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結ばれない赤い糸

作者: ヒツジの恋人

これは短い私の物語。叶わない恋の話。


*****


「あー、もう24歳よ?周りの友達は妊娠だとか彼氏だとか結婚だとか…」

バンッ…

私はコップを机に叩きつけるように置いた。

「まぁ、それは仕方ねーじゃん?」

「そーそー」

いつもの飲み仲間4人組でいつもの酒場に来ていた。月末の金曜はいつも集まるのが習慣になっていた。

「あー、恋その辺に落ちてないかなぁー?」

「恋しても結局叶わなきゃ意味な…ゴフッ」

そう言った航太に横にいた宗哉が頭を叩いた。

「麻里は結局いつ結婚すんの?6年付き合ってる彼氏と!」

私の横に座ってる麻里は高2の頃から付き合っている彼氏がいた。確か今でちょうど6年くらいだったはず。

「あー……実はね、ちょうど1週間前に別れたんだ(笑)」

『……は!?』

3人で口を揃えて叫んでしまった。

「え、ちょ、え??6年も付き合って?意味わかんないんだけど」

「それは私も言ったよ?でも…なんか1人の女しか知らないのがちょっとみたいなこと言われて…他の女知りたいから別れよとか言われちゃって…」

「うわ、なにそれ。最低じゃん」

「お前がそれを言うかよ、女とっかえひっかえのくせに…」

「えー?」

宗哉は高校の時女をとっかえひっかえだって学校の中でもかなり有名だった。

私たちは偶然同じバイト先になった歳のバラバラなメンツだった。私は24歳、宗哉と麻里は23歳、航太は22歳でたまたまみんな同じ高校だった古い仲だ。だからそれぞれの事はそれなりにわかるという感じだった。

「まぁ…じゃあ今日は麻里の失恋会ってことで!かんぱーい!!」

「えぇ、それ祝うこと?はぁ…ま、いいや!かんぱーい!」

私たちはその後ワイワイして盛り上がったあと、それぞれの電車に乗って帰っていった。

次の日…

「はぁ〜…」

「香夏子ちゃん、どうしたの?ため息なんてついてー!せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうぞー?」

「あ、はは、すみません…」

きも…なんだよ、なっちゃうぞ〜?って。

私は思わず職場の上司の台詞に心の中で突っ込んでしまった。この仕事場は男が多い。ただ男と言っても中年からもう歳のある程度いったおじさんばかりだけど。

年下は好きじゃないけど、年上って言ってもここまで歳いくと恋愛対象外なんだよなぁ…

私は上京と同時に付き合っていた彼氏と別れ、社会で新しい年上の彼氏を作ろう!と思っていた。だが、職場は見ての通りのおじさんばかり。

「出会いなさすぎ…」

私はボソリと呟いた。

少しずつ周りの友達に置いていかれていくのを感じ危機を感じて合コンに行ってばかりの時期もあった。しかし…来るのは冴えない男ばかりだった。

「はぁ…」

今日もパソコンに向かい仕事をこなす。

「香夏子ちゃーん、今日この後飲みとかどう?」

ちょくちょく声をかけてくる上司にもそろそろうんざりしてきた。

「すみません、今日は女友達と約束を先にしておりまして…」

「えー!釣れないなぁ…まぁ、じゃあまた今度ね!」

今度なんかねぇよ…何言ってんの、このじじい…

「はーい、じゃあ、お先に失礼します!」

「おつかれー」

こんな仕事をただ毎日のように続け、月末に集まる仲間との飲みが私にとっては唯一の楽しみになっていた。


*****


なんだかんだ、1ヶ月後の飲みは私や宗哉の仕事が忙しく時間が取れなかったため、みんなで集まるのは2ヶ月ぶりとなった。

「あー、今日も疲れたぁ…」

「お疲れ様、香夏子先輩」

先に着いた航太が私の頭をぽんぽんと軽く撫でた。彼はとてもいい子で、優しい気の利く子だ。

「つか、2人おそっ」

「それですよね、ほんと…って来ましたよ!」

いつもはバラバラに集まる4人組なのに珍しく今日は麻里と宗哉が一緒に来た。

「珍しいじゃん、2人が一緒に来るなんて…」

「麻里、宗哉に変なことされなかった?大丈夫?」

「おい、俺への扱い雑すぎじゃね?」

『…まぁ、宗哉だしね…』

私と航太は口を合わせて言った。

「ひどっ!!」

そう宗哉がいうと私たちは笑った。

「ほら2人とも座りな!」

「あ!そういえば、大事な報告あんだよね」

「あ?航太の大事な報告とか絶対大事じゃねぇ…」

「間違いない…」

航太に対して辛辣な私と宗哉。

「まじでひどすぎね?(笑)」

「だって…ねぇ?」

「うん」

「ねぇってなんだよ、ねぇって!んで、大事な話ってのがー、実は…」

航太は少し言葉を溜めるとニヤッとした顔で私たちに言った。

「俺たち、付き合うことになりましたっ!」

『……は!?』

「えぇ、ま、麻里、こんなやつでいいの!?」

「いや、まじ別れるなら今のうちっすよ」

「いやお前ら辛辣すぎな?」

意外だった。バイトの時もあまり話したことの無いような2人が…この2ヶ月の間に何があったというのだ…

私は驚きが隠せなかった。しかしそんな私に対し、麻里は少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうな顔をしていた。

「…」

少し羨ましかった。

今回の飲みは麻里と航太の2人の話を聞いているとあっという間に時間が過ぎていった。

「よーし、帰るかぁ…」

いつも通り時間になり、勘定を済ませると私たちは店を出た。

「んじゃ、俺らはここで!」

そういうと航太は麻里の手を取り、そさくさと歩き出した。

「え、ちょ、航太…!!ま、またね!香夏子ちゃん、宗哉くん!」

「え、うん、またね!」

「ばいばーい!!」

私たちは2人の仲良さそうな背中を見つめて、人混みに紛れて見えなくなると電車の方へと向かった。

「じゃ!俺お先に!」

「うん、またね!」

宗哉はぶんぶんと幼い顔で手を振ってホームへと走っていった。私はしばらくその場に立ち尽くした。そしてしばらくして置いていかれるという焦りにぶわっと駆られた。

「…」

ダッ…

駅近くでやっている占いのおばさんに1000円を机の上に叩きつけると「占ってください!」と私は言った。

「なんのう…」

「恋愛運でお願いします!!」

おばさんの声をかき消し、勢いよく私はそう即答した。さすがのおばさんも苦笑いしていたけど。

「うーん…お姉さんは1週間以内にきっと運命の人と巡り逢えるよ」

「どこで!?」

「東京都内でだねぇ」

ざっくりだな。

「いつ!?具体的にいつなの!?」

「ちょうど1週間後くらいだねぇ」

うん、ざっくりだな。

「どんな人!?どんな感じの人なの!?」

「歳が近くも離れすぎていない優しい穏やかなオーラをした人だねぇ」

今度はふんわりしすぎ!!オーラとかわかるかい!!

「それ以上は言えないねぇ。あんたも巡り逢えばわかるよ」

そんな大雑把なこと言われても…

私は少しがっかりしたような、でも運命の人との出会いをとても楽しみにしてその場をあとにした。



*****


ちょうど占いをしてから1週間という時間が経ったある日のこと。

部長にすごい量の酒を飲まされて二日酔いやばい…

ガタンガタン…

やばい、電車の揺れ気持ち悪い…

ガタン!

グギッ…

強い揺れと同時に足首を捻り、私はよろけてしまった。

「っ!」

やばいっ…!これ、倒れー…

ボスッ…

私は近くの人にぶつかってしまった。

パッ!

「す、すみませ…!」

「いえ、大丈夫…ですか?」

身長は180くらいあるだろうか、少し大柄な男の人が私を心配そうに見ていた。

「だ、大丈夫…うっ…」

「えぇ、あ、次の駅で降りましょう…!」

私は次の駅にその男の人と降りた。彼は降りてすぐさま私を駅の椅子に座らせると「どうしたんですか?」と聞いてきた。

「すみません、昨日飲みすぎて…」

「なるほど…」

そういうと彼は立ち上がりパタパタとどこかへ走っていった。そして数分後に何か袋を持って戻ってきた。

「これ、二日酔いの薬と水です」

「すみません…」

見ず知らずの人に薬買ってきてもらうなんて…申し訳ない…

「いえいえ、僕が勝手にやったことなので気にしないでください!すごくしんどそうだったので…」

「えぇ、ほんと誰でもいいから助けてくれってくらいしんどかったです…」

「どうしてそこまで飲んだんですか…?」

「部長にグイグイつがれて飲まされてしまいまして…」

「あぁ、それは仕方ないですね…」

彼はそう言って私の横に腰をかけた。

「あ!すみません、引き止めてしまって!!これから仕事なのでは…」

「あぁ、大丈夫ですよ、夜勤からやっと帰ってきたところなので(笑)」

私は「えっ」と思わず声を漏らしてしまった。

「ならよかったです…まぁ、私は遅刻していくのでいいですが…」

よくよく見ると大きな体のわりに物腰柔らかくておおらかな感じ…話しやすいし…これが世の中で言うくまさん系男子…なのかな?何歳くらいだろう…30代前半くらいかな?

「あ、あともう一ついいですか?」

「え?」

そう言うと彼は袋から氷袋らしきを取ると私の右足を靴から外した。そしてハンカチ越しにその袋を足首に当ててきた。

「えっ」

「さっき電車の中で足くじいたでしょう?」

「あっ…」

「内反捻挫って軽い症状なんですけど、こういう捻挫ってあとあとに響くんですよ、少しでも冷やしておいた方がいいので…しかもヒールでしょう?」

「…」

ぼーっとその様子を私は見て少し驚いた後に口を開けた。

「えっと…お医者さんですか?」

「いえ、看護師してるんですよ」

「あぁ、それで…」

それでか…と納得した。こんな会ったばかりの人に足触られるなんて普通なら気持ち悪いはずなのに…

「でも初めて見ました、男の看護師さんなんて」

「そうですね、職場も女の人多いですから(笑)」

そう言い、ははっ笑う顔がとても可愛らしかった。

しばらくして私たちは立ち上がった。

「本当にありがとうございました…!」

「いえいえ!それじゃあ僕はここで…」

「えっ…」

「はい?」

てっきり連絡先くらい聞いてくるかと思ったけど…普通に帰っちゃうのか…え、というか、親切心だけでここまでしてくれたの…!?

「え、あ、いえ…」

ハッ…!

「お姉さんは1週間以内にきっと運命の人と巡り逢えるよ」

…これ、運命なんじゃない…?だってドラマのような運命的な出会いよ!?しかもピンチを救ってくれた…さらにあのおばさんが言っていた優しい穏やかなオーラをした人!私には見えるぞ…!そんなオーラが!!

この人が…私の運命の人…!!!

「あ、あの、もしよろしければ……」

私はこの時は思わなかった。この先こんなにも悲しい運命が待っているなんて。恋の始まりなんて大体が思い込みから始まるもんだ。私は…後で泣くほど後悔した。この運命的で悲劇的な出会いを。そして恨んだ、あの占い師のおばさんを。


*****


「え、それで連絡先を交換したの!?しかも香夏子から!?」

「うん!」

私は今日2週間ぶりに麻里と会い、ガールズトークを弾ませていた。

「その行動力かっこよすぎて憧れるわ…」

「でしょ?だって運命を自分から掴みにいかないと逃げちゃうと思ったんだもの」

「え、で、で!どんな人!?写真は?顔写真ないの?」

「LINEのアイコンが本人だったかな…ほら、これ!」

私はスマホを操作するとアイコンの写真を麻里に見せた。

「うわ、なんていうか…ほんわかしてて優しそうな人…」

「でしょー?」

「年上?」

「そう!これで35歳なんだってさ!」

「え、若く見える…」

「でしょ、私も聞いた時驚いたよ。30歳か31歳くらいにしか見えないもの…!」

「でもやっぱり結婚するなら年上がいいなって思ったの!!」

「おぉ、もう結婚まで考えてるの?(笑)」

「いいでしょう?包容力も経済力もあるし、大人な余裕もある!理想的!!」

「まぁ、確かにね?」

麻里は「人によると思うけど」とも笑いながら私にスマホを返した。

「いい人そうじゃん、いいパパになりそう(笑)」

「もぉー、気が早いよぉ。でもまぁ、土曜にご飯行ってくる…!」

「え、さっそく!?行動力半端ないなぁ(笑)」

「もちろん!幸せは自分から掴んでいかなきゃ!」

「頑張ってね!」

「うん!」


*****


私はこうして彼と何度か食事を重ねていった。

「あれ?髪切った?」

「はい、少しだけ」

彼はよく気がつく人だった。

「あれ、そのネイル可愛いね」とか「今日髪巻いたの?おしゃれだね」など、少しした違いも口に出して褒めてくれた。

可愛い褒め方に私も少しずつ「いいんじゃない!?」と言う期待を高めながら彼と会話をしていった。

「あれから毎日連絡してるけど、こうして改めて会うとやっぱりちょっと恥ずかしいね」

「ふふ、そうですね。というよりは毎日連絡してしまってすみません」

「え、いいよ!大丈夫」

「お仕事の邪魔とかにもなっちゃいますよね、もう少し控えますね…!」

「えぇ、そんなことしなくていいよ!君との連絡が毎日の疲れを吹き飛ばしてくれる唯一の幸せなのに(笑)」

彼はそう言うと少し照れくさそうに笑った。

可愛い人。

彼との毎日の連絡は私にとってもとても幸せなものだった。

「今週の『〇〇は金曜日に』見た?」など私の好きな話題も出してくれたり、私がオススメしたお店や本などをチェックしてくれたりなど、私に丁寧に向き合ってくれ、会える時間がとても楽しみだった。

彼との時間は2週間に1回会えるか会えないかくらいだった。お互いの仕事のことを考えると当たり前だ。彼は不定期な休みで私は土日固定の休みの人。会えるのは稀だ。そんな食事をたまに行くという関係は3ヶ月もの間続いた。

この人とこれからも一緒にいたら…こんな風に穏やかで幸せな気持ちになれるのかな…?好き、すごく好き、大好き…でも……

決して彼は私をお持ち帰りすることは無かった。

少し腕にしがみつくだけで耳まで赤くさせるほどピュアな反応をし、「忠史さんのそういうところ好きですよ」というと大きな体をすぼめて恥ずかしそうな顔をする。

くそぉ、可愛いかよ…!!!

「よし、じゃあもうそろそろ帰ろうか」

「はぁ…」

私は小さくため息をついた。

この人にならお持ち帰りされたっていいのに…ホテルに行かれたってついて行ってもいい。脈が無いわけじゃなさそうなのに…なんでだろう…

「きゃ…」

私はわざとドンッと彼の背中にぶつかった。

「飲みすぎちゃったかも〜…少し腕に掴まってもいいですか?」

「い、いいよ?」

大きな体が少し強ばるように力が入るのがわかる。また今日も耳まで真っ赤にして彼は少し私から目を逸らす。

「い、いつでもしんどかったらいいなよ?タクシー呼ぶから…!」

あー、もう、好き…どうしよう…

「忠史さん…家まで送ってくれませんか?」


*****


ギシッ…

「あ、あの、香夏子ちゃん…逆じゃない?これ…」

「逆になってくれるんですか?」

家まで着くと忠史さんにベッドまで運んでもらった。そして私は彼を…押し倒した。

「香夏子ちゃん、飲みすぎたのかな?水飲んで1回落ち着こう?」

「確かに酔っ払ってるけど、落ち着いてますよ?」

彼は顔を真っ赤にさせてベッドの上で私に押し倒されて慌てていた。

「忠史さん…好きです。結構前から。惹かれちゃったんです」

私は彼の目を見つめた。そして彼との距離をつめた。

「香夏子ちゃ…」

彼はもう少しで唇が重なり合うところで顔を背けた。

「……私じゃ、ダメですか?」

「いや、違うんだ。ダメとかじゃ…」

「じゃあなんで…!!」

「ただ…そう…君に言っておかないといけないことがあるんだ…」

彼はそう言うとそのまま俯き、顔を手で覆うように隠した。

「僕…実は結婚してるんだ…」

「………は?」

「ごめん」

「結婚?」

「はい」

「既婚者なの?」

「はい…」

「奥さんいるの?」

「はい…います…」

はぁ??

「ごめん…もっと前に言うべきだったのかもしれない…」

「かもしれないじゃないでしょ!」

「ごめん…でも知ったら会ってくれなくなるんじゃないかって…それで怖くて言えなかったんだ…」

え?何言ってんの?結婚?既婚者?てか怖いって…いやいや、そういう以前の問題でしょ。

「…なんかの冗談?」

「本当です…」

「だって彼女いないって…」

「彼女はいないけど奥さんはいるっていう…」

「あー、なるほど、そりゃ確かに彼女はいないなぁ…ってなるかぁ!!!」

うん、ならねぇよ。

「彼女はいないけど妻はいるってゲス極めてんじゃないわ!このタイミングで『奥さんはいる』ってよく言えましたね!」

「ごめんなさい…」

「大体奥さんいるなら部屋に初めから上がってくんなよぉ!!」

「ごめ…」

「いい歳してそんなこともわかんないの!?私の事遊んでたわけ?期待させて楽しかった!?」

「それは違う!!」

彼はバッと手をのけて私の目を見た。

「何が違うのよ…!」

「僕も香夏子ちゃんが好きだから…!!!」

……は?

「え?だから?」

「えっと、だから僕……いや、ごめん、なんでもない…最低だ、僕…」

そういうと彼はまた私から目を背けた。

本当だよ…奥さんはいるけど私のことは好き。つまり奥さんがいるけどそれでもいいならってこと…?ふざけんなよ…

「…ねぇ」

「……」

「……ねぇ、私の目を見て?」

「…ん」

そう言うと彼は気まずそうに私の目を見た。

「…ねぇ、本当に私のこと好き?」

「…!」

彼は一瞬驚いた顔をしたが、「…うん」と私の目を見てちゃんと答えた。

「香夏子ちゃんのことが好きだよ…」

……こんなの、こんな運命なんて…酷すぎるよ…

本当にとんだ「運命の人」だな。

でも手を出す前に言ってくれただけ誠実なのかな?そんなわけないのに、そんなフォローをしてる自分に1番私ががっかりしてる。

不倫に誠実もくそもねぇよ。バカ…

それでも好きという気持ちが抑えられなかったんだ。

私は涙を流しながら、彼と唇を重ねた。


*****


不倫なんてテレビの向こうの話だと思っていた。不倫なんてなんも生まない。不倫の間に愛なんてない。不倫したって誰も幸せになんかならない。そう思っていた。

カチッ…カチッ…カチッ…

私は時計の音と共に目を覚ました。横にはスヤスヤと寝息を立てて寝ている忠史さんがいる。

パッと時計を見ると23時を針が指していた。

「忠史さん!たーだーふーみーさんっ!」

「ん、んんっ…」

「23時ですよ、帰らないと電車なくなりますよ」

「ん、あ、あぁ、ありがとう」

私はあの後、彼と体を重ねた。

服を着替え終えると彼は持ち物を持って玄関へと向かった。

「忘れ物ない?道わかる?」

「ん、大丈夫」

玄関へと向かうと彼が私の方を向き、ぎゅっと抱きしめてきた。

「少しだけ…ほんの少しだけこのままでいい?」

…ずるい男だ。彼女でもない女とヤった後だと言うのに、何食わぬ顔で奥さんの待つ家に帰るのだろうか。

「…よし、じゃあまたね」

「うん、また…」

こんな「またね」という言葉にすら喜びを感じるなんて…ほんと不倫してるのに…最低だな、私…


*****


それからというもの…

ガチャ…

「ただいまぁ〜…」

「おかえり」

彼はたびたび私の家に来るようになった。

そして迎えてくれる。

「今日はご飯なににする?チャーハンにでもしようか、材料あるし!」

「また?好きだね、チャーハン(笑)」

私たちはこんな関係を続けている。

いつまで隠し通せるかなんて分からない恋愛を私はしているのだ。

「今度友達とのパーティーで何着よう?」

「…合コン?」

「そ!この服どう?地味?」

「いや?可愛いと思うよ」

「んー…」

「この間遊んだ時に付けてたイヤリングとネックレスあるでしょ、あれつけていけば?」

「どれ?」

「ほら、これ。この間スケート行った時に付けてたやつ」

…よく覚えてるな。

「あー…いいかも」

しかもいいチョイス。

「……私が合コン行くって言っても怒らないの?」

「別に怒らないよ?そりゃ、行くのは嫌だけど…僕にそこまで言う権限なんて何も無いしね…」

そういうと彼は少し寂しそうに笑った。

「…」

…行かないでって言ったら、行かないのに…束縛をあえてしないとこもずるいとこだ…

本当のことを言うなら束縛されたいとは思う。けれどそんなこと奥さんがいる彼に言う勇気もなかった。

こんな人に奥さんは帰ってきてご飯を作って待っているんだろうか?おかえりって私とキスしたその口で言うのだろうか。そう考えていると無性に切ない気持ちになった。


*****


友達は結婚した。またほかの友達は子どもができた。またほかは別れて2ヶ月で彼氏を作った。

置いてけぼりな感じ、やだなぁ。

ママ友2人に会いに行ってこの話をした。

「うわ、ゲスいねぇ…」

「やばすぎでしょ、かな」

「いやいや、慰謝料とか払わないといけないとか考えたら絶対やめといた方がいいよ?」

「だよねぇ…」

「てかその人子どもいないんだっけ?」

「だからバレてないんでしょ、たぶん」

「うん、だと思うよ」

「でもなんかみんな幸せそうでいいなぁ…いっそ彼が離婚して私のとこ来てくれればいいのに」

一瞬その場にピキっと冷たい空気が流れた気がした。

「……うわぁ、でもいいなぁ…それくらい好きって思える人がいるのって」

「そうね、今しか出来ないんだし、楽しめればいいんじゃない?」

私は「今しか」という言葉が胸に突っかかった。

そう今しか出来ないんだ…いつか終わる。

彼は奥さんと「別れる」とかそういう話を言ったことはないし、きっといつか別れよって言われるのは私なんだろうなと思う。

「……」

私はその後少し学生時代の話などをし、ワイワイしてから夕方、家へと帰った。

「会いたい…」

ふとそう思った。

私は気づくとスマホで彼に「会いたい」とメッセージを打っていた。

『どうしたの?』

『なんか急に会いたくなった』

『んー…』

『会いたい!すごい会いたい!今すぐ会いたい!めちゃくちゃ会いたい!』

『寂しがり屋か!』

彼はそう打つと「なんでやねーん」と書かれたスタンプを送ってきた。

「ふっ…はぐらかされちゃったか…」

いつか終わる恋。実らない恋。叶わない恋。いつかきっとやめないといけない。でも…

私はやめられるのだろうか?抜け出せるのだろうか?この恋から。

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