魔法と試験と旅立ちと…
「…んあ?また寝てた…って、釣り餌減ってる!?クソー!やられたー!」
森にある大きな川、そこでは一人の少年が釣りをしていた。ここらの川では近年、魚達の気性が荒く、ここでの釣りは禁止になっているはずなのに、少年は釣り道具を多く持ってきて、魚釣りを楽しみながら寝ていたのであった。
「食われてないのは一つだけか…おっ!かかった!それ!」
一つ、釣り餌の付いたままの釣り竿に、魚がかかった。少年が釣り竿を引っ張ると、魚も負けじと釣り竿を引っ張る。川には大きな波が流れ、今にも溢れ出しそうな勢いだ。
「大物…釣られやがれー!」
ザバァァァァン!
「来た!オオヤマノバス…って、デカくね…?」
少年は何とか魚を釣り上げることに成功したが、あまりの大きさに驚きを隠せず、魚から避けるという発想には至らなかった。そして、釣り上げた魚が、勢いよく少年に向かって落ちてきたのだった。
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「全く!あそこの川にはもう行っちゃ駄目って言ったでしょ!」
「アハハ…ごめん母さん」
「もう…明日は魔術師試験でしょ?こんなところで怪我したら合格出来ないわよ?」
「まぁまぁリリスちゃん。ゲンも面白半分で川に行ったわけじゃないんだから…」
「いや、アソコの川、すっげえいいのばっか釣れるから、釣って売ろうと思って…「ゲン!」ぐへっ!?」ゴツン!!
「…割りと面白半分だったな」
彼の名はゲン・セルフィオン。都市から数千キロ離れ、海の先にある小さな町で暮らす少年である。黒髪は所々寝癖があり、少し幼いような目をしていて、黒いコートのようなものを来ている。家族は母のリリス・セルフィオンと、現在離れ離れの父の三人家庭である。母のリリスは近所でも有名な人で、昔は有名な探窟家だったらしい。父は魔術師と呼ばれていて、今はかなり遠くの街にいるらしい。
「って…なぁ母さん。明日から俺…魔術師試験に行くけど…1人で平気?」
「平気よ!私を誰だと思ってるの!」
「どう見ても34歳じゃなくて18ぐらいの少女にしか見えないポンコツ母…」
「ゲン?」
「なんでもないです!!」
そんなことを繰り返しながら、ゲンの魔術師試験前日は楽しげに進んでいった。
「なぁゲン…一ついいか?」
「ん?何だよおっさん達?どうかしたの?」
「明日の魔術師試験…絶対死ぬなよ…あそこは辿り着くだけでも大量の死者が出る場合もあるらしいからな…」
「うん、分かった!じゃあ俺寝るね!おやすみ!」
「おう!よく寝ろよ…ってさっきの話聞いてたか!?」
「聞いてるわよ…あの子は…」
「アイツに似てるなぁ…」
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「…明日、ここを離れるのか…」
ゲンは、生まれてこの方この町から離れておらず、島の外を知らないのである。その為、彼の心には自分では見たこともない景色への好奇心と、不安感がよぎっていた。
「…魔術師になれば、俺の魔法ももっと上手く使えるのかな…楽しみだなぁ…!」
が、彼にはそんな不安より興奮の方が勝っており、寝ようにも興奮で寝れない状態が続いた。
「…グゥ」
続かなかった。
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「…荷物オッケー、服装オッケー、…後はコレ!ヨシ!準備万端!」
「ゲンー!そろそろ船が出るわよー!」
「うん!分かった!…行ってきます」
荷物を持ち、ゲンは我が家に別れを告げた。
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「ゲン!達者でな!ここの連中は皆お前の合格を祈ってるぜ!」
「がんばれよー!」
「生きて帰ってこいー!」
港では、ゲンの旅立ちを見送るため、町の多くのものが集まっていた。
「…ゲンこっち来て」
「ん?何母さ…ん!?」
ゲンは母であるリリスに呼ばれ、近づくと、ぎゅっと抱きしめられたのだった。夫と離れ、女手一つで大切な息子を16年間育ててきた彼女にとって、永遠かもしれないこの別れは、彼女にとって苦しいものかもしれない。しかし、ゲンの意志、魔術師になるという思いを尊重し、彼を見送るのだった。
「…元気で帰ってきてね」
「…うん!」
ゲンはリリスから離れ、船へと向かった。
「みんなー!元気でねー!俺、絶対魔術師になるからー!」
船は進み、都市へと進む。こうして、ゲン・セルフィオンの旅立ちが始まったのであった。
うん?母が34で息子が16…?妙だな…?