最終回 第三回欧州一オタク大会
前書き
この作品は現実世界の現代ドイツを舞台にした物語です。
作中に登場する法律は全て実在する現行のドイツ法です。
あの時集まった百人のオタクは、欧州オタク百人委員会として「欧州オタク連合」を発足させ、オタクと言論の自由を守る最強の圧力団体になった。俺は「欧州オタク連合名誉総裁」というたいそうな肩書を頂いたが、議決権も無ければ報酬もない名誉職だ。
あれから、欧州一オタク大会は三年おきに開催されることになり、第三回大会が終わった。俺が考えたルールが百人委員会の委員を決めるルールとして定着したのだ。俺は新しい百人委員会の交代式典に出席するためにドイツに向かっていた。
マリアはアンナと北欧に戻り翻訳者として活躍している、お父さんの無念を晴らすべく児童ポルノをめぐる訴訟で最高裁まで争い二次元は合法を勝ち取った。
マーサはヒルダから預かった遺産を使って作られた財団の理事長になってドイツ政府が救済しなかった見捨てられた人々を救うために活動している。中二病を卒業して大人になったアドルフも一緒に働いている、アドルフがお父さんと呼んだハンスのような人が二度と出ない為に。エヴァも「真実に目覚めた人」から「陰謀論から目覚めた人」になってアドルフと普通に暮らしている。
グレーテルことマルガレーテ・ケストリン・レンチュは連邦憲法擁護庁長官になっていた、ヘンゼルも連邦憲法擁護庁で働いているらしい。俺の専属メイドだった過去は存在しなかった黒歴史になった、どこかで会う事があっても初対面の他人だろう。
俺は空港のゲートを通って外へ出た、マスコミが待ち構えていると予想しているので、身なりはそれなりに整えている。ヒルダからもらった報酬に欧州オタク連合名誉総裁の肩書のおかげで講演とか著作でそれなりに収入があるのだ、もう無職無収入には脅えない。
ロビーに出た俺は面食らった。
「御主人様おかえりなさいませ、専属メイドのグレーテルがお迎えに上がりました」
俺は幻覚をみているのかと自分の正気を疑った。
グレーテルは「ご主人様、お車をご用意しております」と言って俺のスーツケースを奪うと腕をつかんで胸を押し付けるとグイグイひっぱった、今度の胸はなんか柔らかい。
周囲のマスコミは俺たちを激写している、そして集まったオタク達が「冥土送りのメイドだ!」「グレーテルちゃぁん、おっぱいミサィール!」「おっぱいマシンガン!」「暗殺メイド萌え!」と叫んでいた。
用意された痛車に乗せられた俺は「ご主人様、お久しぶりです、グレーテルは今日から専属メイドに復帰します、よろしくね萌え」と可愛い萌え声で言った。
俺は「いや、いや、ちょっとまってください、グレーじゃなかったフラウ・ケストリン・レンチュ」と本名を記憶の底から絞り出すと「また秘密捜査官に戻ったって事は何か大事件ですか?」と問いただした。
グレーテルは低い地声で「ググレカス」と言った。
俺は何か大事件が起きているのかとググった。出てきたニュースは「ケストリン・レンチュ長官辞任、ネオナチ総統暗殺者だった過去」とニュースの見出しを見つけた。
「どんな変装も見破る顔認証アプリ、フェィクフェイスの開発者が最新の顔認証技術で10年前のオタク事件でネオナチ総統を射殺した秘密捜査官と連邦憲法擁護庁長官が同一人物であることを突き止める」
「えっ、これって」
「はあい、グレーテルは無職無収入でぇす、御主人様、こんどはばっちり有料でグレーテルを雇ってくださいね」と萌え声で言った。
俺は狼狽しながら「ちょっ、どういうことですか」と訊ねた。
グレーテルは低い地声で「見ての通り身バレして辞職させられた、有名になり過ぎて再就職先もない、機密保持義務があるからマスコミに売りにも行けない、貴様が責任取って雇え」と威圧するように言ってきた。
そして、再び萌え声で「御主人様、こんどはソレナンテエロゲーなこともOKですよぉ、お嫁さんにしてくれてもいいんですぅ」と露骨に言ってきた。
俺は「ちょっと待ってください、えっと、その、フラウ・ケストリン・レンチュ、おいくつでしたっけ?」と歯切れ悪く訊ねた。
「設定年齢、永遠の18歳でぇす」と明るく萌え声で言った。
俺が「えっとその、秘書として月給三千ユーロでいかがでしょうか?」と言うと、低い地声で「五千ユーロ出せ、性行為は別途手当を要求する、ピルとゴムは雇用者負担だ」と言ってきた。
俺は圧に負けて月給五千ユーロで専属メイドを雇う事になった、手当てが必要な業務は怖くて頼めない。
俺たちの乗った痛車は会場に到着した、俺は影響力が強すぎて特定の作品をリツイートしただけでも票数に影響しそうなので結果が出るまで見ないことにしている。
式典の前に第三回大会の作品を見ておこうと思って初めて大会の公式HPを開いた。
今回の優勝者を見て驚いた。
優勝者:ヒルデガルド・フォン・レープ
作品:スットコドイチェラント
俺の前にヒルダが立っていた。
「どう、私は本物の世界一のオタクになったの」
俺は言葉に詰まった…
おわり
グレーテルが秘書としての雇用関係の中で秘書業務以外に手当を受け取って売春することは、事前に雇用契約で合意があれば売春法(Prostitutionsgesetz)で認められたドイツにおいては合法な行為です。