ギルド受付嬢の苦悩~常連の姿が変わり果てすぎている~
冒険者に関わる職業柄、出会いと別れは幾度も経験する。だからこそ、長く交流のある相手は貴重な存在だ。
たった今、ギルドにやって来た冒険者は、受付嬢にとっては、そういう存在であり、その姿を見て少し安心する。だが、素直にそんなことを伝えるには、お互いに気恥ずかしいので。いつも通りの声をかけようとして。
「あら、随分と久しぶりね。死んでなかっ…………いやまって、なんでそれで死んでないのよ!?」
昼過ぎのギルドのカウンターに叫び声が響いた。
ギルド受付一筋十四年、数多の修羅場を潜り抜けてきたと自負する受付嬢は、もはや腐れ縁と呼んでも過言ではない常連の冒険者の、変わり果てたその姿に思わず怒鳴った。
「久しぶりなのに、第一声がそれかよ……」
「そうなるわよ!」
なんで。
「眉間から!ノコギリを!生やしてるのよ!」
まるで脳天からノコギリでカチ割られそうになって、その途中で逃げ延びたような。しかし、出血もしておらず、まるで産まれたときから頭にノコギリが生えていた生き物のように馴染んでいる。
こんな面白人間ではなかったはずだ。
「話せば、長くなるんだが」
「そんなもん、短い話の方が驚きよ」
幸い、男の他に客はいないので続きを促す。
「ダンジョンでなんやかんやあってこうなった」
「そのなんやかんやをはしょるなつってんのよ」
舐めてんのか。
「なんやかんやの部分を説明するとだな。まず、ダンジョンでオーガの群れに遭遇したんだ」
「オーガ」
ダンジョンでは、中々遭遇することはないモンスターだ。
「珍しいわね」
「うん。だが、まあ、知っての通りそれくらいのモンスターなら、俺のパーティーなら何一つ問題は無かったんだよ」
「でしょうね」
「ごくごく順調にオーガを撃退してた訳なんだが、知っての通りあいつらタフじゃん?」
自分で倒したことはないが、オーガに関する知識としては有名なものなので、受付嬢はうなずいた。
「それで、結構時間かかっていたら、わらわらとゴブリンが湧いてきやがってな」
「うーわ」
挟み撃ちにされたのだろうか。
「ちょっとそっちに意識を割かれた隙に、オーガの大工さんにズシャッて」
「ちょい待ちなさい!大工さんって何よ!?」
「大工さんは大工さんだよ。あの、家とか作ってくれる」
聞きたいのは、そういうことじゃない。
「なんで、オーガに大工さんがいるのよ!」
「さあ?ダンジョン暮らしを快適にするためじゃね?」
男はあっけらかんと答えやがった。
受付嬢は、頭痛がしてきた。
「結構いるぞ、そういう個体。オークとか、最近は魔石を集めて魔動式ノコギリ開発してるし」
「そういうことは、ちゃんとギルドに報告しろ!!!!!」
初耳が過ぎる。魔動式ノコギリを振り回しているのか?
「で、こうなったわけ」
「一番大事なところを、飛ばすな!何で生きてるのよ!」
「分からん。さっき、うちの神官のコネをたどって教会の連中に聞きに言ったら、『奇跡的に魂がノコギリと合致してます…………………?????』って、めっちゃ頭抱えながら説明ともつかん説明をされた。教会の連中、その後半分くらいが白目剥いて倒れたんだけど、やっぱり過酷なんだなあの仕事って」
「あんたのせいよ、間違いなく」
そして、順応しすぎだ。
「これがそんなに珍しいことか?」
「これが珍しくなかったら、今頃ノコギリ頭がそこら辺に溢れ返ってるわよ」
「俺の親父、ナニのところにトンカチぶら下がってるんだけどなあ」
「あんた、どうやって産まれてきたのよ!?」
血縁