お面の下の素顔。
夕食が終わり、寝巻に着替えさせられて通されたのは夫婦の寝室。今日から、ロイさまとここで寝るのかな。
ちょっとドキドキするけれど。
バタン、と扉が閉まる音がして顔を上げれば。
「っ!?」
そこには、口元が開いたバージョンのきつね面をつけたままの、寝巻のロイさまがーーいた。
そして何事もなかったかのようにすたすたと歩いて来て、ベッドに上がってきた。
え、何故!?寝る時も外さないの!?驚愕してじーっと見つめていたからか。やがてロイさまがもごもごと口を動かし始める。
「そ、その」
「はい、ロイさま」
「あ、う、えぇと」
「はい」
かなり緊張している。やっぱり初・夫婦の寝室だからだろうか。その割に妙に私が冷静なのは、多分この場にきつね面をつけたままやってきたロイさまのおかげであろう。
緊張もなにもかも吹っ飛んだわっ!!
「君は、その、俺の顔をどう思うだろうか」
「はい?」
いや、どう思うかという以前に、まだ一度も素顔を見たことがないんですけどおおぉぉぉっっ!?
「その、キレイな口元ですね」
まぁ、口元だけは見えているからな。
「き、キレッ、そ、その、俺の、顔は、恐い」
コワモテだということだろうか。
コワモテだからお面をしてるのか?一歩間違えればただの不審者だけども。
「いえ、コワモテは割と好みですよ?」
前世でも優男よりもちょっとコワモテな男性にドキッときたものだ。
「こ、好み、だと!?」
何かすごく驚愕されていないか?
「ですから、お面を外してくださっても、大丈夫ですよ」
「そ、その、そう、なのか」
何だかもじもじしだすロイさま。お面の影から見え隠れする黒い髪の上のくまさんお耳が何だか赤くなっているような。―――照れてる?
「わ、わかった」
ロイさまは意を決したように、お面に手を掛ける。
つ、遂にロイさまの素顔が明らかにっ!?一体どのくらいのコワモテなんだろう。
ロイさまがゆっくりとお面を外し、その鋭く切れ長な銀色の瞳で私の姿を捉える。その顔立ちは端正そのものなのだが、とにかく目つきが悪く、左目の下には1本の細い傷が縦に走っている。
キレイな顔なのだけど、確かにコワモテと言えばコワモテかも?私としては割とタイプかも。
「やっとお顔を見られましたね」
「こ、恐く、ないのか」
「ステキなお顔ですよ。割とタイプです」
「そ、そうなのかっ!」(くわわっ)
おぉっ、すげぇ。くわわっとなるとめっちゃ迫力があるぅっ!!
「そ、そうか」
何だかもじもじしつつも、ロイさまが私の手に、自分の手を重ねてくる。
「そ、その。何か希望があれば、聞くが」
「え」
「欲しい、ものとか」
「えぇとー、欲しいものは来たばかりなので、ちょっと」
「そ、それは、すまん」
「い、いえっ!」
「そ、そうだ。その、リコのーーしっぽが気に入ったのか」
「え?はい。とってもふわもふで、触り心地がよくて」
「俺のも、さ、さ、触るか」
「え、いいのですか!?」
「ふ、夫婦、だからな」
「は、はい!」
夫婦になると旦那のしっぽを触ってもOKとは、何たる好待遇!
横向きに身体をずらすロイさまのくまさんしっぽにそっと手を伸ばす。
「ふ、ふわふわ」
「う、うむ。その、きつねしっぽに比べたら、だいぶ小さいが」
「それでも、かわいいですよ」
「か、かわいいーー俺が、か」
「はい、ロイさまはかわいいです」
「そ、そうか」
ロイさまは頬を真っ赤にしながら口元を掌で覆ってしまった。あぁ、せっかくお面を外したのにもったいない。
「そう言えば、お面もきつねでしたけど」
このチョイスには何か意味が?お義母さまがきつね耳しっぽだったからだろうか。
「くまに比べて、きつねの方が恐くないかと思って」
「くまもかわいいですよ。リコちゃんもめちゃくちゃかわいいですし」
「あぁ、リコはとっても、かわいい」
「同じくロイさまもかわいいです」
「そ、そうなのか。う、嬉しい」
何だか微笑ましく思えてくる。
「そろそろ、寝ましょうか」
「あ、あぁ」
こうして、ちょっと照れてかわいいロイさまと一緒に布団の中に入ってにこりと微笑めば、うっすらとロイさまも優しく微笑んだ気がした。