第十一話『数多の想いを背負って』
「────竜馬って、討伐士の第二位だったのか。知らなかった。そんな大物に助けられたのか。」
「でも彼は、君達のことを楽しそうに話していたよ。それに彼は、君たちのことをすごく気にかけていた。"同い歳だから放っておけない" ってね。」
「───そんな時もあったな。……あの時は、まだコイツも元気だったのに。」
そんな事を悔やんでいても、彼女は目を覚まさない。
きっと、今も戦ってるんだ。自分の意識と、自分の運命に抗うために必死になっているに違いない。
「今は、この子の運命を信じるしかないわい、そういえばお主、討伐士なんじゃろ?丁度いいところに来た。良かったら深海を、討伐士として推薦してくれんか。」
「──────あなたは …… まさか。…分かりました。ですが僕が推薦しても、確定で討伐士になれるかは分かりません。あの世界は完全に、実力主義の世界ですから。」
「そうじゃな、それは分かっておる。……じゃが、こやつは強い。ワシが認めよう。」
「────師匠。」
最初の頃は、手が出ないほどボコボコに打ちのめされた筈なのに。今では師匠に認められるほど強くなった、その事実が、何よりも嬉しく、心に響いた。
「そうか……それじゃあ、君の腕を確かめさせてもらいたい。これはある提案だが、明日開催される "討伐士認定試験" この試験で上位5位に入る事が出来れば討伐士になれる。良かったら出てみないか?」
とんでもないビッグチャンスだ。
今の自分に、断るという選択肢は無かった
「もちろん、出る!」
「ふふっ、そう言ってくれると思ったよ。じゃあ僕から新しい参加者として、小柳深海という名をエントリーしておく。場所は東商の中心にある『天皇宮殿』集合時間は朝の7:00だ。」
「分かった、持ち物とかはあるのか?」
「特に必要ないよ、…そうだ、試験内容は当日だけに明かされる。だから僕たちも正直把握していないんだ。日によって試験内容がバラバラだからね。何が来ても大丈夫なように準備しておくことをオススメするよ。」
「分かった、色々ありがとな。そうだ、竜馬にも、よろしく伝えておいて欲しい。」
「了解した。明日は、君の健闘を見守る事にしよう。────この青年に、ありったけの天の御加護がありますように。」
と、深海の胸元に手を置き言い、消え去った。
アニメや漫画で言うところの "瞬間移動" の類いだろう。
「────深海、この子のことは心配せんでいい、ワシらで見守っておく。お前さんは、やるべき事を見誤らず、自分の想いを信じて望むんじゃ。ここがお主にとって、大事な分岐点になる。絶対、勝ち取るんじゃぞ。」
「────はい、師匠。オレはこの時のために今まで鍛錬してきたんです。」
「いい面じゃ。じゃがワシは最初から心配などしておらんがな。」
師匠が微笑んだ。
俺も、一緒になって微笑み、再び覚悟を決めた。
どんな試練が待っているのか、ワクワクする気持ちすらある。
気持ちを持ちながら、寝ている彼女の近くに行き───
「───愛菜、ごめん…。オレ、昔は本当に未熟だった。自分のことで精一杯で、君の存在がどれほど大きかったのかも、全然気づけていなかった。────それでも、今なら分かるよ。愛菜がオレを支えてくれていたこと、どれだけオレに力をくれていたのか。だからこそ、今度はオレが君を支える番だ。必ず結果を出して、また帰ってくるよ。帰ってきた時はあの時みたいに、玄関から飛び出して迎えてくれると嬉しいんだけどな…。」
溢れ出そうな涙を抑えながら、彼女に語り掛ける。
聴こえているのか、心に響いているのか、分からないけど。俺の心には響いた。
使命感やプレッシャーに押されそうになっても、今の自分なら大丈夫。
─────シンくんなら、大丈夫。
そう言って、背中を押してくれた気がした。
「師匠、少し外出してもいいですか。」
「────構わないが、夜も遅いから気をつけてな。行く場所は大体わかっておるが。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「まさか、こんなに早く戻って来るとは、何かあったのデス?」
「美咲、オレ、討伐士認定試験を受ける事になったよ。明日の朝だ。」
と、今日起こったこと全てを話した、
師匠との対決、愛菜の悲劇、弁慶の存在。
全てを話した。
「────そうだったんデスか、そんなに悲劇が重なって、そのベンケイってやつ、許せないデス!Angryデスよ!!」
「そんなに怒ってくれるとは思わなかったけど、でもオレ、今は認定試験にしか集中してないんだ。」
「実は私も、認定試験を受けた事があるんデスが、私は落とされてシマイマシタ。」
「お前が、落とされたのか?剣術に関しては、討伐士にも引けを取らない強さだろ。」
「"剣術" という一個のカテゴリーだったら、ワタシの方が強いかもですが、試験内容は剣術だけではないのデス。正直、生半可な気持ちで挑めば、後遺症を残して帰る子も大勢いるらしいのデスよ。」
「────マジか、思ってたよりも残酷なんだな。」
「でもワタシは、キミなら行けると思っているのデス。君には、剣術も体術ももちろん備わっていますが、 "何事にも屈せず挑める精神力" があるじゃないデスか、だから、そんなに緊張せず、日々の訓練の感覚でチャレンジすれば良いんデスよ。」
励まされている。
今はその励ましが、俺の緊張を解してくれた。
そうだ、俺には他の誰も持っていないものがある。それを信じて、この試験を絶対に乗り越えてやるんだ。今の俺なら、きっと大丈夫だって、そう思えた。
「─────ありがとな、訓練に付き合ってくれて。1年って、結構長い期間だからさ。本当に感謝してもしきれねぇっつうか。」
「じゃあ、認定試験が終わった後、ここに報告しに来てクダサイ。そのお土産話だけで、ワタシは嬉しいので。失敗しても成功しても、絶対に来てくださいネ。」
「あぁ!絶対に成功もぎ取って、討伐士の格好でまたここに来るよ。約束だ。」
指切りげんまんの合図、小指を出した。
それに軽く笑いながら、小指を絡めた。
「自分を信じて、自分を律して、あなたを応援してくれる人たちを信じて。頑張ってクダサイね。モチロン、ワタシも応援していますよ。」
───決戦前夜、色んな人の想いを背負い。
明日、運命の時へと駒を進める。
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