遺言執行者
この作品は現実世界の現代ドイツを舞台にした物語です。
作中に登場する法律は全て実在する現行のドイツ法です。
漫画のドイツに憧れて中二病をこじらせた俺は高校でドイツに短期留学して大学でドイツ語を専攻した。
最近は日本の漫画やアニメが欧州でも流行ってるっていうけど、実際に現地に行ってみるとニッチな趣味でクラスに数人いる程度だった。さすがにドイツ人がみんな漫画を読んでいるとか、オタクの願望が入り過ぎた誇張だったけど。
それでも俺は趣味の合う濃いオタクの親友と出会った。
ドイツのオタク、ミヒャエルとは20年来の親友だ!
俺もミヒャエルもいい年の中年になったある日、死んだら家族にオタクコレクションを捨てられてしまうんじゃないかと心配で相談を持ちかけられた。
俺たちはお互いに死んだら相手のコレクションを守る約束を交わした。
ミヒャエルは役所に届けを出しておくと言うので書類にサインしてやった。
それから1年後、アイツは末期ガンで逝っちまった、相談された時、あいつが癌の診断を受けていた事に俺は気付いてやれなかった。
弁護士からミヒャエルの訃報を知らされた俺はヤツのオタクコレクションを守る約束を果たすためドイツへ旅立った。まさか、あんなことになるとは思いもよらずに。
ミュンヘン空港に降り立った俺はゲートを出ると日本語のプラカードを持った女性が目についた。
そこには「オタク様」と書かれていた。
もしかして、アレが俺を迎えに来たのかと1分ぐらい悩んだけど、どうみても俺しか該当人物が居なそうなので、ドイツ語で話しかけてみた。
20代半ばぐらいのスーツ姿の女性は「オタク様ですね、私はミヒャエル様の顧問弁護士のマーサ・ゴルトベルクと申します」と名乗った。彼女が訃報をくれたらしい。
「あの、俺の名前は織田 久、オタ ヒサシです」
「久ですか?クではなく?」
「クはカタカナで久は漢字です」
「すみません、私はカタカナは読めるのですが、漢字は理解できなくて」
「俺、ドイツ語の会話も読み書きも出来ますから、無理に日本語を使わないでください」
「すみません、ヘル・オタク」
「いや、だから、久をクと読まないでください」
「ですが、書類にOTAKUと書かれているので、久をクと読まないと手続き上問題がありまして」
「それに、漢字辞典には音読みでクと読めると書かれていました」
「あんた、本当は日本語得意だろ、わざとやってるだろ」
「ミヒャエル様がいつもオタクと呼んでいらしたものですから、それが正しい日本語だと思いまして」
「あいつのせいかよ、もうオタクでいいよ、好きに呼んでくれ」
こうして、俺は諦めてヘル・オタクとしてドイツに降り立った。
弁護士が運転する車に乗ってミヒャエルの自宅に行くことになった、確かアイツの自宅って郊外の広い家だったよな。
「ところでフラウ・ゴルトベルク」
「マーサと呼んでください」
「マーサさん、俺はミヒャエルの遺産になってしまったコレクションを守るために来たんですけど、どれぐらいあるんですか?」
「莫大な遺産があります、ご自宅までの通りにもいくつかあるのでご案内いたします」
「ミュンヘンの道路沿いにアニメキャラの銅像でも建ってるんですか?」
「あちらの12階建てのビルがミヒャエル様の所有物件の一つです」
「はぃ?」
「向こう岸に見える自動車会社の本社ビルの敷地もミヒャエル様の所有物件です」
「えっ?」
「ちょっとまってください」
「アイツの遺産って…」
「ミヒャエル様はこのあたり一帯の大地主です」
「いや、いや、違います、俺はオタクコレクション、あいつが集めていた漫画本とかアニメグッズなんかに用があるだけです」
「土地とかビルは関係ありません」
「ですが、あなたはミヒャエル様の遺言執行者として役所に届けが出されています」
「そして、私が送った遺言検認裁判所からの依頼を受託する書類にサインして返送いただいたので、裁判所に提出して、まもなく証書が発行されます」
「貴方にはドイツ民法典第2203条に従いミヒャエル様の遺言を執行する義務があります」
「ちょっと待ってください、俺はドイツの法律とか詳しくないんですけど、どういうことですか?」
「貴方にはミヒャエル様の娘であるヒルデガルドお嬢様が相続される8億ユーロを超える遺産相続手続きを行う法的義務があります」
俺はスマホを出すと「8億ユーロ 日本円」でググッた。
グーグルは108,045,440,000円を表示した。
桁が大きすぎて理解できないので順番に数えてみた。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん、おく、じゅうおく、ひゃくおく、いっせんおく…
「いっ、一千億円!!!」
アイツ、金持ちだって知ってたけど、予想を超えていた…
非現実的な金額に俺が放心しているうちに車はミヒャエルの自宅に到着していた。
家の門の前に立った俺は来てしまったことを少し後悔しながら悩んでいた、相変わらずデッカイ家だな、ヒルダちゃんかあ、俺の事キモオタだって嫌ってたよな、アイツが生きていたころは会話らしいこと無かったけど、なんて話したらいいんだ。
俺はマーサに案内されてミヒャエルの家に入った。
玄関から入ったホールはオタクコレクションが並べられた棚で壁一面が埋め尽くされていた、
何度か来たことがある部屋だけど壮絶な眺めだった。
そして、俺が守ると約束をした物はこの部屋いっぱいのつもりだった。
ホールにはヒルデガルド、アイツがヒルダと呼んでいた娘と中年と十代後半ぐらいの北欧系の二人のメイドが俺を出迎えた。
俺がなんて挨拶を切り出したらいいのか困って言葉が出ないでいると、ヒルダは壁一面にならんでいたコレクションの中からシャッツが巨乳の上にはだけ、スパッツがずりおろされたショートカットの30cmぐらいの半裸人形をつかむと、「キモオタしねえ」と叫んで俺の顔面めがけて投げつけた。
俺の顔面に半裸人形の現実にはありえない巨乳が激突して人形は胴体が折れて床に落下した。
俺は顔面をおさえながら「まって、ヒルダちゃんおちついて」と必死でなだめて、若い方のメイドがヒルダの腕をつかんで次の裸体人形を投げようとするのを止めていた。
その時、玄関のドアが勢いよく開いてヤバイ服装の3人組が入ってきた、窓の外を見ると、いつのまにか庭に数十人の同じ服装の連中が規則正しく整列していた。
入ってきたのは夫婦親子みたいな感じに見える金髪白人のマッチョな大男と中年女性に中学二年ぐらいの少年でドイツだと違法そうな第二次世界大戦ごろのサイボーグ軍人のコスプレをしていた。
入って来た瞬間、少年は右手を高く上げ「ナチィ…」と言いかけたところで大男が少年の口をふさいで「アドルフ、そこは”ドイツの科学力は”だ、手の角度はこう」と指導していた。
少年はうなづくと姿勢を正して「ドイツの科学力はァァァァァァァアアア 世界一ィィィィーーーーッ!」と腕をまっすぐ伸ばさずに変なところでひじを曲げた姿勢で叫んだ。
彼らを見たマーサが怒りを込めた強い言葉で言い放った。
「フラウ・エヴァ、貴女達に遺産の相続権が無い事は法廷で確認されています、ここに入る権利はありません」
大男は「フラウ・ゴルトベルク、アドルフ君はミヒャエル氏の正当な遺産相続人だ、私はその代理人だよ」と言って中二病が痛そうなコスプレをした少年を指した。
マーサは怒りに震えながら「ハンス、貴方はまだ弁護士資格を剥奪されなかったんですか」と怒鳴り返した。
ハンスと呼ばれた大男は「は、は、は、私は何一つ違法な事をしたことが無いから当然だよ」と涼しい顔で言い切った。
マーサは「その子がミヒャエル様の法的な子供ではない事は法廷で確認されています、相続権は認められません」と強い口調で断言した。
エヴァと呼ばれた中年女性が「ヒルダちゃん、お母さんよ愛してるわ」と棒読みたいに話しかけると、ヒルダは真っ赤になって「あんたなんか違うと」怒り狂っていた。
少年が「お姉ちゃん、愛してるよ」と呼びかけると「うるさい、黙れ、消えろ」と怒鳴り返して、ヒルダは泣き出してしまい、中年のメイドが抱きしめて慰めている。
この女性と少年は誰なんだ?
娘が1人しかしかいないって聞いてたし、そういえばミヒャエルの奥さんって全く話題になったことが無いけど、この人がそうなのか?
ヒルダが泣き出して俺が混乱していると、メイドが警察に通報していた。
日本ならともかく、こいつらの恰好はどこから見てもドイツなら100%逮捕だ、警察が到着するまで時間稼ぎさえすればと思っていたら、庭に整列している連中が謎の大合唱を初めた。
「入る 人裸ー」
「入る 人裸ー」
「入る 人裸ー」
「入る ひっと裸ー」
「そこ、発音が悪い、ちゃんと日本語でひとらーと発音しろ」と列の先頭の男が怒鳴っていた。
「入る 人裸ー」
「入る 人裸ー」
「入る 人裸ー」
発狂しそうな大合唱を警察が到着するまで延々と聞かされることになったが、その間、他の手出しをされなかったのは幸いだった。
到着した警察官がこいつらを囲んでいる、しかし、警察が来るのも予定通りと言わんばかりの余裕の態度だ。
ハンスが「コレを見ろ」と言って警察官の前に日本の登記簿謄本とドイツ語翻訳文を出した。
「我らは宗教法人 那智洲の信徒、断じて政治団体ではない」
「日本にある那智洲寺を菩提寺とする宗教団体である」
いつも余計なツッコミを入れてウザがられていた俺の性分が言ったら負けだと分かっていても言わずにいられなかった。
「そのマーク違法だろ!」
ハンスは胸を張って「これはマンジだ、決して裏返してはいけないマンジだ、日本の宗教シンボルだから合法」と言い切った。
「さっきの大合唱はなんだよ、完全にアウトだろう!」
その程度の質問は予想して準備していたハンスは日本語で「入る 人裸」と書かれた漢字の上に「はいる ひとら」と振り仮名を振られた板を取り出すと「念仏と呼ばれる仏教の宗教儀式だから合法」と言い切った。
俺があきれ返っているとマーサが「アレは脱法ナチスと呼ばれる違法ギリギリの脱法行為なんです」と耳打ちしてきた。
そして、ハンスは「我らは同盟国日本で同じ仏教を信仰する同志を歓迎するための念仏を唱えに集まっただけだ」と警官に言い切った。
逮捕できないギリギリのラインを攻められて取り囲んだ警察が立ち往生していると、頭のおかしい連中はそれ以上は何もせずに去って行った。
胸をなでおろすと、なぜか警察官が俺の両脇にいて、俺に手錠をかけていた。
必死になって「ちょっと、お巡りさん、俺は関係ない、アイツらを逮捕してください」と叫んだものの、
ハンスの一言で俺が問題の中心人物だと警察に思われたらしく、容赦なく連行されてしまった。
俺は警察に取り調べされることになり、釈放してもらえるまで何日もお泊りさせられることになった。
ようするに、アイツらが出たと言われて出動して何の成果も無しでは帰れなかった警察が俺を逮捕して帳尻合わせをしようとしたらしい。
日本人だってだけでアイツらの仲間扱いされるのは酷いと思ったけど、同盟国だったとか、ビルの爆破とか、イスラエルの空港とか、地下鉄でとか、日本人のヤラカシ犯罪歴を挙げられて、俺も同じだと言わんばかりの圧迫面接に疲れ果てたころ弁護士のマーサのおかげで無事に釈放された。
ヒルダは部屋に引きこもって、2人のメイドが世話をしているらしい。
ドイツに到着した初日に不当逮捕で留置場に泊まるハメになり、やっと落ち着きを取り戻した俺はマーサに説明を求めた。
「まず、あいつらは何なんですか?」俺の怒りのこもった質問にマーサは冷静に
「エヴァはミヒャエル様の元配偶者でヒルデガルド様の生物学上の母親です」
「そして、アドルフはミヒャエル様の生物学上の息子で、ヒルデガルド様の生物学上の弟です」
俺が「いちいち生物学上のって付くのは何でですか?」と疑問をぶつけると
「法的には妻でも息子でもありません、ですからあの2人には遺産の相続権はありません」と良くわからない答えが帰って来て俺は理解出来なくて
「すみません、俺は日本人なんで弁護士さんが仰る生物学上の親子と法的な親子のドイツ語の違いがわかりません」と聞き返した。
「マーサさんは逮捕されそうで逮捕されない連中のボスと知り合いみたいでしたけど、どんな関係なんですか?」とさらに踏み込んでみた。
マーサは困ったらしく、しばらく黙って考え込んでから口を開いた。
「ミヒャエル様の奥様はヒルデガルド様が産まれてから、不適切な政治活動に傾倒するようになり逮捕されました」
「そして、有罪になって1年間刑務所に入ることになりまして」と歯切れ悪く説明を続けると、
「その、不適切な政治活動が問題になって離婚だけでなく相続権から親権まで全て剥奪されたので生物学上は親子でも法的には他人です」
「それからミヒャエル様は三次元の女なんてと仰るようになられて…」
俺は頭を抱えた、ミヒャエルにそんな辛い過去があったなんて…
ここで、時系列矛盾に気が付いた俺は余計なツッコミを入れないと気が済まないダメな本領を発揮してしまった。
「そうすると、アドルフは何時どうやって産まれたんですか?」
マーサが「あの子はミヒャエル様の法的な息子ではありません」と答えたので俺は「じゃあ生物学的には息子なんですね」と聞き返してしまった。
マーサは答えたくない秘密をえぐられたような苦悶の表情で黙っていた。
しばらくして、マーサは隠しておけないと観念したのか、話し始めた。
「エヴァは刑務所から出てくると復縁しようと迫ってきたのですが、ミヒャエル様は拒絶しました」
「そこで、あの女はミヒャエル様に薬を盛って意識不明なところを狙ってレイプして妊娠しました」
「はい?」
「レイプ中をメイドのアンナが気づいてエヴァはふたたび逮捕されたのですが」
「あの女は2回目の服役中に刑務所の中で子供を産みました、それがアドルフです」
「えぇぇっ、逆レイプとかソレナンテエロゲーだよ!」
「あの女はそこまでしてミヒャエル様の財産が欲しかったんです」
「逆レイプを理由にアドルフの法的親子関係の不在を証明したのであの子には相続権はありません」
「しかし、どんな違法も合法にすりかえると悪名高い弁護士のハンスがアドルフを利用して遺産を狙っています」
「貴方が家に入った直後に押しかけてきたのは計画的な行動でしょう」
「勘弁してくれ、俺はそんなヤバイ連中と関わりたくない、日本に帰らせてもらう」と叫んだ。
マーサは決意に満ちた目で「残念ですが、帰すわけにはいきません」と言い切ると
「指名されている遺言執行者はヘル・オタク1人だけです」
「これが遺言検認裁判所が貴方を遺言執行者に任命した任命証明書と遺産の執行証明書です」と言って書類を出した。
「すでに裁判所から証書が発行されているので貴方には全ての遺産相続手続きを行う法的義務があります」と脅迫めいた声をあげた。
そして「法的義務がある以上、義務を果たさずに逃げた場合はミヒャエル様の遺産総額の1%を賠償金として請求します」と言い放った。
俺が嫌な感じに押されて「1%って…」と聞くと
マーサは「日本円換算で10億円です」と断言した。
「嫌だー、助けてくれー」俺は絶叫した。
そこでマーサが強く押してくるかと身構えたら、意外にも柔らかい態度で飴を出してきた。
「遺言執行者は民法典第2221条に従って遺言執行者の報酬のためのドイツ公証人協会の勧告に基づいて遺産の一部を報酬として受け取る権利があります」
「全ての義務を終えたら遺産の1%があなたの取り分になります」
こうして、俺は10億円の賠償金を取られるか、10億円の報酬を貰えるかの二択を迫られて引き受けることになってしまった。
俺はあまりの出来事に疲れ果て、その日はミヒャエルの家の客間で倒れるように眠りについた。
翌日、中年のメイドに起こされるとヒルダはすでに学校に行っていた。
昨日まで引きこもっていたと聞いていたのだが、何か心情の変化があったのだろうか?
朝食を食べ終わると弁護士のマーサがミヒャエルが使っていた書斎で待っていた。
「えーっと、すいません、俺は法律とか素人なんで分かりやすく説明していただけませんか」と切り出した。
「遺産相続の手続きとか日本だと弁護士とかじゃないとダメだと思うんですけど、俺は弁護士の資格持ってませんよ」と訊ねると
マーサは事務的に「遺言執行者は法務サービス法第5条2項1によって許可されている法律行為なので資格要件はありません」と答えた。
俺が「そんな誰でもOKみたいなのが普通なんですか?」と素朴な疑問を口にすると
マーサは「ドイツの社会習慣では小規模な個人の遺産相続は地元の友人に遺言執行を依頼することが普通にあります」と答えた。
「資産家の場合は預金を預かっている銀行などの職員が行う場合や、不動産管理を委託されている代理人が行う事が多いです」
「オタクコレクションの遺産相続は美術品などの専門家にお願いするパターンの一種と言えます」
「だったら俺が扱うのはヤツのオタクコレクションだけでいいじゃないですか」と言ったらマーサは
「貴方1人しかいないので全てやって頂きます」とワンオペ労働を宣告した。
俺は困って「そんなこと言われたって、ドイツで相続税の納付手続きとか不動産の登記とか何も分かりません」
「やり方が分からないからできません」と言ったら。
マーサは「法的な書類は私が処理します」と言い切った。
俺はもう帰りたくて「だったら、俺なんか不要じゃないですか」と言ったら。
「貴方が遺言執行者として行う職務は相続人の資格認定です」
「資格認定?ヒルダちゃんは実の娘なんだから相続するのに資格もなにもないでしょう」
と俺の疑問にマーサは
「ミヒャエル様の遺言書に問題があります」と困った顔で遺言書を出してきた。
1.私のオタクコレクションを継承するのに相応しい血縁者のオタクに全財産を相続させる。
2.相続人の資格認定は遺言執行者に指名したオタクが行う。
「だぁぁぁぁ、あいつ、やらかしやがったぁ!!!」
「つまり、貴方が審査員になって遺産を相続するのに相応しい人物であることを認定する儀式が必要なんです」
「はい、わかりました、俺がヒルダちゃんが相続人に相応しいって書類にサインすれば一瞬で終わりでしょう」
「そのはずだったのですが、面倒なことになりまして…」
「ヒルダお嬢様がヘル・オタクにコレクションの半裸人形を”キモオタしね”と叫んで投げつけたじゃないですか」
「その瞬間を那智洲の連中が動画撮影して裁判所に訴えたんです」
「相続手続きの前に遺産を破壊して遺言執行者への殺害宣言と加害行為は相続人資格の喪失用件を満たしていると」
俺は「なにその屁理屈」と頭を抱えた。
「連中はヒルダお嬢様の資格不備を作り出して相続資格認定会の開催を要求しています」
「今になって思えば、押しかけてきたのはヘル・オタクが書類にサインするのを妨害するのが目的だったのでしょう」
「貴方が理不尽に逮捕され拘束されたのも奴らが時間稼ぎのために警察に仕込んでいた可能性があります」
俺は机にっぷした「滅茶苦茶じゃないですか、そんな連中をどうしろと」
「だいたい、認定会って何をどう審査して、何を認定するんですか?」
「ミヒャエル様の血縁者全員が集まって誰が一番のオタクなのか競う大会を開催しろということです」
「そんなの俺がヒルダちゃんが優勝って言えば終わりでしょう」
「ここで遺言書の重大な不備が問題になりました」
「遺言書にはOTAHISASIではなくOTAKUが行うと書かれています」
「連中はこのスペルミスを上げ足とって織田久個人ではなくオタクによる審査委員会で審査すべきだと主張したのです」
「あああぁぁ、最初に会った時に久をクと読まないと手続き上問題がって言ってたのそういう事だったんですか!」
「そんな屁理屈が通るわけがないと甘く見ていたのですが、どんな違法行為も合法にすり替える弁護士のハンスが通してしまいました」
「審査委員に連中の息のかかった人間が入り込むことは当然なので、こちらも対抗して味方になってくれる審査委員を集めます」
こうして、俺が審査委員長を務めるドイツで一番のオタクを決める大会が開催されることになった。
優勝賞品は一千億円を超えるミヒャエルの遺産である…
そして、俺には大会を始めるために大会準備委員会の委員集めと、ヒルダちゃんをドイツで一番のオタクに育てる、気の遠くなる地獄が待っていた。