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聖女編5

 鎮魂の鐘の音が響き渡る。

 ヴァンニ神殿には長蛇の列ができ、聖女ジョイの死を悼む人々で溢れかえる。

 各国の王族、貴族、評議会の面々が弔問に訪れ、神殿の神官たちはその対応に忙しい。そして忘れてはならないのが、ヘルーシュ神自身が神殿において聖女の死を悼んでいるということだ。

 人は死ぬと天界の死の神の元へ招かれる。裁きを受け、その魂に見合った場所を用意されると言う。死の神は序列七位とは言え、世界を創造した神だ。そして序列一位の最高神と対を成す存在。夫婦神と呼ばれた女神は生きた人の前に姿を見せることはない謎に包まれた神である。他の神も彼女のことを語らない。

 ヘルーシュ神がそんな死の神に自分の聖女のことを託しているのだと人々は思った。

 聖騎士として聖女の棺の前に並んだラファイアは傷心しているヘルーシュ神を見ていられなかった。彼の痛みが本能的に彼女の心に入り込んでくる。

 そんな悲しみの場に、明るい光が訪れた。

 人々が顔を上げ、その希望に満ちた光に顔を明るくする。

「最高神ハーヴェ様がお見えだ」

 人々の口から畏敬の念が漏れる。

 ヘルーシュ神が眉を寄せて己が仕える最高神の登場に黙礼する。

「礼儀なぞよい。そなたの聖女が旅立ったのだ。愚痴でも慟哭でも聞いてやるぞ。俺は親友を慰めに来たのだから」

 慈悲の溢れる気遣いにヘルーシュ神は苦渋の表情だ。それがどうしてなのか人々には分からない。

 ただ悲しんでいるのだろうと想像する。

 最高神ハーヴェはヘルーシュ神の肩に手を置く。

 そして。

 弾かれたように背後を振り返る。

 人々がギョッとして恐れ多くも最高神の麗しい尊顔を見つめ、彼何に驚いたのか探ろうとする。

 ラファイアも様子を伺いながら、なぜかさっきからハーヴェ神と目が合うな、と不思議に思っている。

 最高神がラファイアの前に立った。

 聖騎士が一斉に膝をつく。聖騎士の一人として膝をついたラファイアをハーヴェ神は腕を取って立ち上がらせる。

 体に電流が走ったようにラファイアの体が痺れる。

 ヘルーシュ神の時には感じなかった圧力にラファイアは息が苦しくなる。それに気が付いてハーヴェ神が慌てて手を離す。

「君、名は?」

 甘美な声がラファイアに答えを促す。

「ラファイア・ベルシルクでございます」

 震える声で彼女が答える。

 恐ろしい魔獣の前にあっても震えたことのない彼女の様子にヘルーシュ神が唇を噛んで目を伏せている。

「ラファイア。うん、君だ。俺の聖女」

 衝撃がその場を走る。

 最高神の聖女候補は数人いる。ハーヴェ神を祀る世界最大の神殿において丁重に隠されてはいるものの、存在は公になっている。だが聖女になるには至らず、保留のままだと言う。その聖女見習いを差し置いて、ラファイアは神自ら聖女と告げられたのだ。

 ふとラファイアの目にハーヴェ神の向こうのヘルーシュ神が映る。

 諦観したように目を閉じている姿に彼女も悟る。

 捕まったのだと。

「このまま連れて行っても問題ないよね。君、聖騎士なの?しかもヘルーシュの子か。丁度いい。ヘルーシュ、お前の聖女がいなくなったなら嫉妬されることもないだろう。俺の聖女の面倒を見てよ。お前の神殿の子だし。異議はないだろ?」

 最高神としての命令。それを断れる存在などない。

「主よ、彼女は聖女になることを望まない」

「ふーん。じゃあ聞いてみようか?」

 ラファイアを見下ろす黄金の瞳に彼女は不思議と恐れを感じない。

「聖女は辞退いたします」

「いや、無理だね。辞退とかないから」

 有無を言わさない強い口調の割に優しい笑顔で彼はラファイアの手を取った。先ほどのような電流は走らない。密かに安堵を覚えて彼女は温かなその手を眺める。

「俺の聖女」

 その手の甲に口付けて、ハーヴェ神は昏く笑ったのだった。

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