第1章 赤雷との邂逅
はじめまして。
数年ぶりに創作意欲が湧いたので書いてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。
※一部改稿しています。大筋には影響ありません。
いつもと変わらない朝。俺、降谷一海は自分の席である一番後ろの窓際の席に着いた。いつの時代も一番人気の特等席だがその周りの友人たちは特別ではなかった。
「なぁ一海!昨日のあれ!CCC観たかよ!?観たよな!?すごかったよな!?」
「まさか日本ランカーがベスト8まで残るなんてね!いやーお陰で僕、興奮して眠れなかったよ!」
「朝から元気だな、二人とも」
最初に声をかけてきたやけにテンションの高い、本人曰くぽっちゃり体型なのが宮西、ついで話しかけてきた一人称が僕で細身で眼鏡をかけているのが羽場だ。この二人は俺の数少ない友人で、入学した頃からの腐れ縁だ。
彼らの興奮の元ネタは、昨夜放送されたCCC、コントラクターカードコロシアムの世界大会だろう。【探求者】と呼ばれる彼らが使役する従者同士を闘わせるこの新しいスポーツ(と定義していいかは若干の議論を呼ぶが)は誕生してまだ四半世紀ほどだが世界的に大人気であり、放送されればその視聴率は異常な数値を叩き出す、所謂モンスターコンテンツである。
「おま!なんだよその淡白なリアクションはよぉ!これはCCC始まって以来の快挙だぞ!?お前も大好きだろ!?もしかして観てないのか!?」
いや、俺もCCCは大好きだしそれが誰もが注目する今回のような世界大会だけでなく日本大会はもちろん、世界各地で開催されている大会もわざわざネット契約して観戦している。そんじゃそこらのにわかと一緒にされては困る。困るが、今はそれを大きな声で論評する気はない。何故ならーーー
「おっすー洋一!今日は遅かったなぁ!もしかして寝不足か!?」
「あぁーおはよう石橋くん。うん、昨日はCCCの世界大会テレビで放送されてからね。しかも日本人が出てたらかついつい最後まで観ちゃってさ。そしたら寝るのが遅くなっちゃって」
「やっぱり洋一も観てたか!?っで、どうだった!?同じ【探求者】から見て昨日の試合は!?感想聞かせてくれよ!ネットじゃすでにこの大会のベストバウトにノミネートされてるぜ」
あっという間にクラスの中心に大きな輪ができる。その中心にいるのは成績優秀だが運動は大して出来ず、根暗な性格で孤立しがちだったはずの君塚洋一だ。その彼に明るく声をかけたのが石橋純一だ。容姿も良く、加えて全国大会常連のサッカー部の二年生エースにしてプロ契約間違いなしとまで言われている、学園内外に多数のファンを持つモテ男。
「私も観てたんだけど、なんかすごい激闘だったのはわかったけど、どの辺がすごかったのかわからなかったな。プロから見てどうだったのさ?」
安室真純。男子は石橋の一強だが女子は二強でその一角を担うのが彼女である。外ハネしたショートカット。祖母が外国人のため日本人離れした容姿。可愛いというよりカッコいいボーイッシュな女子だ。運動神経抜群で特定の部活に所属していないが助っ人として大会を荒らし回っているとかいないとか。でもアホな子でそのギャップが人気を呼んでいる。
「昨日の日本人探求者、毛利修造さんはCCC専門で使ってたカードは金級の【翼竜ワイバーン】。相手の人が使っていたのは同じ金級だけど【獣人ワーウルフ】。空を飛ぶワイバーンに対してワーウルフは飛ぶ術を持たないからね。一方的な試合展開
なると思ったけど相手の人は塔にも登る人だったみたいで、その時に空を飛ぶ敵との交戦経験があったんだろうね。いろいろ対策して挑んだんだよ。だから本当にすごいのは勝った修造さんじゃなくてその相手の方。まぁ日本のメディアは日本初のベスト8で大盛り上がりだからこう言う記事は出ないと思うけどね」
君塚の物知り顔の解説を小耳に挟みながら、俺は恨めし気な視線を彼らに向ける友人二人に顔を向けた。
「俺達がいくらここで感想戦をしても、【探求者】君塚の話の方が盛り上がるだろう。まぁそれが例えネットに書いてあるそのまんまだとしてもな」
「あら、じゃな貴方から見て昨日の試合はどうだったのかしら?聴かせてくれる?」
「初めから毛利選手はわかっていたのさ。相手が対空中戦の対策をしてくることを。ワーウルフって言うのは他の獣人系と比べて跳躍力が高いんだ。武器にもリーチのとれる槍を持たせていたからな。飛ぶ相手を地上に落とすために翼を狙うのは定石。だけど毛利選手はそれがわかっていたから基本は地上戦に徹して『体格差』で敵を消耗させてここぞの場面でしか空に飛ばなかった。激闘に見えたのはワイバーンが普段しない地上を主体に戦ったから。だからその派手な戦いであと一歩に見えた試合も実は毛利選手の圧勝。これは次も期待できそうだ」
「なるほど。それが貴方の見解かしら?」
「はぁ?こんなこと観てればわかるだろ。実際に相手を褒めるような発言をしているのは日本くらいで、世界的には大半が毛利選手の立ち回りを賞賛する声がほとんどだ」
「そう・・・フフ、朝からいい話が聴けたわ。ありがとう、降谷君」
聴きたいことは聴けたとばかりに会話を終えると鞄を自席に置くと君塚達の輪に入っていく女子生徒。彼女こそ安室と対を成す我が校の女子二強の片割れ。その名をーーー
「おい!一海!またこそこそ神月さんと何話してたんだよ!?つかなんで神月さんのような女神と一海が会話しているのだ!?抜け駆けか!?俺たち三馬鹿を裏切る気か!?」
「そうですよ一海君!と言うかいつから神月さんと話すようになったんですか?僕たちにも紹介してくださいよ!」
神月哀。肩口まで伸びた黒髪と凛とした容姿。制服を着ているのに年不相応の色香を放っている。才色兼備を地でいく彼女はその学内どころか全国模試で毎回一桁順位に入っている。スタイルもいいことからモデル事務所に所属しており、石橋と同じく学園内外にファンを多数抱えている。唯一の弱点は運動が苦手ということくらい。そんな人気者の彼女が何故日陰者の一人である日陰者に声をかけてくるのかと言うと。
「わからない。気付いたら話をするようになった。なんでだろうな?」
彼女と話すようになったきっかけはどこかにあったはず。心当たりがないわけでもないがそれはあくまで店員と客の関係だった。こうして学校で気付いたら話すようになったのは春休みが明けて、二年生になってから。
「だからと言って何もないけどな。ほら、見てみろ。彼女の居場所はこっちじゃなくて向こう。日向側だよ」
たとえ毎朝少し話そうと。席が隣で時々CCCの話をしたりしていようと、実は連絡先を交換してやり取りしていようと、そんなことで交際関係に発展することはないと俺は思っているし、そうなりたいと思うのは思い上がりだ。身の丈に合わない。
「俺には過ぎた人だよ、神月は・・・」
ぼそっと呟くが、友人二人には聞こえなかったようだ。その後俺たちは君塚のどこか的外れを評論を小耳にはさみつつ他愛のない会話をした。それは担任が現れるまで続いた。
おそらく俺たちのいる学校に限った話ではないはずだ。学校と言う世界は社会の縮図。陽のあたる場所で常に中心に立ちクラスを引っ張る主役たちと、陰の側に立って日向を羨み、誰にも見向きもされず、数少ないが中には思い(苛立ち)のはけ口にしてくる者もいる。この最下層にいる現状から打破するにはこちらも陽のあたる場所に立たなければいけない。
鬱陶しいと思うことはあるが別段困っているわけじゃない。だが気に食わないことはある。それは俺自身の夢を馬鹿にされているように感じるからだ。なら、この苛立ちを消すには俺自身が日向に立つしかない。その手段はあって、すでに前例もある。まぁ宮西や羽場に言わせれば『博打』『二番煎じ』要素が高いが、それでも前例(君塚)にはない確固たる理由がある。
だから俺は今日、【探求者】となる。
ご精読ありがとうございました。
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