第十四話『芽生えた友情』
──うわあ、すげえ豪華なホテルだ!!!
"最上階ホテル" という響きだけで高級感漂っていたのだが、蓋を開けてみると一人一部屋!廊下が広い!共同スペースにマッサージチェア!温泉露天風呂!ルームサービスタダ!こんなに最高の場所があるのか…
「流石にこれはすげえな…」
「な!テンション上がるぜぇ!!ここ三日間しか居れねえのかよ!!」
「皆さん、本日はお疲れさまでした。第一次試験突破、おめでとうございます。」
「おいおい、美人の姉ちゃんつきかよ!わくわくするな!」
「…あんまでかい声で言うなよ…」
耳打ちしてきた。だが素の声がでかい。
恐らくこの人は監視役といったところだろうな。
女性の方が、女性に何か問題があっても対処しやすいし。
「では、部屋の鍵をお渡ししますので、名前を呼ばれた人からこちらにお越しください。」
75人分の部屋の鍵が渡され、各自部屋に移動した。
俺は、何も準備してなかったので、取り敢えずベッドに横になった。
「―――ひとまず、第一次は通過っと。…あ、師匠に電話しよ。」
「…あ、師匠!俺です、深海です!」
「おお、深海か、全然連絡よこさないから心配したわい、それでどうじゃった、第一次試験は。」
「無事、通過しました。今はホテルで休んでます。」
「そうか、帰ってこないのか。おめでとう。よく頑張ったな。」
「ありがとうございます。…それで、愛菜の様子は、どうですか?」
「…まだ寝ておるな。呼吸も安定しておるから大丈夫じゃとは思うが。」
「…そうですか。安定してるなら、良かったです。」
「お主はとりあえず体を休めて、次の二次試験に備えろ。」
「はい、師匠。」
「二次試験だとおそらく30人くらいまで絞られるはずじゃ。自分を信じて突き進めよ。」
「分かりました。心に留めてあります。」
電話が切れた。と同時にピンポンがなった。
─────よっす!遊びに来たぜ!
騒がしい、というか疲れがないのか。
と思うほどにうるさい。
「あぁ、来たのか本当に。」
「当然だろ!麻雀やろうぜ麻雀!!」
取り敢えず部屋にいれた、部屋に入った彼はすぐさま机の上に麻雀を置き、座って。
「ほら、早くやろうぜ!」
「へいへい、分かったよ。言っとくけど、本当にルール知らないからな。」
そして目の前に座り、ルールを教えて貰いながら付き合っていた。
─────気付けば、数時間経過していた。
「はぁ、おもしれえ。」
「そうだな、意外と面白いな麻雀。……あ、悪い。俺喉乾いたからちょっと自販機行ってくるわ。」
「おう、OK。」
部屋から自動販売機まで、そんなに時間はかからない。
共同スペースのマッサージ機がある所に何個も置いてある。もちろん全て電子決済対応だ。
「そうだなあ、オレンジジュースにしようかな。───って!300円もすんのかよ!!ディズニー値段か?ここは。」
渋々買った、ため息が出た。
お釣りを取ろうとすると誤って落としてしまった。
「───あ、やべっ!」
必死に拾っていた。すると。
「───大丈夫ですか?」
ゆっくりと小銭を拾ってくれた。
凛としている女性だった。
「いえいえ、お気を付けてくださいね。…そういえばあなた、第一次試験で2位の成績を収めた方ですわよね?」
「えぇ、まぁ。そうですね。」
「貴方とは、何か縁を感じますわ。近いうちに、また会えると思いますので。お互い二次試験、頑張りましょうね。」
「は、はぁ。頑張りましょう。」
「ふふっ、それでは。」
「……何だったんだ?」
何か不思議なオーラを感じる女性だった。
でも今は何も考えず、部屋に戻った。
「おお、少し遅かったじゃねえか、何してたんだよ。」
「いや、小銭落としたら、女性が助けてくれて、それで少し話してた。」
「……あ?おいお前。───何抜け駆けしようとしてんだおいこらぁぁぁぁ!!!」
「はぁ!?そんなんじゃねえよ!!」
「うるっせぇ!!!お前!そいつ絶対可愛かっただろ!!ずっと喋りてえって思ったから喋ってたんだろ!!!」
「だから違ぇって!!なんかいきなり、縁を感じるとか何とかって言われて!!」
「それ遠回しのプロポーズじゃねぇかぁぁぁ!!許さねえ、ぜってえ許さねぇぞ小柳ぃぃぃ!!!」
「うぉぁ!人の部屋で走り回んじゃねぇって!!」
「待てコラァ!!俺に走りで勝てると思ってんのかァァァ!?」
「────ちょっと、騒がしいぞ。」
「あぁ、悪い、ちょっと騒がしかったな…って、」
「お前…………、」
───────誰?
見知らぬ女がいた。
俺たちのじゃれあいに馴染んできた。
「誰でもいいだろ。うるさかったから来た。」
「うるさかったから来た…って、鍵しまってただろ。」
「いや、空いてたよ。物騒だなぁって思って開けてみた☆」
「開けてみた、じゃねえよ。」
「まぁいいじゃんかよ、この際面白そうだし、麻雀は飽き飽きしてたからな。」
「確かに、それも一理あるな。」
「じゃあ自己紹介から、オレは小柳深海、コイツは───」
「桜木翔也だ!!馴れ馴れしく "しょうちゃん" って呼んでくれてもいいぜ!!!」
「オレと言い回し違ぇじゃねえか。毎回変えてんのかよそれ。」
「うちは、名古井伊織でーす、なんならー、うちの事をいおちゃんって、呼んでくれてもいいよぉ?」
「なんだ急に、距離の詰め方よ。」
何だかズッコケ三人組のような雰囲気だ。
俺が入っているのが心外だが。
「自己紹介も終わったし、何する?」
「じゃあ折角なら、温泉行ってみようぜ!?」
「ありだな、」
「いいねぇ!じゃあうちも男湯入ろうかなぁ」
「いいじゃねえか!!」
「イヤヨクネエダロオイ!!?」
変な声が出た。
「一応聞くが、女性だよな?」
「うん、女性だけど?なに?男性に見える?はっ倒すよ?」
「いや違くて、なんかやけにすんなり言うからさ。」
「なんだ、そゆことか。でも結構男勝りするとは言われるんだよね。」
「男勝りっつうか、男っぽい……」
「桜木、次余計なこと言ったら大声出すよ?『痴漢ですー!!!』って。」
「さーせん!!すいやせんした!」
この雰囲気も悪くない。
今まで結構張りつめてきたから、こういう交流もありだなと。
そう思いながら、一緒になって笑った。
「じゃあ、温泉入りに行こうぜ。」
「おう!」 「行こう行こう!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
─────ふぅ、さっぱりした。
このホテルの温泉は、天然温泉だった。
肩こり、リウマチなどなど、よくある温泉の効能だったのだが。
「最近の温泉はすげぇな、便秘とか、老化に伴う治らない神経痛とかにも効くんだもんなあ。」
「先に上がっちまったな、伊織と翔也を待つか。」
と、男湯の暖簾をくぐって外に出ると、とある写真を見る伊織がいた。
───あれ、もう出てたのか?
「あ、小柳、うん、うち髪もそんなに長くないしさ?」
「……これ、何見てたんだ?」
「これ、うちのパパが撮ったんだ。御嶽山って山なんだけど、なんだか綺麗だなって。」
御嶽山。
昔の長野県にあった山の事か。
「この写真、お父さんが撮ったのか?」
「うん、パパが御嶽山がふんたけ …… 」
「あ?ふんたけ……?」
彼女の顔が赤面していく。
俺は何を言ったか分からず、困惑した。
「ふ、噴火って言おうとしたの!!それをふんたけって …… か、噛んだだけ !!」
「ぶふっ…… 」
思わず吹いてしまった。
いきなり言われて説明までされると、流石に笑いが出てきてしまうものだ。
「な…!笑わないでよ!!」
「ははっ、悪い悪い、つい面白くてな。」
「おおっ、2人して何盛り上がってんだ?もしや恋バナか?」
「違うわい!!」
「違ぇよ!!!」
「お、息ぴったりぃ!よっ!新婚夫婦!新婚さんいらっしゃい〜!!」
からかってきた。
2人とも頬が赤く染まり、空気が少し恥ずかしくなってくる。
それに耐えかねた伊織はげんこつを飛ばした。
「お前、次言ったらぶっ飛ばすかんな。」
「ハイ、スイマセン。」
「最近の女子って怖ぇ……。」
「いいから、早く戻るぞ。うち早くUNOやりたい。」
「お、じゃあビリのやつ罰ゲームな!!小柳も強制参加!!」
「へいへい、分かってるよ。」
と、俺の部屋に戻った。
そして、一晩中楽しんだ。UNOにトランプ、オセロに大富豪。気が付けば朝になる前で三人とも部屋で寝落ちしてしまった。
─────ううん……もう朝か。
朝を迎えて第二次試験になれば、桜木とも名古井とも敵同士になる。
それが現実なのに、何故か心がもやもやした。
ずっとこんなにワイワイ出来たらいいのに。
そう心で思ってるのかもしれない。
─────シンくんなら、きっと大丈夫。
彼女の声が聞こえた。
はっと我に返った。
────そうだよな。
気持ちが切り替わった。
俺の本当にやりたい事は、討伐士になって、愛菜の父親が変わった悪の権化、『香良洲』の素性を明かして、香良洲を壊滅させることだろうが。
立て、小柳深海。
前を向け、小柳深海。
気持ちを強く持て、小柳深海。
みんなの想いを背負え、小柳深海。
────戦え、小柳深海 。