「7色しずくの妖精さん」
ひだまり童話館「開館7周年記念祭」企画参加作品です。
ここは、きのこがたくさん生えている森の中。
足元には、カラフルなきのこがたくさん生えています。
そんな森に、雨が降ってきました。
ぽつん、ぽつん……。
「わーい、きのこの森だよー」
「遊びに来たよー」
お空から降ってきたのは雨のしずくの妖精さんたちです。
妖精さんたちは全部で7人。
それぞれが、カラフルなレインコートを着ていました。
ぽよん。
「きのこの森に到着~!」
「着地成功~」
「わーい!」
雨のしずくの妖精さんたちは、きのこの傘の部分にぽよんと着地して跳ねて遊んでいます。
赤いレインコートを着た妖精さんがきのこから地面に降りて、
「この赤いきのこ大きい~!」
と驚いています。
その次に、キラキラ光る黄色のきのこを見て黄色のレインコートを着た妖精さんが、
「僕とおんなじ黄色のきのこだよ!」
と目を輝かせています。
隣ではオレンジ色とピンク色のレインコートを着た妖精さんが二人手を繋いで、きのこを見上げています。
「このきのことこのきのこ綺麗ね~」
「オレンジの水玉のきのこと、ピンクのハート模様のきのこだね!」
あらあら、そんなきのこまであるのね。
水色のレインコートを着た妖精さんは、青色のレインコートを着た妖精さんと何やらひそひそお話をしています。
「うふふ、この水色と青色のきのこを僕たちの傘にしちゃおうよ」
「ふふふ、でも、僕たちもうレインコートを着ているよ?」
「いいのさ、水色と青色のきのこの傘なんてカッコいいだろ?」
「そうだね、いいね!」
そうね、きのこの傘なんてとってもおしゃれね。
1人、黄緑色のレインコートを着た眼鏡をかけた妖精さんは、虫眼鏡を片手にいろんなきのこを観察中です。
「おや?」
黄緑色のレインコートを着た妖精さんが声を上げました。
目の前の、黄緑色のきのこが半分だけ白いのです。
半分、色が付いて半分が白いのです。
「ふむふむ、なぜだろう……?」
そして黄緑色のレインコートを着た妖精さんはびっくりしました。
半分だけの色のきのこから先にある、全てのきのこは真っ白のきのこばかりなんです!
え、きのこが白いなんて普通じゃあないかって?
それだけじゃあないんです。
きのこだけでなく、周りのお花も鳥も木も、全てが色が無いんです。
ここは、カラフルなきのこの森のはずですから、おかしいんです。
「全部の色が、消えてるんだ!」
そこで黄緑色のレインコートを着た妖精さんは、他の妖精さんを呼びました。
みんな、色が無いカラフルなきのこの森に驚いています。
「おかしいね」
赤色のレインコートの妖精さんが言いました。
「おかしいね」
みんなが声をそろえて言いました。
「色が無いなんて、変だ!」
黄色のレインコートの妖精さんが言えば、
「変だ変だ」
とみんなも言いました。
「原因をさがしてみよう」
「これじゃあ、きのこさんたちが可哀想だ」
オレンジ色のレインコートの妖精さんに続いてピンク色のレインコートの妖精さんも言います。
「探検だ!」
「いや、冒険だ!」
むうっとにらみ合う水色のレインコートの妖精さんと青色のレインコートの妖精さん。
「ケンカはだめだよ!」
黄緑色のレインコートの妖精さんが仲直りをするように間に入ります。
7人のレインコートの妖精さんは円になります。肩を組んで、お互いの目を見ます。
「気を付けること、その1。危険な事はしない」
「気を付けること、その2。みんなで協力する」
「気を付けること、その3。声を掛け合う事」
そして、「えいえい、おう!」とグーの手をお空に向けました。
赤色のレインコートの妖精さんが先頭になって森の中を進みます。
次に黄色の妖精さん。オレンジ色の妖精さん、ピンク色の妖精さん、水色の妖精さん、青色の妖精さん、最後に黄緑色のレインコートの妖精さんの順番です。
雨がしとしと降る森の中はとても静かです。
だあれも、居ません。
まるで、この森の中にはレインコートの妖精さんたち以外は居ないみたいに静かです。
「誰か居たかい?」
「いいや、誰も居ないよ」
「お花さんも、答えてくれないよ」
「鳥さんもだ」
「今日は雨だから、お空も暗いし」
「雨も、強くなってきたよ」
「みんな、しーっ!」
黄緑色のレインコートの妖精さんが指を口元にあてて言います。
みんながピタリとおしゃべりを止めてみると……。
「カラフルなきのこの森なんて嫌いさー、魔女さんが色を失くしてしまおう―♪」
どこからか、歌う声が聞こえてきました。
「みんな、隠れて!」
黄色のレインコートの妖精さんが言います。
それぞれがきのこの陰に隠れると。
すいーと箒に乗った魔女が上を通ります。
「あ、あれは」
「悪い魔女だ!」
そうです、歌を歌いながら杖で次々と色を消してしまっているのはこの辺りに棲むという悪い魔女でした。レインコートの妖精さんたちは少しだけ震えました。
悪い魔女はとても強くて、敵わないからです。
「でも」
「このままじゃあ……」
「色の無い森にされてしまう!」
「どうしよう」
「どうする?」
「戦うことなんて出来ない」
「お話してみよう」
7人の妖精さんたちは頷いてお互いの手を握り合いました。
「ま、魔女さん!」
「おや、なんだい。アタシを呼ぶのは誰だい?」
魔女は小さな声に気付いて止まりました。
7人の妖精さんたちを見下ろして、魔女はニタリと笑います。
「何だと思ったら、7色のしずくの妖精たちじゃあないか。アタシに何か用かい」
「森に、色を返してください!」
「お願いです!」
「魔女さん、お願いします!」
7人の妖精さんたちは一生懸命お願いをします。
しかし。
「嫌だい! 嫌だい! なーんでそんなお願い聞かなきゃいけないんだい」
悪い魔女はプイッと横を向いて言います。
「そんなあ!」
「魔女さん何で?」
「どうして色を消しちゃうの?」
「つまらないからさ」
魔女は言います。
「アタシは真っ黒な色の魔女なのに、このカラフルなきのこの森が羨ましいんだい!」
妖精さんたちは、その魔女さんの寂しそうな様子に驚きました。
悪い魔女でも、寂しいんです。
7人のしずくの妖精さんたちは、また円になって相談します。
そして決めました。
「魔女さん」
「何だい」
「僕たちの色を少し分けてあげるから、森を元に戻してよ」
つーんと魔女はまだ横を向いています。
でも。
「本当に、色を分けてくれるのかい?」
「本当だよ!」
7人の妖精さんたちは大きな声で言います。
そして、お空に向かって叫びます。
「虹の女神さん、色を分けてくださいー!」
すると、雨が止んでお空に大きな虹が架かりました。
「赤色!」
「黄色!」
「オレンジ色!」
「ピンク色!」
「水色!」
「青色!」
「黄緑色!」
それぞれの妖精さんが自分の色を叫ぶと。
ぽちょん!
と7色のしゃぼん玉が魔女を包みます。
魔女はすっかりカラフルな魔女になりました。
「あははは!」
楽しそうに魔女は笑い声を上げます。
「約束だよ、この森に色を戻そう!」
こうして、カラフルなきのこの森に色が戻ったのでした。
めでたしめでたし。
霜月透子様・鈴木りん様に厚く御礼申し上げます。
また、ひだまり童話館に興味を持ってくださった方、このお話を読んで下さった方全ての方に感謝を申し上げます。
お読み下さり、本当にありがとうございました!