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( はぁ、なんとか僕の綺麗な純潔は守れてよかった。 )
兄さんの香ばしい部屋から何とか逃れた僕は、つかの間の平安を得たと思った。しかし、
「キャーッ ウィル様よー」
僕の周りで黄色い歓声が飛ぶ。
「な、なんなんですか、あなたたちは!?」
いや、そんなこと言わなくてもわかっている。
「あなたたち、さてはお茶友の会のメンバーですね!?」
「あら、あなたのそういうすぐ決めつけるところ、全く変わってないのね、ウィル。」
そんな僕の問いかけに応じて、彼女らの中から、僕が過去に見慣れた風貌を持つ人物が目の前に現れた。
「あ、あなたは!! アソ―カ姉さま、どうしてここに? というか、なんでこんなところにいるんですか!? だって姉さまは……」
「ふふ、そう焦らないことよ、ウィル。それはね……」
そう言って、姉さまは遠い目をして話し出した。どうやら長い回想パートに入るらしいです。
あれはそう、まだ私が幼かったとき。
ある日、父さまが私を城下町に連れて行ってくれたの。そこで見るもの、どれも、それまで城で過ごしていた私にはそれはそれは新鮮で、素敵に見えたわ。
そうしているうちに、調子に乗った私は父さまから離れてしまったの。そして、そこで悪い奴らに誘拐されてしまった。
そうね。護衛も何も助けに来てくれないんだもの、長い時間牢屋の中で過ごしたわ。いくら王都と言っても、どこかしらに抜け穴があるんでしょうね。
でも、私はあきらめなかった。だって、絶対に誰か助けてくれると思っていたんだもの。
そして、一か月ほど経った頃かしら、いくら粘っても父さまが身代金を渡さないから、誘拐犯はとうとう私を国外へ売りつけることにしたの。
さすがにこの時はまずいと思ったわ。なにせ、奴隷制を導入している国なんかに売り飛ばされでもしたら、命がないもの。
そして、私が国を出る前日、私は初めて本心から祈ったの、誰か助けてってね。
そしたら、その夜、お姉さまたちに出会ったの。
まさに、運命の出会いだったわ。お姉さまたちは誘拐犯たちを倒すと、優しく私を保護してくれたの。
そして、お姉さまたちは私を家に送り届けようとしてくれたんだけど、身代金も出してくれないんですもの。私はラメー家を出ると決めたわ。最初は困惑していたお姉さまたちも私の意思が折れないことに気付くと、しぶしぶ彼女たちと住むことを許してくれたの。
それからというもの、私はこちらにいらっしゃるお姉さまたちと王都の西部でひっそりと暮らすようになったの。
( そ、そうだったのか… )
今の話を聞いて、僕の幼いころからの疑問が解決された。
「ね、姉さま、大変だったんですね…」
急に姉が死んだと聞かされて、涙したあの悲しい思い出よりも、今は姉が無事に生きていたことの嬉しさが勝っていた。
「まったく、ウィルったら。」
ぽろぽろと落ちる僕の涙を拭って、姉さまが笑いかけてくる。
「姉さま――!!」
僕は、空白の10年間を埋めるように、姉さまの胸で泣いた。
( あれ、でもなんでそんな姉さまがここに……? )
たくさん泣いたことで頭がすっきりした僕は、あることに気付いた。
「姉さま、そういえば、なんで家を捨てた姉さまが王城にいらっしゃるのですか?」
僕は姉さまに抱き着いたまま、質問した。貴族ではない者が王城に入る手立てなんて、普通はないはずなのに。そして、先ほどまで僕の頭を優しくなでていた姉さまはその手を止め、もう一度、その両手で深く僕を抱きしめ直した。
「いいのよウィル。もっとお姉さまの胸で泣きなさい。」
「そ、それはありがたいのですが、そろそろお胸が汚れてしまいますので…」
頭が冴えてきたことで、先ほどまでの自分の行動が恥ずかしくなってきたのだ。それに、周りの香ばしい香りのする御令嬢たちも見ているし。
そのとき、僕はその御令嬢の一人と目が合った。
「ッキャ♡」
( ……っは! )
僕はそこで気が付いた。その御令嬢の口元には、よく見ると、たくましい青いぽつぽつがあることに。
「ね、姉さま! こ、この御令嬢たちって、まさか……」
未だ僕を強く抱きしめてくれる姉さまがほほ笑む。
「そうよ、お姉さまたちはお兄様でもあるの。」
( えぇーーーーーーー!! )
僕は勢いよくのけぞろうとした。
( っぐ )
しかし、思いのほか、姉さまの抱擁力が強く、腰が折れ曲がったような姿勢になる。だんだん姉さまの思惑がつかめてきたぞ…
「姉さま、離してください。僕ちょっとこれから用事があるので。」
「いやダメよ! あなたは王子と寝てもらうんだから。」
「っひぃ!? やっぱりそういうことだったんですね!!」
姉さまに抱き着く前に、もっとよく考えておくべきだった。王都の西区の奥。そこに眠る、王様すらも目を背ける集団の噂を…
「気付いたみたいね。そうよ! 私たちは、日夜、夜のおかずたちを求める知的蒐集集団、クレイターヅよ!」
「ク、クレイターヅだって!? あのお茶友の会に対抗するためにできた、超過激派集団の!?」
「そうよ。」
「街で見かけたら、生き残る男はいないと言われている!?」
「そうよ。」
「ことあるごとに警備隊に捕まりそうになるが、逆に襲い掛かり今では男の警備員が少ない理由となり、常にお尋ね者の?」
「そうよ。っていうか、質問多すぎ! あと最後、別にお尋ね者じゃあないわよ!!」
そうか、僕の知っている姉さまは、空白の十年の間に香ばしい香りがするようになってしまったのか。先ほどよりも身の危機を感じて、僕は思い切り姉さまから後ろに飛んだ。
「やるわねぇ。でも、そう簡単には逃がさないわよ!」
勢いあまって転びそうになった僕の肩に、たくましい手が差し出された。僕が姉さまから目を離し、そっと、後ろを振り向くと、やけに胸が盛り上がった、お兄さんたちが笑いかけていた。
「っく、離してください、あなたたち!」
「いやねぇ、そう緊張することもないのよ、ウィルさま♡」
当然ながら、姉さまよりも強い力で肩をホールドされている。気付けば、僕の頬に先ほどとは異なる涙が流れていた。もう逃げることはできないのかもしれないと思い、自分の運のなさに絶望した。
「どうしてこうなるんだ! 家も追い出されるし、王子には誘拐されるし……」
僕は今までの理不尽を叫んだ。すると、僕の悲痛な助けを求める声が届いたのか、救いの手が扉から指し伸ばされた。
「どうしたんだい、ウィル? はっ、何をやっているんだい、君たち!!」
部屋の中から香ばしいベイル兄さんが全裸で現れる。
「まぁまぁまぁまぁまぁ!!」
その異常な光景に早くも適応したのか、僕を囲んでいるお兄さんたち一向の視線が、兄さんのあられもない姿に向かう。
「き、貴様ら! なに僕のあられもない姿を見つめているのだ!! おい執事、剣をよこせ!」
「キャァーーー、剣をよこせですってよーーー」
全体の目が完全に王子に向いたことによって、僕の拘束が解かれた。
「おい、待て! くそっ、貴様ら覚悟しろよ!」
そう言って、兄さんが手当たり次第に剣を振りまわし始める。
あの人数じゃ、兄さんと執事の人ではどうやっても勝てないだろう。僕は彼らを犠牲にして、走り出した。
あと、執事の人、部屋の中に居たのなら、僕を助けようよ……