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聖女編3

 馬車に揺られることたっぷり二時間。

 ウトウトとしていたラファイアは御者の呼ぶ声に意識を覚醒させる。

 神殿内を走らせる馬車の御者は神殿の者だ。神殿の中でも奥の院は神域。神に仕える者でもごく僅かな者しか入ることを許されない。この御者も普段は神官長の使い走りをしている者で神官ではないものの、神殿に滞在する特別な許可を持っている。

 ラファイアは馬車を降りて、久しぶりに訪れた奥の院の美しさに息をのむ。

 ここはヘルーシュ神が姿をお見せになる場所だ。戦の神とは言え、序列第二位の偉大な神であるヘルーシュ神を祀るだけあって厳かな雰囲気に包まれ、自然の美しさに己の小ささを実感してしまうような素晴らしい景観を望める場所だ。

 聖女の身の回りの世話をする神官ミラに案内されてラファイアは聖女の部屋に向かう。

 長い廊下の先にある部屋には先客がいるらしく話し声が聞こえてくる。

「あなたもそろそろ素直になってみてはいかが」

 聖女が誰かを諭しているらしい。

 先客が退出するまで待とうと、ミラに廊下で待つ旨を視線で伝えて、大きな石柱の影に潜む。

「君の後任の聖女は置かないと何度言えば分かる。心配してくれているのは嬉しいが、この件に関しては黙っていなさい」

 耳に心地良い美しい声が聖女を逆に諭す様に言った。

「どうして本心を隠す必要があるのか教えてくれたら黙るわ」

 聖女が強い口調で言ったとき、扉が開いた。

 ラファイアは息をのむ。

 目を引いたのは銀色の長い髪。そして背が高く、引き締まった完璧な戦士の肢体。途方もなく美しいその人が人間であるはずがない。

「お前は……」

 ラファイアの前に立つと、眉を顰めてヘルーシュ神は彼女を見下ろす。

「あの、私は」

 ラファイアの心臓が高鳴る。

 言葉が出てこない。

 会いたかった人に会えた興奮、懐かしい人に会えた感動、心の隙間を埋めるピースが見つかった様な震えるほどの喜び。

 そんな感情が大波のように彼女を攫う。

「あら、ラファイア。早かったのね」

 聖女が顔を出す。

 ラファイアと姉妹と言っても過言ではない乙女のような容貌はとても祖母の妹が持つ見た目ではない。聖女は神の加護を得て、不老となる。しかし、人間を長く一つの生に押し留めることは理に反するとして、寿命はその他の人間と等しく訪れる。

「ヘルーシュ様、こちらが私の言っていたラファイアよ。あなたが本心では聖女に望んでいる私の可愛い孫」

 いつも彼女を孫と言って可愛がってくれる聖女にラファイアは戸惑った目を向ける。

「あなたも今、実感したでしょ?ヘルーシュ様の聖女である証拠よ」

「ジョイ」

 諌めるようにヘルーシュ神が聖女に顔を向ける。

「ラファイア、これは秘密なんだけどね、この奥の院に来られる人は神様の神気に耐えられる人しか無理なのよ。神の前に立つということはか弱い人間には耐えられない途方もない圧力を向けられるということなの。でも、あなたは平気でしょ?」

 屈託のない笑顔で聖女に言われて、ラファイアは思考が停止する。

「ジョイ、もう黙って寝台に戻るがいい」

「あら、ヘルーシュ様。そうやって都合の悪いことを私に見せないようにしてもあなたの聖女である私にはお見通しなんですからね」

「分かったから、もう休め。ラファイア、そなたは聖女の見舞いに来たのであろう?このジャジャ馬が少しでも休むように見張っておいてくれ」

「駄目。ヘルーシュ様、あなたもラファイアと一緒に私の話を聞くのよ」

 聖女ジョイは言い出したらきかない意思の強い女性である。

 ラファイアと戦神はまさしく聖女の微笑みを浮かべる美しい人を前に並んでソファに座らされたのだった。


 

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