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聖女編9

 華やかな神殿の中で唯一ハーヴェ神の寝室だけは華美から程遠い設になっていることを知るものは少ない。普通の人間であれば出入りを許されず、この神殿が設立されてから数えても人間でこの部屋に立ち入りを許された者はただ一人。それも聖女ではなく、世話役の青年だった。

 ハーヴェ神は広い寝台に腰掛けて吐息をつく。

「身がもたないな」

 思わず口からこぼれた呟きに苦笑してしまう。

「あの、ハーヴェ様?」

 ラファイアが彼とほど近い場所に腰掛けて緊張した様子でハーヴェ神を伺う。

「なんだい、ラファイア」

 甘い顔で見つめてくる美貌の主に彼女は真っ赤な顔を隠すように両手を前に持ってくる。その両の手を優しく掴んで彼は微笑む。

「不埒なことを考えていたのがバレたのかな?ごめんね、君を前にしてそれを考えるなと言う方が愚かな話だ」

 言われていることの意味を数秒の間を置いて理解すると彼女の体から火柱が立ち上ったかと言うくらいに全身真っ赤になって目を回している。

「ウブな反応も素晴らしいが、少し心配になってしまうな。他の男の前でもこんなに純粋な反応を返すのならば、今後一切人間の男の前には出せなくなる」

「ハーヴェ様が特別なのであって、私は騎士ですから仕事でこんなことになることはありませんのでご安心下さい」

 少しムッとした様子で言われたハーヴェ神は口端に笑みを隠しきれない。

「私が特別か」

 囁き声くらいの小さな独り言を聞き逃すラファイアではなかった。嬉しそうな彼の言葉に心が躍るものの、「俺」と常々言う彼の口から「私」という一人称が出てきて小さな猜疑心がラファイアに芽吹く。

「ハーヴェ様、こちらはハーヴェ様の寝室ですよね。そんな場所に私がお邪魔して良いとは思えません。これにはどういう意図があるのでしょうか」

 部屋の扉の前にはヘルーシュ神が護衛のように立っている。それも気恥ずかしいし、寝室に並んで腰掛けている状況も異様としか思えないラファイアだ。

「意図、か。君は俺が寝室に誘った意味を誤解してくれないのかな」

「はあ。私はそこまで図に乗りませんが」

 素直に意味不明、と顔に書いているラファイアにハーヴェ神は苦笑するしかない。

「君が俺の最愛だって言っても信じてくれないんだろうね。君はもっと奢っていいよ。俺にとって君は唯一最大の存在。君の考え一つで俺は意思を変える。と言ってる側からその表情だもんな」

 甘すぎる菓子を口に入れて吐き出しそうな顔をしたラファイアにハーヴェ神は小さく笑う。

「白状するよ。これは実験。ヘルーシュの力が俺の私室に違和感なく入り込めるのかってね。ここは天界と繋がる場所だから人間にとっては一番影響を持つ場所になる。それに他の神だって俺の力の及ぶ場所は威圧を感じるから力を発揮できない場所ってことになるんだ。序列がすぐ下のヘルーシュでもなかなか苦しい場所じゃないかな、ここは。人間に例えて言うなら空気が薄すぎる場所ってことだよ」

 最後の方はよく分からないと言う顔をしているラファイアに細く説明する形で言って、ハーヴェ神は立ち上がる。

「このままここにいると俺は君を外へ出したくなくなるから、一旦離れようか。君の意思が固まっているなら、ここで最後までしても良いんだけど。いや、その方が俺にとっては僥倖」

 ラファイアは脱兎の如く部屋の外へ飛び出した。それをゆっくり追いかけてハーヴェ神はため息をついている。

「やはり警戒されているのか」

 がっかりした言葉にヘルーシュ神が気遣うような視線を送っている。

 そんな二人の仲の良さそうな雰囲気にラファイアは安堵して、そしてそんな自分を不思議に思うのだった。



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