表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

聖女編10

 ハーヴェ神の神殿での生活にも慣れてきた頃、ラファイアは奥の院へ挨拶にやって来た年若い聖女見習いに出くわした。

 普段は奥の院への出入りには特別の許可がいる。それはハーヴェ神の神気に耐えられる者が少ないということもあるが、彼自身が心を許した者以外の来訪を快く思わないからだった。

 いつも陽気でお調子者のように女子を口説くハーヴェ神からは想像できないことだが、彼は神殿において神官や数少ない聖女見習いには厳格な態度を取っていた。

「ラファイア様」

 まだ少女と言える聖女見習いは腰を折って最敬礼を捧げてくれる。

「そう畏まらなくても良いのよ。私は暫定聖女だから」

 自分で聖女と言うのも憚られるのだが、神に選ばれておいて名乗らないのはもっと無礼に当たる。そろそろ観念し始めているラファイアだったが、聖女見習いの少女の嫉妬に満ちた強い瞳を前にたじろんでしまう。

「とんでもありません。この神殿においてハーヴェ神の次に敬われて然るべきラファイア様。あなたはかの方に選ばれし聖女様。ですから皆の頂点に立つのはラファイア様です」

 攻撃的な瞳の割に礼儀正しい少女に興味を引かれてラファイアは彼女の側に近寄る。

「あなたのお名前は?」

「ディスティでございます」

 淑女のカテーシーと共に答えた少女は可憐な見た目に反して意思の強そうな瞳が印象的だ。

「ディスティ。あなたは貴族の息女なのかしら」

「はい。ウェラード伯爵家の傍流ですが、社交界デビューも済ましております」

 ラファイアの頭に貴族相関図が描かれる。

 まだ年端もいかぬ子供かと思っていたが社交界に出ているのならば大人扱いになる。ラファイアは認識を改めた。同世代の彼女はラファイアの良き相談相手になってくれるかもしれない。そんな彼女を見てラファイアは気が付いた。

「ディスティ、あなたは魔力が強いのですね」

 奥の院にやって来られるくらいに。

 ラファイアの身の回りの世話をしてくれている神官もそうだが、ハーヴェ神の神殿にいる者は他と違う特性を持っている。魔力然り、容貌や頭脳に至るまで洗練されていて優秀な者ばかりだ。

「恐れながら公に見習い聖女に選ばれたのは私のみですから」

 言葉の端に優越感が見えてくる。

 正式には公に選ばれたハーヴェ神の聖女見習いは三人いるはずだ。このディスティと貴族ではない女性が二人。聖騎士であったラファイアは神々の聖女見習いのことも頭に入っている。魔力もそうだが情報がなければ聖騎士は務まらない。そしてラファイアは理解する。目の前のこの聖女見習いは貴族としての誇りを捨てられずに他の聖女見習いを見下しているのだと。

 少し苦手なタイプかも、とラファイアは内心苦笑しつつ、聖騎士として培った社交上の人の良さそうな笑顔を顔に貼り付ける。

「素晴らしいことですね。それで今日はこちらへはどうして?」

 奥の院に来るからには何か特別な用事があるはずだ。

「ハーヴェ神に呼ばれまして。見習い聖女ですが、奥の院への来訪を許されたのは私だけですわ」

 嬉しそうな顔を隠しもしない。それだけならただ微笑ましいだけなのだが、彼女はそこに更なる優越感を付け加えてラファイアを見る。

 聖騎士であったラファイアを聖女だと認めていない証である。

 困ったな、と彼女は思う。自分でも聖女ではないと自覚しているものの、対外的にはそうではない。ましてヘルーシュ神にまで迷惑をかけているような状況だ。

「そうですか。ではハーヴェ様がお待ちでしょう。私は失礼しますね」

 触らぬ神に祟りなし。

 いや触ってなくても接触してきた神はいたけど。

 ラファイアは笑顔の下でハーヴェ神に選ばれてしまった場面を思い出しながら早々に退散することにした。

 遠くでヘルーシュ神が吐息をついているのを感じる。

 お世話してくれている神官のファイフェも困った顔で控えていた。

 ディスティが自分こそがハーヴェ神の真実の聖女だと自負するのはいい。だが回りを巻き込むのはよろしくない。

 ラファイアは胸にモヤモヤを抱え込む羽目になり、色男であるハーヴェ神を恨むような気持ちになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ