聖女編25
ラファイアの怖い顔にフィーランはポリポリと鼻をかく。
「これ、言ってなかったんですけど、実はうちに魔術専門の騎士団ができまして」
「魔術専門?」
「つまり剣じゃなくて魔力で戦う専門家です。俺たちとは別の機動で動けるようにお館様の要望で。ただウチの騎士が軟弱では困るので領地である程度鍛えてからってことで訓練を兼ねて半分移動しただけのことなんですけどね」
「でもバーザワール領にも行かないといけないし、王の要請で魔人討伐にも行くのでしょ」
「そうなんです。でも、ま、俺たち最強なんで」
心配なんて無用です、とラファイアに睨まれながら声を小さくしてフィーランは言い切った。
「心配はするわ。むしろ心配するなって言われたら断固として討伐に出向くのを反対するからね」
心底怒っているラファイアの表情にフィーランは弱い。
「お嬢、俺は死にに行くのではありません。あなたの望みを叶えに行く。あなたの剣であり、あなたの盾であると昔誓ったことを忘れないで下さい」
いつもは茶化すばかりの彼の真摯な様子にラファイアは背筋を伸ばした。
いつ約束したかは定かではない。でも知っている。
彼は今も昔もラファイアのただ一人の騎士だ。
「あなたのことをいつも誇りに思っている。どんな状況でもあなたらしく戦って生き延びることを信じているわ。本当は、戦いなんて無縁のところにいて欲しいのだけど」
「それじゃ、俺があなたの望みを叶えられなくなるでしょ。無理言わんで下さいよ」
「もう、本当にああ言えばこう言うんだから」
むう、と口を膨らませるラファイアにフィーランはポンポンと宥めるように頭を優しく叩いた。
「俺だって本当はあなたのすぐ側であなたを守るためだけに存在していたいんだ。だけどそれじゃダメだって分かっているからこうしている。いつだって、あなたを守るのは俺の役目だと、そう思っている」
沈んだ様子のフィーランにラファイアは目を丸くする。
「フィーランにはいつも守ってもらってるわよ。いつもあなたが心の中にいるんだから」
「ええっと、あの、それは光栄です」
明らかに狼狽して彼は目を逸らした。
「変なフィーラン。あなたもお兄様たちもお姉様たちも、みんな大切なの。ベルシルクにいる以上命の危険は常について回るけれど、だからこそ尊い生なのだと知っているわ。いつか神様たちが私たちの行いに報いてくれるのだと信じて頑張るしかないわね」
際どい発言にフィーランはスッと表情を改めてラファイアを抱きしめる。
「あなたには神の加護がある。それがあなたを苦しめないことを願うばかりです」
ハーヴェ神や兄のアンリとは違うフィーランの戦いで鍛え抜かれた逞しい胸の中にいると、ついつい子供に返って甘えてしまいたくなる。ラファイアは「もう」とフィーランの硬い胸を拳で殴った。
「何がお気に召さないので?」
「甘やかしたらダメでしょ」
「でも嬉しいでしょ?」
揶揄するような彼の言葉にラファイアは正直に頷いてしばらく彼の腕の中で気を抜きまくったのだった。




