第六話 プールで水着で本音がポロリ
前書き
この作品は現実世界の現代ドイツを舞台にした物語です。
作中に登場する法律は全て実在する現行のドイツ法です。
マーサが深刻な顔でやってきた、ハンスから二次試験について話し合いをしたいと連絡があったそうだ、一次試験で策略が失敗したので二次試験の内容に干渉しようとしているに違いない。代理人だけでなく、関係者全員が集まった話し合いを求めていて、場所もハンスが指定している。
俺は不安になって「つまり、俺やヒルダを直接狙ってくるってことだよな」と聞いた。マーサは「そうでしょうね、2人の仲裁人を味方にして遺産を得る計画が狂ってしまったので対策を講じようとしているのでしょう」と不安そうに言った。「それって俺に味方にならなかったら言えないようなことするって脅迫してくる可能性が…」
俺が脅えているとグレーテルが「御主人様、大丈夫です、専属メイドのグレーテルがお守りいたします」と萌え声で言った。
俺は「グレーテル1人で全員を守れるのか?」と不安を訴えた。
「それならお任せください」とマーサの後ろにいた青年が声を出したのに驚いた、良く見るとマーサの後ろに影の薄い青年がいたのだが、影が薄すぎて声を出すまで存在を認識できなかった。
「わたくしフリッツ・ヘンゼルと申します」「今月からゴルトベルク法律事務所で弁護士補助職として基礎研修を受けさせていただいております」と名刺を出してボソボソと名乗った。「わたくしもフラウ・マーサの助手として同席させていただきます」と言った。
俺は失礼を承知で「いや、いや、逆に守らないといけない人が増えてダメでしょう」ときっぱりお断りした。
ヘンゼルは「御心配には及びません」と静かに言うと注視していなければわからないほどの小さな動作で名刺を投げた、
飛んでいっった名刺はダイニングテーブルの上にあった生け花を正確に切り落とした。
俺は投げられた名刺と花を拾った。
信じられないことに普通の紙で出来た名刺で金属とか剃刀ではないのに花は鋭利に切断され首が落ちるように落ちていた。
ヘンゼルは「大した技術ではありません、カードマジシャンの中には蝋燭ぐらい簡単に切断するプロもおります」と暗い静かな声で言った。
俺は驚いて「えっ、なんですか、ヘンゼルさんは法律事務所に勤める前はマジシャンだったんですか?」とすっとんきょうな声を上げた。
次の瞬間、ヒルダが「何すんのよボケー」と大声を上げ手元にあったコーヒーカップを投げた、自分が生けた花を切られてブチ切れたのだ。
中身の入ったコーヒーカップはヘンゼルめがけて飛んで行った、コーヒーがぶちまけらる事は確実と思った瞬間、ヘンゼルは平然とカップを受け止めると、宙に舞ったコーヒーをあざやかに回収してカップの中に戻すと、動いている気配がないのにスーと移動して投げる前に置いてあった位置に戻した。床には一滴もこぼれていない。
まるでCGのような現象を見た俺たちはポカーンとした顔で放心していた。
その時、グレーテルが「ヘンゼル、いい加減にして名乗りなさい」と低い地声で言った。
ヘンゼルは今までとは違う、はっきりとした通る声で「失礼いたしました、私はグレーテルと同じ連邦憲法擁護庁PMK捜査官でフラウ・マーサの助手という名目で護衛についております」と改めて名乗った。
俺たちは一斉に驚いた「捜査官がもう一人いたんだ!!!」
重くなった空気を読んだのかグレーテルが作った萌え声で「あたしたち、秘密捜査官ヘンゼルとグレーテルでぇーす、みんなよろしくね」と陽気に言った。
マーサが「あの、皆さん、ヘンゼルは先週から私と一緒にいましたけど気付いていませんでした?」と申し訳なさそうに言った。グレーテルは萌え声で「ヘンゼルはね自由に存在感を消せまーす」と明るく説明した。とりあえず、護衛は大丈夫そうらしい…
ハンスが指定した会場は冷戦時代に核シェルター兼用で作られた地下プールを改装した会員制のプールでプールパーティー形式で行われる。
ドレスコードは不要、水着は会場で用意されているそうだ。
漫画ならHなビキニが定番だろうけど、プールで貸し出してる水着なんて萌えも色気もない露出の少ない地味な水着と相場が決まっている。今はスクール水着も色気が排除されている時代だ、現実はスタイルが良くない人も、中高年も来るのだから当然なんだけど…
こちら側の出席者は俺、ヒルダ、マーサ、マリア、ヘンゼルとグレーテルの6人でアンナには留守番してもらっている。相手側にはハンス、アドルフ、エヴァの他に脱法ナチスの連中が何十人いるのか心配だった。
会場は貸切だそうで、監禁されるんじゃないかと不安になった。
グレーテルが「私の巨乳には発信器と盗聴器が仕込まれています、非常時は右の乳首をひねって引っ張ると待機している連邦警察GSG-9が突入します」と心強いことを教えてくれた。
ハンス達はすでに奥にいるそうで、受付で水着とタオルが入った袋を受け取るとそれぞれ更衣室に入った。俺はヘンゼルと一緒に着替えることにした。
あっちこっちに撮影禁止(Fotografieren verboten!)や録音禁止(Aufzeichnung verboten!)の看板がある。携帯や電子機器の持ち込みも一切禁止でロッカールームに置いてこないとダメらしい。
スマホをロッカーに入れようと見ると圏外になっていた、ここは核シェルター兼用の施設らしく電波が届かないのか?
俺は渡された水着を見て困った!なんか小さいビキニなんだけど、年齢相応に出た腹とたるんだ身体には恥ずかしいというか辛い。ヘンゼルは着やせするというより、着やせするように見せていたというべきなのか、バランスのとれた鍛えられた体にビキニが似合っていた。二次元ならここは女性陣が小さなビキニに恥ずかしがる所だろ、俺なんか誰得だよと思いながらロッカールームからプールに出た。
中は地下にしては広く、何種類かのプールがあり、テーブルや売店もあってちょっとしたレジャー施設になっていた。
まあ、予想通りハンス、エヴァ、アドルフの3人に脱法ナチスの皆さんが30人ぐらい。全員が俺と同じ小さなビキニを着てるんだけど、みんな良い身体してる、俺だけ恥ずかしくて、帰りたくなってきた。そうか、二次元で恥ずかしい水着を着せられたヒロインもこんな気持ちだったのかと知りたくない感情を知ってしまい余計に落ち込んだ。
男よりも着替えに時間がかかる女性陣も出てきた、俺は目を見張った。
女性陣もビキニが小さい!!!
ヒルダは恥ずかしがったら負けと言わんばかりに堂々としている。
マリアは小さなタオルで体の前を隠そうとして小さくなっていた。
マーサは自分の姿を意識から外して必死になって無表情を装っている。
ヒルダはかなりいい、堂々としているので姿勢が良いから余計によく見える。
うん、マリアって、なんというか普通、オタク基準で貧乳とか寸胴と言っちゃダメな普通。
マーサはウエストがちょっと微妙だけど意外と巨乳なのがちょっと嬉しかった。
そして、グレーテルは「はあい、ご主人様、おまたせしましたぁ、おっぱいプルーン」と叫んで俺に抱き着いてきた。
そして、耳元で「演技だからな、おかしなことをしたら後で殺す」とドスの効いた声で囁いた。
俺はグレーテルの乳に目をやった、別にエッチな目的ではなく、武器とか盗聴器とか発信器を仕込んだ偽乳がバレないか心配だったからだ、断じてエッチな目的は無い。
小さいビキニからKカップの巨乳がこぼれそうになっていた、人工皮膚がかなりよくできるので触らない限り偽乳だとわからないだろう。
俺は抱き着かれて理性がぐらついた、グレーテル超スタイルいい、俺は偽物の演技でも世界中のオタクがうらやむ巨乳美少女専属メイドに舞い上がってしまった。
グレーテルは俺を引っ張ってハンス達の前に行くと「はあぃ、あたしヘル・オタク専属メイドのグレーテルでーす、よろしくね」と萌え声で元気よく自己紹介した。
そして「あれぇ、ハンス先生やアドルフ君には専属メイドはいないのかなあ?」「メイドさん同士お友達になりたかったのにぃ」と挑発するようなことを言った。
アドルフはエヴァに「お母さん僕も専属の巨乳メイド欲しい」と甘えて抱きついてた。良く見るとエヴァもビキニなんだけど、ボディビルダーのように鍛えられていて体脂肪率が低そうな体をしていた、当然乳は無い。
ハンスは「今日は話し合いというより懇親会みたいな物だよ、ほら、日本だと裸の付き合いとか言うだろ」と明るい誠実そうな作り笑顔で言った。
グレーテルはハンスの仲間たちに片っ端から声をかけていた、情報収集なんだろうな。
ふと、グレーテルの様子がおかしかった、なんか恥ずかしそうに胸をおさえて戻ってきた、そして「マリアちゃんゴメン、おっぱい恥ずかしいからタオル貸してぇ」と言ってマリアのタオルを取り上げた。
さっきまで平気でおっぱいプルーンしてたのに急に恥ずかしがって胸をタオルで押さえて隠している。
唯一の身を隠す盾を奪われたマリアは恥ずかしくて死にそうな顔で両手で体の前をおさえていた。
グレーテルはヘンゼルになにか小さく耳打ちしていた。
仲間がハンスに合図をすると、がらりと表情を変えて話し出した。
「良く来てくれた諸君、ここは何の記録も残らない真の言論の自由が保障された空間だ、ポリコレに脅えることなく存分に本音で話し合おう」
俺は嫌な予感がした、ヘンゼルとグレーテルも身構えている。
ハンスは大仰な政治家の演説みたいに喋り出した。
「本音で用件を言おう、私は偉大なナチス・ドイツ再興の為に働いている」
「決してミヒャエル氏が残したヒルダ君の財産を取り上げるつもりはない、同じ第三帝国の末裔として協力してほしいだけだ」
俺は「うわぁぁぁぁ、本音をぶっちゃけたよ、ドイツだと完璧にアウトで違法な本音をぶっちゃけたよコイツ」と驚愕して震えた。
マーサは大声で「ハンス、とうとう本音を出しましたね、貴方は終わりです、逮捕されます」と怒鳴った。
ハンスは余裕で「はっ、はっ、逮捕?どこにそんな証拠がある?」と笑いながら言い切った。
マーサは「私たちがあなたの本音を聞きました」と言い返した。
ハンスは余裕で「ほう、証言なら後ろにいる30人の紳士淑女も証言するぞ、客観的な証拠や記録があるのかな?」と言い放った。
マーサは「証拠なら」と言ってグレーテルの方を見た、グレーテルは首を振った。
ハンスは余裕で「ここは撮影も録音も禁止だよ、もちろん違法な盗聴電波も外には漏れない」とマウントを取るように言ってきた。
さらに付け加えて「ああ、それとこの中は健康の為に磁気健康法の設備があって強い磁場があるから電子機器が持ち込み禁止なのは壊れてしまうからだ、リチウム電池とか破裂するから注意したまえ」と言った。
外に出るドアが施錠される音がした、俺たちは閉じ込められた。
「さっきも言っただろう、ここは何の記録も残らない真の言論の自由が保障された空間だと」「決して私たちは暴力をふるったりしない、本音で話し合いがしたいだけなんだ」
マーサは「ふざけないで、ナチスがどれだけの人間を殺してきたと思ってるの」と怒りをあらわにしていた。
「我々はユダヤ人を絶滅させようなんて思っていない、その証拠にフラウ・ゴルトベルク、君の先祖はマイン・フューラーから名誉アーリア人と認められた高貴なユダヤ人だろう、君が今生きていることが証拠だよ」
俺は意味が解らず「高貴なユダヤ人ってなんだ?」と叫んでしまった。
ハンスは演説するように「マイン・フューラーから東方アーリア人と認められた高貴なアジア人の末裔よ、説明しよう」と大仰な喋り方をした。
「我々は愚かな人間を処分し、優れた人間が指導する世界を作りたいだけだ」
「ユダヤ人であっても優れた人間は重用する」
「ナチス高官だったミヒャエル氏の曽祖父が財産管理を任せていたほどの有能なユダヤ人をガス室に送ったり強制労働をさせたりしない、アーリア人と同じ生活を保障していた」
「奴らはユダヤ人だからガス室に送られたのではない、無能な愚か者だから処分されただけだ」
「ゴルトベルク家には本当に感謝している、ミヒャエル氏の曽祖父が当時のドイツ法に基づきマイン・フューラーから授かった正当な財産を今日まで守り続けてくれたんだからね」
「フラウ・ゴルトベルク、君はナチス・ドイツ再興のために必要な高貴なユダヤ人だよ」
マーサは怒りに震え、涙がこぼれていた。
「ふざけないでぇ」ヒルダが叫んだ。
「私もお父さんも生まれた時にはナチスなんて無かった、いつまで亡霊にしがみついているつもりなの」
「フロイライン・ヒルデガルド、過去の亡霊と呼ぶなら私も君も生者ではないことになる」「私たち第三帝国の末裔は今も生きている、そしてミヒャエル氏や君が金に不自由しない生活を送っているのも第三帝国のおかげだ」「本当に第三帝国が死んだ亡霊なら君は貧困家庭に生まれていたはずだ」
「私の曽祖父はナチス親衛隊だった、誰よりも誇り高く祖国の為に戦ったのに、ドイツ人は全ての責任をナチスにおしつけて自分達を被害者に仕立て、全ての負債を無かったことにした」
「名誉の負傷を負った曽祖父に国はなんの補償もしなかった、祖父は幼いころから曽祖父を養うために貧しいドイツで必死で働いた」
「祖父と父は同じ境遇の仲間と助け合い苦労してやっと人並みの生活を取り戻した」
「それなのに、祖父がヒトラーユーゲントで曽祖父がナチス親衛隊だとバレたら差別され解雇された」
「戦争が終わった時、祖父は12歳の少年で、私の両親が生まれた時にナチスは存在していないはずだったのにだ!」
「そんな両親は自分の食費を切り詰めてまで私を学校に通わせてくれた」
「それでもナチスは死んだ過去の亡霊だと言えるのか」
「私も君たちもずっとナチスの血をひいていたことを隠して生きてきた人間だ」
「ナチスはまだ死んでいない、だからこそドイツ政府は殺そうとしている」
「本当にナチスが死んでいるならナチスを法で取り締まる必要などないはずだ」
「死者を裁く法など存在しないはずだ」
「ナチス・ドイツは今もここに生きている」
「フロイライン・ヒルデガルド、マーサ・ゴルトベルク、君たちも同じナチスの血を引く家族だ、共にナチス・ドイツを再興しよう」
「私たちは同じ血を引く家族だ!」
ハンスの演説が終わるとエヴァが「そうよ、ヒルダちゃん、お母さんは世界の真実に目覚めたの、お父さんの遺産は姉弟で半分づつ分けて家族で一緒に暮らしましょう」と畳みかけてきた。
アドルフも「お姉ちゃん、僕たち家族なんだから仲良くしよう」と援護射撃をしてきた。
後ろを振り返ると、グレーテルが胸から拳銃を取り出してこの場でハンスを射殺しようか迷っていた。
ヘンゼルも隙あらばハンスを殺そうと構えているが、ハンスのとりまきが牽制している。
マーサはハンスの演説にやられて固まっていた。
マリアは泣きだして座り込んでいる。
俺はハンスの言いなりになって必要な書類にサインだけして一生遊んで暮らせる報酬をもらったら逃げ出せば…
最悪の考えが頭をよぎった。
その時、ヒルダが絶叫した。
「キモオタ死ねえ~!!!」