会いたくなかった2人。
ロイさまと一緒に王城に赴き、通された部屋には3人の男女が待っていた。一人は猫耳しっぽの青年。白い髪にアメジスト色の瞳の美青年。この国の王族は猫耳しっぽが多いと聞くから、彼は王族なのだろうか。
そして会いたくない人物が、2人もいたのだ。1人かと思えば、2人いた。ぐえぇ。
「ビアンカ!貴様私に無断で国を出奔するとはどういうつもりだ!」
そう告げたのは、先日私に婚約破棄を告げたルース第1王子殿下。人族の国のバカ王子である。
「お姉さまったらひどぉいっ!妹の私に何も言わずに国を出ていっちゃうなんて!私、お兄さまに公爵家を追い出されちゃったの!酷いと思わない!?でもルースはそれでも私を愛すると言ってくれたの!」
「あぁ、アンナ」
「ルースゥッ♡」
何の茶番?これ。
その場にはバカ王子だけではなく義妹のアンナもいたのだ。因みにロバート兄さまは元より私の出奔後、公爵位を継いだ時点でアンナを公爵家から除籍し追放する予定だったのだ。
どうやら公爵位は無事に継げたらしい。そして意気揚々とアンナを公爵家から追いだしたのだ。そりゃぁそうよね。今まで手に掛けた男は私とロバート兄さまが知っている以上に数え切れないほどいるだろうし、股だってタコ以上に発達しているビッチ義妹なのだ。
追放など、目に見えていたのだ。
バカ王子は私と婚約破棄をしたらアンナと婚約する気だったのだろうが、国王陛下が公爵家から追放されたビッチなんて認めるはずがない。
「だから!私がアンナと結婚するため、お前が私と結婚するのだ!」
「一体どうやったらそんな考えに至るのですか」
「その、父上に言われたのだ。アンナを妃として認めるわけにはいかないと。王子妃教育を終えたビアンカのような令嬢じゃないと、ダメだって。だから、お前と結婚して、私はアンナを愛妾として迎える」
脳みそ詰まってんのか、お前。ちょっと何を言っているのかわからないのだけど。
「さぁ、一緒に国に帰るぞ、ビアンカ!」
そう言うとズカズカとバカ王子が私の方へ歩いてくる。しかし、ロイさまの逞しい背中が、私を守ってくれた。
「何だ!貴様は!」
「俺は、ビアンカの夫だ。俺の妻に何をする」
「はぁっ!?どこの馬の骨ともわからん獣人が何を言う!ビアンカは私の妻になるのだ!とっととビアンカを寄越せ!」
「あ゛ぁ゛?」
「ひっ」
ロイさまの本気の威圧に、思わずバカ王子が怯む。
「いやぁっ!ルース!あの獣人恐いわぁっ!」
「あぁ、かわいそうにアンナアアアアァァァァァッッ!」
バカ王子ルースは一目散に後退し、アンナに抱き着いた。
だから何の茶番だよ、お前ら。
「あの、よろしいでしょうか」
その時、猫耳しっぽの青年が声を上げる。
「クルト王太子殿下だ」
と、ロイさまが教えてくださる。えっ、王太子殿下ぁっ!?
「突如隣国の第1王子殿下が来られるので、父上から世話人かつ見張りを頼まれたのですが。ルース殿下は、我が国に知らせもなく突然乗り込んで来られたにも関わらず、我が国の法律もご存じないと?」
「は、はぁ?それくらいは知っている!」
「では、知っていて、なされたと」
「当然だ!ビアンカは私と結婚するのだ!ビアンカは私が連れ帰る!」
「ほう?我が国では伴侶をとても大事にします。ですから、他者の伴侶を無理矢理奪おうとする者にはそれ相応の罰が下ります。先ほどロイが言った通り、彼女は彼の正式な妻で、我が国の国民です。ですから、あなた方がたった今告げたことは我が国ではタブーなのですよ」
「な、なんだそれは!?正式な妻!?私はそんな物認めない!それに罰なんて知らん!獣人族の国の法律なんぞ知らんぞ!」
「先ほどご存じと仰いましたよね。それに、ロイは我が国のアロニア公爵令息。アロニア公爵時夫人は王妹ーーつまりは私の叔母上です」
えええぇぇぇっっ!?お義母さまって王妹だったの!?
「因みにあのきつね耳しっぽは母親似、父上が先王の父親似の猫耳しっぽだね」
おぉっ!わかりやすい解説ありがとう王太子殿下!てか、従兄弟だったんだこのふたり!
「つまり、ウチの王家はどの馬の骨ともわからん血筋だと、あなたは仰った」
王太子殿下が告げた途端、その場の空気が凍り付いた。
「そ、それは、しら、知らなくてっ」
「ロイが私の従兄弟であることは、あなたの弟君もご存じだ」
さすがは第2王子殿下。顔が広い。
「こ、これはお、弟が私を嵌めたんだ!」
「そうやって常に誰かのせいにしなくては生きられないのですか?難儀ですね。ともかく、あなたがた2人は我が王家を侮辱した犯罪者だ。みなのもの、捕らえよ!」
王太子殿下が命じると、近衛騎士たちがなだれ込んで来て、あっという間にルースとアンナを捕らえてしまった。
「ちょっと、私は何も言ってないじゃないっ!!」
そう、アンナは吠えるが。
「は?先ほどの息の合ったやりとりーー共犯ではないという方が不自然だ。それに、君たちは伴侶を無理矢理奪おうとした罪もある」
「わ、私は王族だぞ!」
「奇遇ですね。私も王族です」
そう、にっこりと王太子殿下が告げ、手で合図すれば、近衛騎士たちが容赦なく彼らを引きずり出していった。