聖女編24
ラファイアはゴドファンの見た目とは裏腹の割と本気の懇願に笑顔を返す。この人は冷静で穏やかな表情を崩さないだけで、結構感情豊な人なのだ。
聖騎士に戻る。
出来ることならばそうしたい。それなのにハーヴェ神の顔がチラつく。
「ラフィ、里帰りはいつまで?」
「祭りが終わる頃までだと思う。正確な日は決めていなかったけど、ハーヴェ様はそのつもりだったと思う」
ヘルーシュ神を祀る一族の姫君がハーヴェ神の名前を語ることを目を細めて聞いていたゴドファンは頷いてからラファイアの手を握る。
体温の高い彼らしく熱い手だった。
「ぜひ皆と会ってやって下さい。魔人が現れてから皆顔には出さないが不安を感じている。あなたに会えばカツが入るでしょう」
隊長らしい風格で彼はそう言った。ラファイアと違って聖騎士として入隊した時から彼は人の上に立つべき存在だと神官長から目をかけられていたことをラファイアは知っている。自分とは違う才能の持ち主に少し嫉妬を覚えたラファイアだったが、いつでも彼女を支えてくれた彼に感謝の気持ちの方が上回る。だから穏やかな気持ちで彼の瞳を見つめた。
「そう?皆に会えるのは嬉しいわ。調査隊はいつ頃帰ってくるのかしら」
「三日後の予定です。成果が上がらなければもう少し。祭りの日までにははっきりさせたいところですが」
「三日後か。ね、ゴドファン。あなた今夜の予定は決まっている?一緒に食事なんてどうかしら。今後のこととか話したいし」
「いいですね。隊長権限で他の奴らには悪いがラフィを独り占めすることにしましょう。いつもの店で夕暮れの鐘が鳴る頃に」
いい笑顔で彼は約束してくれる。
「分かった」
「もしお屋敷に迎えに行った方が宜しければ連絡を下さい。俺は宿舎にいますので」
聖騎士のほとんどは神殿付近にある聖騎士の宿舎に住んでいるから彼も変わらずそこにいると言うことだ。みんなが彼の部屋に行って騒いでいたことを思い出しながらラファイアは思わず笑みを浮かべる。
「懐かしいなあ。あなたの部屋って角部屋だから騒いでも怒られないんだよね」
「いい迷惑ですけどね」
「それだけ好かれてるってことじゃないの。それじゃ、私は家に戻るね。ヘルーシュ神の聖女がどこかにいないか伝手を使って探してもらう手筈を整えるわ」
「よろしくお願いします」
ベルシルク家の遠縁の中にもしかすると聖女に確実になれる聖女見習いがいるかもしれない。ラファイアがヘルーシュ神の聖女に適性があったように。
ラファイアはゴドファンと別れてすぐに屋敷に戻った。父も兄もフィーランも王城へ行っているから屋敷にいるのは使用人と彼女だけだ。大所帯のベルシルク家騎士団も出動の要請があったのか、事務方と護衛にわずかに人を残して出払っているようだった。
彼女は部屋でベルシルクの訓練着に着替えを済ませ、訓練所に出ると木剣で素振りを始める。素振りをしている時は無心になることもあるが、考えを整理するのに最適だ。ラファイアはカーティスに聞いた魔人のことを考える。
今やれることは一つ。ヘルーシュ神の神殿に聖女を迎えること。未知の敵に対抗することを考えれば早急に聖女を確保しなければならない。聖騎士たちが万全の状態で戦えるように。
そうラファイアは考えてから、自分がハーヴェ神の偽の聖女だと言うことに思い至って気が重くなる。
彼の神の神殿の聖騎士はラファイアに対しても礼儀を尽くしてくれている。できれば彼らの助けになりたいが、今のラファイアではハーヴェ神の力は受け取れない。そのこがどんな事態を招くのか不安しかない。
そもそも、序列第一位のハーヴェ神の神殿にいる聖騎士はエリート揃いで魔物との戦闘でも負け知らずだ。そんな彼らが怪我をしたり、苦戦するという状況は想像できないものの、未知の魔人という敵の出現に彼らの力が通用するのかも分からない。あの有言実行の実力者であるカーティスが聖具を使用しなかったら勝てなかった相手。そんなものに聖女の力なしで対抗できるのか。
ラファイアは怖気を感じて思考することを止めた。
「お嬢様?」
急に目の前にフィーランが現れて彼女の木剣を素手で止めた。
「えっと、おかえり?」
「只今戻りました。って、俺、めっちゃ話しかけてたのに聞いてませんでしたよね」
「あー、そうね。ごめん」
繕うことはせず、素直に謝ると彼は苦笑を返した。
「何かありましたか」
優しい瞳に助けられながらラファイアは今朝カーティスから聞いた魔人のことをフィーランにも話す。
「ああ、俺も聞きました。王から直接。結構深刻な話みたいでベルシルク家としても騎士団を出して協力することになっているんです」
「それでみんな留守だったのね」
「いや、半分は領地へ行ってるんですがね」
フィーランは言いにくそうに口にしてラファイアを伺う。
「どういうこと?バーザワール領に出向する以外にも他の領地でも問題が起こっているの?」
バーザワール領にいるベルシルク家騎士団は全体の四分の一。そこへ王都のヘルーシュ神の神殿領にいる精鋭のベルシルク家騎士団が応援へ駆けつける。それ以外の領地のベルシルク家騎士団は全体の五分の一かそれ以下の人数になる。一伯爵家が持つ私設騎士団としてはかなりの規模だが、任されている領地や武家の名門としての歴史を鑑みると妥当な人員なのである。
ベルシルク家騎士団は特に厳しく訓練された騎士団であるが為に王城の騎士団からも別格の扱いを受けることがある。それ故、王家からの支援の要請を断ることができない。




