「育ち良いなおい!!」


 桜木と名古井のツッコミが飛んでくる。

 けど正直、俺も動揺していた。


 彼女は微笑んだまま、俺の名前を静かに呼ぶ。


「ええ、いいのですわ。それよりも、やはり貴方とはしっかりとご縁がありましたのね。"小柳深海くん"」


「……え、なんで俺の名前を……まだ自己紹介すらしてないのに。」


「あら、私としたことがうっかり。申し遅れました。ワタクシ、『川崎琴葉』と申します。」


 その名前が出た瞬間、脳内で何かが弾けた。


 ───川崎琴葉。


 幼稚園の頃、愛菜に絡んでいたお嬢様。

 川崎グループの令嬢で、両親揃ってモンペ。

 強烈に印象に残っていた名前だった。


 その"川崎琴葉" が、今俺の目の前で堂々と木刀を持って立っている。


「─────なんで、お前が…ここに。ここは…未来の世界のはずだぞ……。」


「あら、私の事を覚えてくださっていたのですね。嬉しいですわ。ふふっ。」


 琴葉はクスリと小さく笑い、すっと足を半歩引いて構えを取る。


 表情は、さっきとは別人のように鋭い。

 あれだけの実力を見せた時と同じ、戦士の目だ。


「と、昔話はこの辺にして───」


 そして、


「───私の初恋を奪った殿方。」


 琴葉は天井の光を反射させながら、木刀を静かに掲げる。その目には、ふざけた色は一切ない。挑む者の覚悟と、少女としての感情が入り混じった、複雑でまっすぐな輝き。


「ワタクシと、真剣勝負をしましょう。」


 舞台の空気が変わる。

 空気の密度が変わり、周囲の喧騒が遥か彼方に遠ざかったような錯覚に陥る。


「……これは、負けるわけにはいかないな。」


 俺は木刀を握り直し、足幅を整え、肩の力を抜いた。

 全身の感覚が一気に研ぎ澄まされる。


 今までの全ての戦闘とは違う。

 これは闘技場の次元じゃない。"因縁"と"実力"のぶつかり合いだ。


 俺と琴葉の間に、わずかな風が流れた。


 そして───戦いが始まろうとしていた。

ご覧いただきありがとうございます!


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沢山の人に俺の小説を届かせたいです!

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