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聖女編6

 どう表現すれば良いだろうか。

 生き生きと咲き誇る花々の色彩は天界にいるようで、そこに住む生けるものたちの輝きは感嘆しかない。空も大地も圧倒的存在感でここが他とは存在を異にする世界だと実感する。

 ラファイアは最高神ハーヴェの人間界での居城ファーレ神殿の奥の院にいた。

 命の神ハーヴェの神殿らしく、明るい美しい世界にラファイアは目が眩む。

 だが浮かない顔のヘルーシュ神が隅に控えているせいで、どうしてもこの場所を堪能するという気にならない。

 自分の聖女を亡くした側近である神を自分のわがままで他の神の聖女の面倒を見させるという暴挙に出た最高神に言葉もなかったラファイアだが、最高神の屈託のなさに神と言う存在が人間とは全く違う価値観の中にいることを再認識する。

 そう、神の考えなど人間には想像もできない。

 まとわりつくようにハーヴェ神が側にいて、ラファイアに甘い言葉を囁いてくる。時に情熱的に、時に官能的に。

 身が保たない。

 それがラファイアの正直な感想だ。

 質素堅実を表したかのようなヘルーシュ神の神殿とは違い、ここファーレ神殿は全てが華やかで煌めいている。

 庭には果物や花がたわわに実りを披露し、動物が闊歩している世界がどこまでも広がるだけでなく、神殿の中の装飾も贅を凝らしてある。

 最初こそ聖騎士の制服を頑として脱がなかったラファイアも、明るく屈託のない笑顔で諭されているうちにハーヴェ神の好みの服装に着替えさせられた。

「ラファイア、今日も美しいな。君のそのたおやかな手は俺の手と繋がる為だけにある。さあ、俺の手を取って」

 麗しい美貌で軽薄な人間の男のような言葉を吐く神の存在にラファイアは慣れた。

 この神は「そういうもの」なのだ。

 だから彼の情熱的な口説き文句も褒め言葉も本気にしないし、惑わされることもない。

 ヘルーシュ神を祀る家門で育ったラファイアにはどうしてもハーヴェ神の煌びやかな世界は居心地が悪い。

「ラファイア、何を考えている?俺の可愛い人。こっちを見て」

 手をモミモミされながらラファイアは曖昧に笑って最高神を見つめる。

 この世界の誰よりも何よりも美しい男神。けれど、軽薄な印象が残念な彼。

「今日はボレーの滝を見に行くか?それともアブライド神の神殿を訪れるか」

 ワクワクと計画を練る神にラファイアは首を振る。

 ボレーもアブライド神の神殿もここからは遠い。神だからこそ一瞬で移動できるのかもしれないが、そこまでして美しい景色が見たい訳ではない。

 ラファイアは聖騎士として人々を助けてきた。だからこれからも人々の役に立つ存在でありたいのだ。

「私はまだ聖女として知識も経験も足りません。だから学んで一人の聖女として使命を全うしたいのです」

 ラファイアの言葉にハーヴェ神は片眉を上げる。

 怒らせたのか、とラファイアは緊張感を持って彼を見つめ返す。

「ラファイア、君は何か勘違いしている。聖女とは何か?」

「神の側にあり、お助けする存在です」

 ヘルーシュ神の聖女ジョイは常にヘルーシュ神の代弁者として過ごしてきた。それを知っているからこその言葉だったのだが。

「違うな。聖女は神の伴侶だ。天界にいるべき神が何故この世界に留まるのか?それは聖女、つまり自分の妻の世界を守るため。だから世界には聖女が必要なんだ。でなければ人間の世界などとうに潰れている」

 ラファイアの心臓が大きな音を立てる。

 最高神の冷酷な瞳にちっぽけな人間の世界の存続が危うく感じられる。

「おやおや、怖がらせたようだ。冗談だよ、ラファイア。俺以外の神が携わって作った世界だ。うまく出来ている」

 聖女云々のことははぐらかすようにしてハーヴェ神はラファイアを自分の膝の上に抱き上げる。

 体格の良いヘルーシュ神よりもやや小柄なハーヴェ神だが、神として雄々しい体躯は人間にないものだ。美しくバランスのとれた彼にしてみれば、鍛えられた聖騎士のラファイアでもか細い女性でしかない。誰からもそんな扱いを受けたことのないラファイアは戸惑いながら間近にあるハーヴェ神の麗しい顔を見上げる。

「ラファイア、俺の聖女。もう離さない」

 ハーヴェ神のラファイアを抱きしめる腕に力が入る。

 まるで唯一無二の大切な存在かのように扱われるとラファイアも勘違いしそうになる。胸が高鳴って、制御ができないほどの激情が溢れそうになる。

 けれど。

 ラファイアは知っている。自分が真に彼の聖女ではないことを。

 複雑な気持ちで最高神の熱を孕んだ瞳を彼女は見つめ返すのだった。



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