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スットコドイチェラント  作者: 亜留間次郎
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第八話 オタク事件


 私的仲裁裁判に出席するために2人のオタクがドイツへやってくることになった。サルバドールさんは飛行機ではなく陸路でスペインのバルセロナからドイツのミュンヘンへ来るそうで到着は3日後になる。ジャージー君はまだ高校生だが、留年しても構わない覚悟で学校を休んでくるそうだ。裁判所が任命した管財人に頼んでミヒャエルの自宅を開けてもらった。審査会はここで行われる。


 俺は一足先に到着するジャージー君を迎えに空港へ行った。俺の背後には世界中のマスコミがひしめいている、そりゃあまあ、18歳の高校生が一千億円の遺産相続を決める仲裁人になるんだから当然だと言えば…

俺はすっかりオタクの事だけで頭が一杯になっていて遺産の事がすっぽぬけていた…

俺の横には専属メイドの設定になっているグレーテルが付いてきている。


空港のロビーで待っていると、ジャージー君は自分で作ったオリジナル聖闘士(セイント)猫のコスプレをしたまま飛行機に乗って来たらしい、こっちのオタクって会場以外の公共の場でコスプレすることを気にしないんだよな。

そして、ジャージー君の両脇には日本の白ギャルと黒ギャルの女子高生みたいな恰好をした女性2人がついていた。ジャージー君は有名人になったことでモテモテになったそうだ。


「こんにちわ、グーテンモルゲン、ヘル・オタク」と日本語とドイツ語がまざった挨拶をしてきた。ギリシャ人なので言葉が通じるか不安があったのだが、挨拶以降はタブレット端末で自動翻訳を使ってテキストを送ってきた。

最初のテキストは「同伴の女性2人の年齢には触れないでください」だった、化粧が濃いけど、よくみるとかなり実年齢高そうな気がしてきた…


白ギャルの方が「チョベリグ、あたしナナです、日本語できます、通訳します」と言ってきた。


黒ギャルの方が「チョベリバ、あたしヴィッキーです、ドイツ語できます、通訳します」と言ってきた。


なんか無理して即席で作ったような違和感のあるギャルだった。俺のスマホを覗き見たグレーテルが耳打ちしてきた「あの2人はギリシア国家情報庁のエージェントです」

俺はグレーテルから事前に聞いていた。裏の世界ではネオナチに莫大な遺産が渡るかどうかの大問題になり、欧州全土の諜報機関が暗躍しているそうで、それぞれの国の諜報機関が仲裁人に選ばれた2人に護衛をつけているそうだ。

ジャージー君、その2人の黒ギャル白ギャルは終わったらいなくなるんだよ、そして音信不通になるんだよ、と教えてあげたいけど言えない秘密を心の中でつぶやいた。

まあ、俺の専属メイドのグレーテルも同じなんだけどね、俺たちオタクが女にモテるのはかりそめの夢なんだと自嘲している。


 遅れる事2日、サルバドールさんが予想外の大荷物を担いで到着した。その間、ジャージー君は2人の黒ギャル白ギャルとよろしくやっていたらしい。

サルバドールさんが陸路で来た理由は大型トレーラーに全長10mのマジンガーZを積んできたのだ。降ろすための大型クレーン車に高所作業車や資材と作業員を乗せたトラックまで同伴している。優勝したことを聞いた土建会社が無償で運搬から設置まで引き受けてくれたそうだ。「グレーテルが俺に耳打ちした、あの人たちは土建会社に偽装したスペイン国家憲兵(グアルディア・シビル)です」

サルバドールさんの隣にはアフロダイAのコスプレをした女性がいた、マジンガー祭で出会って結婚した奥さんだそうで、意外とリア充らしい…


俺はマーサとヒルダと一緒に2人を連れて高等地方裁判所へ向かった、ハンスとアドルフも手続きに必要なので同席した。民事訴訟法(ZPO)第1062条に基づいて2人は高等地方裁判所から正式に仲裁人(シーツリヒター)に任命された。

ハンスが2人に何か仕掛けるとすればここが最後のチャンスだと思ったが、マスコミに囲まれているので迂闊に手出しができなかったようだ。

そして、呼ばれていないのに他の98人のオタクたちも勝手に集まってきた、ここまで来たら最後まで見届けないと気が済まないらしい。


いよいよ、ヒルダとアドルフのどちらが真のオタクにふさわしいか決める審査会が開かれることになった。


場所はミヒャエルの自宅のオタクコレクションが並ぶフロアだった、ネット放送だけでなくZDFなどの公共放送でも放送される。

庭にはサルバドールさんが持ってきた全高10mのマジンガーZが建っている。


 ハンスは追い詰められていた、自分の手駒を仲裁人(シーツリヒター)にするのに失敗して、俺たちを洗脳するのも失敗した。

恐喝や買収も24時間体制で諜報機関が護衛しているので封じられている。そして、今、欧州全土の捜査機関が動いてネオナチを潰そうとしている。ハンスに残された道はアドルフの勝利か、最悪でも引き分けで財産の半分を取ってくるしかない。


俺、サルバドールさん、ジャージー君の三人が並んでいた。俺の後ろには専属メイドのグレーテルが、サルバドールさんの後ろにはアフロダイAのコスプレをした奥さん、ジャージー君の後ろには白ギャルのナナと黒ギャルのヴィッキーが通訳についていた。そして、ヘンゼルはZDFのカメラマンに変装していた。


審査が始まると、アドルフのオタクアピールはどこかぎこちなかった、衆人環視の前なので一番萌える綺麗なナチスを出せないからだ。

なんとか綺麗なナチスが登場する作品の話をしているが、知識で語ってるだけで愛が無い。

誰よりも愛で選ばれた2人の仲裁人(シーツリヒター)には逆に不快なだけだった。


ヒルダは鬼コーチへの愛と萌えを語った、熱い情熱を語った。

俺がヒルダに履修するように勧めた作品、それは現代では廃れたスポコン物だった。スポーツで汗を流し根性を鍛える、そして努力友情勝利の王道。

あえて現代ではなく1970年代に絞った。

そう、ミヒャエルのコレクションにあったブルマーを履いた女子高生の人形こそ勝利の鍵だった。そういえば、最初に俺に投げつけられた半裸人形もスポーツ少女だったっけ。

マリアが集めていたヒルダ用の服のコレクションの正体もやっとわかった、ミヒャエルのコレクションが着ている服だ!

俺は鬼コーチになってヒルダを鍛えた!!

ミヒャエルが残した最高のオタクコレクション、それはヒルダ本人だった。


萌えを出し切れないアドルフと萌えを会得したヒルダの差は圧倒的だった。


審査員は三人一致でヒルダの勝利を宣言した。


 外はハンスを拘束しようと警察が動いていた、どんな屁理屈でも逮捕してしまえば勝てる状況に追い込めたと確信しているのだ。

ハンスは警官が触れようとした直前に走り出してドアを破って押し入ってきた。そして「私は負けない、敗北は認めない」と叫んで服の下からスイッチを取り出した。

ハンスは「ハイル・ヒットラー」と叫んで爆弾のスイッチを押した。しかし、爆発しなかった、一瞬早くヘンゼルがカードを投げてコードを切断していたからだ。

次の瞬間、グレーテルがおっぱいから取り出した拳銃で全世界生放送の衆人環視の中でハンスの頭を撃ちぬいた、自爆テロを防ぐ大義名分があれば合法的に射殺できるからだ。


アドルフはお父さん(ファーター)と叫んでハンスに抱き付こうとしたがヘンゼルに取り押さえられた。エヴァは放心して動かなかった。

ハンスは取り返しがつかない重度の「謝ったら死んじゃう病」だった。死ななきゃ治らない病は死ぬことでしか救われなかった。


翌日の新聞には「8億ユーロの遺産を奪おうとしたネオ・ナチスの総統射殺される」「ドイツ秘密警察がネオナチ総統を公開処刑」と一面に載っていた。

グレーテルがハンスの頭を撃ちぬく瞬間がテレビで欧州全土に生放送されてしまったからだ。

ドイツ政府は公開処刑を正当化するためハンスをネオ・ナチスの総統(フューラー)としてヒットラーと同格の実体以上の大物に仕立て上げた。


この日の出来事はドイツの歴史に「オタク事件」として刻まれることになった。そしてナチスが本当に死者になった日として後の歴史に語り継がれることになる。ハンスは自分が望んだ通りヒットラーに続くナチスの二代目総統(フューラー)として歴史に名を残すことになった。


俺たちは勝利した、その勝利は望まない苦く、辛い、悲しい勝利だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何とか収まりはしましたが… 現場でドミネーターをリーサルモードで使うような民族に、死刑制度の可否を語って欲しくはないものです…
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